第2話
家、っていうか、週末は実家なんだよね。
もともと仕事が生きがいとはならない割には人生の時間をかなり蝕んでて、働き方改革とか一億総活躍とか色々と言われてたけどとどのつまりは仕事をよりよくやりましょうって方向に動いて。
わたしが経営者でもそうするし現にわたしの小さなシマでは『残業減らして。効率上げて。ゆっくり休んで』なんて言語回路が知能を失ったAIに任せてるみたいな指示をわたし自身が課員に出してる。
よく暴動が起きないよね、ありがとう、わたしの可愛い課員のみなさん。
こんな風にわたしは常に脳内で思考してる。
なぜかって?
プロットなんて書いてる時間ないから。
気力も無いから。
ならば生産性向上のためにどうするかって言ったら、思考の全てを小説的に展開するのさ。
そうすればわざわざ小説を書くためにいちいち脳の作用を切り替える必要なんてないさ。
小説脳。
こうなってくると一般的に、多分もうそれすら死語だと思うけど『中二病』なんて分類がなされる。あれ?『厨二病』が正解?
はてさて。
恐ろしいものでここまで来ると思考が小説に支配されて行動すら小説の如くなる。
「俺なら昼飯食わないけどね」
社内で勝手に決められた社内の会議のためだけの資料の納期をせっつく男が昼休憩の時間にやって来てこう言われた。
次長でもない。
部長でもない。
役員が。
「わかりました」
そう言ったわたしはその日から昼食を断食して3日で仕上げた。
ドラスティックな組織改編案を盛り込んだ資料を。
「うーん。社長がなんていうかな・・・」
こっぱ役員のそのセリフをわたしはまるでヴォイスレコーダーに記録するコールセンターの抜け目なさを持ったかの如くに繰り返した。
「そうですね。おっしゃる通りです。社長のご意見をわたしが訊いて参ります」
おい、待て!とかわたしならステレオタイプ過ぎて恥ずかしくて絶対に小説には書かないようなヤクインのセリフを背後にそのままワンフロア上の社長室まで行って、
「専務のご指示です。社長にこの資料の決裁をいただくようにと」
でも社長も輪をかけて小説のステレオタイプ・・・それも死語?なら、テンプレ的に応対したのよね。
「今何時だと思ってる。もう帰社時間だぞ。失礼だろう」
待ってました!
「社長。社員の生産性を上げるためには決裁権者のタイムリーな対応と判断が必須です」
「それはそうだが・・・・・・」
「それに社長。わたしが私淑しているかつての偉大な経営者の著書には『経営者は24時間、経営者という立場からは逃れられない』とありました。それとも社長は誰かに雇われて仕事をしておられるのですか?」
「わかった。見せなさい」
わたしの組織改編案は採用されて、そしてわたしは子会社に出向となった。
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