親子兄弟夫婦じゃと愛と情とに絡まれて

naka-motoo

第1話

 まだバッテリーに切り替わらない。


 2Fのみが販売店舗となっていてその下がコンクリートの支柱で持ち上げられた駐車場となっているその木陰に停めたハイブリッド・カーのエアコンが。


 ガソリンを食うだけでなくって二酸化炭素の排出量に自分をも棚上げせずに取り組んでいるわたしたち。


 わたしたち。


 なんだろうなこの言葉は。


 わたし、っていう言葉を最近わたし自身も言ってないな。


 もう行こう。


 走らせるはコンパクト・サイズド・カー。ベンツもBMWもアウディも、というか車すら欲しくない人が多いっていうけど、この街じゃそんなわがまま言えない。


 ああ、『街』っていう漢字、使わせてね。別にそれって都会地の人間の特権じゃないから。


 その代わりアンタたちには『田舎』って言葉は絶対使わせない。


 都会に住んでるくせに、純朴ぶるな。


 車ってありがたい。運転してるとまるでわたしがまともな一般社会人になったような気分でいる。


 わたしの街じゃ、仕事してるだけじゃまともに見られない。


 冠婚葬祭の、特に葬式。


 親の葬式を出して初めて一人前、みたいな暗黙の了解がずっとあったからね。


 でも、最近じゃ全員長生きになってしまって、そういう不文律も消え掛かってて。


 心地いい。


「赤だ赤だ」


 信号が赤になったタイミングで投稿ボタンを押す。


 ワナビって言葉も死語かな。


 その昔のガラケー時代はケータイ小説なんて言葉が揶揄も込めたそれだったけど。


 でも今はそれがWEB小説って括りになって、書いてるワナビさんたちは実際の執筆はPCでカフェだとか自宅の部屋だとかで腰据えて書いてるみたいだから。


 でもわたしは違う。


 机で書くことがほぼない。


 今みたいに、車を日陰になる駐車場に停めて、ハンドルを45°だけ左に傾ける。


 そうするとスマホをステアリングの支柱に真っ直ぐに立てかけられる。


 そして、膝の上で、あるいは靴を脱いで素足になってシートで胡座をかいて。


 わたしの武器であるワイヤレス・コンパクト・キーボードをスマホとペアリングさせる。


 斜視じゃないかと自分で無理やりに視線を真っ直ぐにして矯正しようとしてた報いか左目の飛蚊症がきつくて、同じスマホでも何世代か前の画面が小さいやつだから余計に文字が欠けて見えにくいけど。


 だからこれってほんとうの意味でのケータイ小説だよね。


 わたしはこうして小説を叩き込む。


 もしくは撃ち込む。


 わたしが負けるはずがない。


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