第8話第二次校庭戦争
正月が過ぎて冬休みを終えた一月十二日、全治はマフラーを首にかけて登校した。教室に向かう途中、黒之と会った。
「やあ、全治君。冬休みは楽しかった?」
「うん、のんびり過ごせたよ。」
「まあ、旅行にはおそらく行っていないけどな。俺は北海道の別荘で、新年を迎えたんだ。」
「凄いね。」
「ところで覚えているな?近いうちに戦いを起こすことを。」
「もちろん、今度は何をするんだい?」
全治は冷静に黒之を睨んだ。
「まあ、それは実際にしてみてからのお楽しみだ。」
そう言って黒之は去って行った。全治が教室に入ると、他の生徒達の話し合う声が響き渡った。
「何だか、賑やかになりましたね。」
眷属のホワイトが言った。
「うん。樺島先生がいなくなってから、みんな気楽になったんだ・・・。」
全治は少し落ち込んだ。実は全治が黒之と樺島に襲われた日の翌日、樺島が亡くなったことが知らされた。樺島は鉄塔の下で亡くなっており、死因は感電であることが判明した。しかし樺島がどうやって鉄塔に行き、どのような経緯で感電したかは解っていないらしい。しかし全治はすぐに理解した、あの時放り投げられた樺島は運悪く鉄塔近くの電線に引っ掛かり、感電死したのだろうと。樺島が亡くなった後、他の先生が来なかったので、急遽教頭先生が一年B組の担任になった。樺島がいなくなってから、厳しい勉強の押し付けや大量の宿題が無くなったので、みんな少年らしい明るさと心の余裕を取り戻した。全治が着席すると、空谷が話しかけてきた。
「おはよう、全治。」
「空谷君、おはよう。」
「もう呼び捨てでいいよ、みんな気楽になったんだから。」
「そうだね、ところで冬休みはどうだった?」
「僕は親戚の家で新年を迎えたんだ、年に一度のご馳走が良かったなあ。全治君はどうだったの?」
「僕はおじいちゃんと二人きりだったな。おせち料理は無かったけど、おじいちゃんがくれたお年玉は嬉しかったな。」
全治の言葉に空谷は、辛い境遇を掘り起こした自分に罪悪感を感じた。
それから三日たった一月十五日、全治が教室に入ると何故か誰も教室にいなかった。今日は金曜日、特に事情がなければ生徒の誰もが登校しているはずだ。
「何だか胸騒ぎがする・・・、この感覚は前にもあった・・・。」
すると校長先生が全治に話しかけた。
「君は千草全治君か?」
「はい、そうです。一体どうしましたか?」
「一年B組の生徒達と教頭先生がいなくなったんだ、未だに連絡はついていない。それで君に聞きたいことがあるんだ。」
「何でしょうか?」
「いなくなる前に、何か違和感や不審な事をこの教室で見なかったか?」
「いいえ、特にはありません。僕からも質問いいですか?」
「ん?何だね。」
「いなくなった生徒の一人に、黒之君はいますか?」
「ああ、高須黒之か。もちろんだ、というより君以外の一年B組の生徒全員がいなくなったんだ。」
全治は確信した、黒之君が以前に言った『戦い』が始まったのだと。するとそこへ体育の向井島が、慌てて走ってきた。
「校長先生!!・・・あっ、全治君。」
「向井島君、教師が廊下を走っちゃ駄目でしょ。」
「すいません、でもそんな場合じゃないです。いなくなった生徒達が見つかりました。」
「何!?本当か!!」
「ただ・・・。」
と向井島が言いかけた時、前後から『見つけたぞ』という声がした。そして全治と校長と向井島は、前後を三人ずつの生徒に挟まれてしまった。しかも前の三人の一人に、空谷の姿があった。
「そ・・空谷君!!」
「全治・・・、我らが憎き神の子・・必ず倒す。」
空谷の目は虚ろで意志を感じなかった、黒之の手駒の一人になっているのは間違いない。
「・・・ホワイト、アルタイル。力を貸して!」
するとホワイトとアルタイルが戦闘スタイルで現れた。
「眷属を呼んだか、一気にやっちまえ!!」
「全治様には、近づけさせない!!」
生徒達とホワイトとアルタイルが衝突したが、生徒達はホワイトとアルタイルに全員蹴散らされ、全員気絶した。
「な・・・何だこれは!!」
「ホッキョクグマと鷲が、助けてくれた・・・。」
驚く校長と向井島に、全治が言った。
「二人は教室に隠れててください、ホワイトとアルタイルが付いていますから大丈夫です。ついでにこの六人も入れてあげてください。」
「分かった、けど全治君は・・・。」
「僕は一人で大丈夫です。」
そして全治は、校庭に向かって行った。
全治が校庭に向かうと、黒之といなくなった生徒全員と教頭の姿があった。
「さあ、全治君。始めようか。」
「やっぱり黒之君なんだね・・・。」
「今日こそはクロノス様のために、全治を殺して魔導書を手に入れる。」
「凄い執念だね、どうしてそこまでして魔導書が欲しいの?」
「そんな質問はいい、一斉攻撃だ!!」
黒之の号令に、生徒全員が襲い掛かった。
「ケラウノス・ジュピター・セル」
全治は強力な雷を束にして、地上に放った。生徒全員が衝撃で吹っ飛び、しびれて気絶した。
「ふう・・・、いつの間にそんな技を習得していたとは。それならこっちも、とっておきを見せよう。」
すると黒之は、大地の力を呼び起こして呪文を唱えた。
「クレイヘイズ・グランドキング」
そして全治は大地の力をその身に受けて、大ダメージを受けてしまった。
「うっ・・・、黒之君もやるね。」
「まだまだこれからだ。現れよ、アースブロント!!」
すると黒之の近くにいた教頭先生が、呻きながら巨大な恐竜へと姿を変えた。その姿は首が長いブラキオサウルスかアパトサウルスのようだ。そしてアースブロントは、野太い雄たけびを上げた。
「どうだ、全治?でかいだろう。」
「・・・教頭先生に何をしたの?」
「ああ、肉体を変えて力をあげただけさ。」
「本当に酷いね。関係ない人を、戦争のために利用するなんて・・・。」
「どうという事はない、犠牲が多いほど戦争では有利なのだから。」
「・・・ルビー、行くよ。」
全治は眷属のルビーファイヤードラゴンを呼び出した、ルビーファイヤードラゴンも巨大だったが、大きさでは一回りアースブロントに劣る。
「黒之・・・絶対に倒す。」
「ふう・・・またあの面倒なドラゴンが出たか、じゃあアースブロントの相手をしてもらおうか。」
そして全治と黒之・ルビーファイヤードラゴンとアースブロントが、校庭で激突した。
戦いは激闘を極め校庭は完全に穴だらけ、ただ校舎は奇跡的に無傷である。しかしその校舎も激闘の激しさで、グラグラ揺れている。
「アースブロント、やれ!!」
黒之が号令をかけると、アースブロントは助走をして空高く飛び上がった。黒之はアースブロントにパワーを送る。
「まさか、アースブロントで潰すつもりだ!!」
「何ですって、あれが落ちてきたら大変よ!!」
そしてアースブロントはパワーの球に包まれた、そして黒之がその球を全治とルビーに向けて落とした。
「エンシェント・ダイナソー・アルマゲドン!!」
球は隕石のように落ちていく。全治は「ゴッド・ウオール」で防御したが、球はゴッド・ウオールを粉砕し、轟音と共に着地した。
「フハハハハハ!!その程度じゃあ、この攻撃は防げなかったね。君は今や元初恋人のドラゴンと、ぺしゃんこ同然。ここまで手間取ったけど、君の運命も尽きたようだね。」
黒之は勝利に酔いしれ、高笑いをした。しかしここで思わぬ落雷が起きた。
「グオーーーーー!!」
「な・・・何が起きているんだ!?」
落雷はアースブロントを直撃、アースブロントは感電して倒れた。そして倒れたアースブロントを押し上げて、全治とルビーが復活した。
「バカな・・・、確実に潰したと思ったのに・・・。」
「またゼウスに助けられたね・・・ありがとう。」
「またゼウスか、邪魔しやがって・・・。」
清々しい全治に対し、黒之は悔しい気持ちを思いっきり噛みしめた。
「さて、行くよ黒之君。」
全治は雷を放ちながら黒之に怒涛の連撃をした、黒之は電撃を何度も浴びて地面に墜落した。
「まだ、挑むつもりかい?」
「くっ・・・全治め、俺は絶対にあきらめないぞ!!」
黒之は去っていった。後に残ったのは、ボコボコの校庭と元に戻った教頭先生だけだった。黒之に操られたクラスメイトは、全治が辛うじて安全な場所に避難させていたので全員無事だった。こうして二回目の校庭戦争の幕が下りた。
全能少年「人情のモンタージュ」 読天文之 @AMAGATA
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