第4話クロノスの狡猾

 六月も終わりが近いある日、全治が教室に入ってくると、全治の机の上に一枚の紙が折りたたまれて置かれていた。全治が気になって紙を開くと、そこにはこんなことが書かれていた。

『全治は人脈に恵まれない独りぼっち、一人よがりの頭でっかちの婆ちゃんっ子。』

 何とも子供らしい罵倒の文章が書かれていた。

「何ですかこれ!!」

「全治様は頭でっかちじゃないもん!!」

「こんなことをしたのは誰だ!!」

 眷属達は憤慨している。

「ふう・・・何でこんなことを書いたんだろう?思っているなら、直接僕に言えばいいのに。」

「全治様・・・相変わらずですね・・。」

 眷属達はやれやれとため息をついた。しかしその後も全治に対する陰湿な嫌がらせが続いた、例えば放課中に教科書を隠されたり、給食の量を意図的に減らされたり、何かと上級生の生徒達に絡まれたり、最近流子が亡くなった事をからかわれたり、そんな毎日が続くようになった。

「何だか騒がしいなあ・・・、それよりどうしてみんな、僕のおばあちゃんが死んだこと、知っているんだろう・・・?」

 全治は登校するたびにそう考えるようになった、そしてある日廊下を歩いていると高須黒之に声をかけられた。

「やあ、全治君。君の婆ちゃんの死をねぎらってもらって、良かったね。」

 黒之はニコニコしながら言った、全治はその様子に違和感を感じた。

「ねえ、もしかして僕の事を皆に言っているの?」

「もちろん、僕と全治の戦いもね。」

「戦いか・・・あれは君が僕を襲いに来るから、身を守っているだけだけど。」

「まあ君からすればそうだろう・・・。しかし今日、君が邪神であることが皆の前で明らかになる。」

 黒之はそう言って教室に向かって行った、それからすぐに全治が教室に入ると、いきなり他の生徒三人に突き飛ばされた。

「・・・・どうしたの?」

「お前、遥に手を出したんだってなあ!!」

 いきなり全治は怒鳴られた、全治を怒鳴ったのは上級生である。

「遥って誰ですか?」

「とぼけんな、豊山遥だ!!昨日の帰宅時間に、背後から襲ってわいせつな事をしたんだろ!!」

「僕はその日、北野君と一緒に帰りました。」

「それを証明できるのか?」

「本人を連れてくるよ。」

「じゃあ、すぐに連れて来い。」

 全治は北野のいる一年A組のクラスに向かった、そして北野を探したが、北野は教室にはいなかった。

「おかしいなあ・・・校門に入ってすぐに別れたはずなんだ。」

 しかし北野の姿は無く、全治は上級生達の待つ教室に戻っていった。

「どうだ、北野はいたか?」

「いませんでした。」

「なら、お前の証言は怪しいということだな。」

 それからすぐに全治は上級生達から袋叩きにされた、全治は十分間の間に顔は傷つき、制服は踏まれ続けてズタズタになった。袋叩きから解放された全治は痛みに耐えながら席に着いた、それを見た黒之はしたたかに笑みを浮かべた。

「全治様・・・大丈夫ですか?」

「俺が大きくなっていたら、あんな三人ぶっ飛ばせたのに・・。」

 ホワイトが悔しそうに言った、ホワイトは全治の許可が出ないと大きくなれないのだ。

「いいんだ、これで黒之の言う事が分かったから。」

 全治は黒之の方を静かに睨みながら言った。



 二時間目の放課、三時間目は体育なので全治は体操着に着替えて、体育館に向かっていた。すると体育館の器具庫から、ガタンと物音がした。

「ん?何だ今のは・・・。」

 全治はすぐに疑問を抱いた、それはいつもの事だが、今回は何かあるなという勘を感じたのだ。でも体育の授業があるので、全治は体育館へと入っていった。それから全治は体育の授業中、あの物音の事が頭から離れなかった。そして体育の授業が終わった時、全治は体育教師の向井島に話しかけた。

「あの、器具庫に入ってもいいですか?」

「ん?もう体育用具はもう入れ終えているのに、どうしてなんだ?」

「じつは、器具庫に誰かいるのです?」

「誰か・・・それは本当か?」

「それは分かりませんが、誰かがいる気はします。」

 全治がきっぱり言うと、向井島は腕を組みながら渋々言った。

「わかった、君も一緒に来てくれ。」

 そして全治と向井島は器具庫に向かい、向井島のもつ鍵で器具庫の扉を開けた。開いてすぐに、向井島は異変に気付いた。左奥にモップが立てかけてあるのだ。

「おかしい、モップは本来ロッカーにしまわれているはず・・・。」

 するとそのロッカーからガタガタと激しい音がした、全治はロッカーの方に向かい、ロッカーを開けると・・・・。

「あっ!!北野君だ!!」

 北野はロッカーで窮屈そうに閉じ込められていた、しかも雑巾で猿ぐつわをかませられている。全治が北野をロッカーから出して、猿ぐつわを外すと北野はせき込んでから喋りだした。

「ありがとう全治、助かったよ・・・。」

「本当に居たんだ・・・。それにしても、どうしてこんなところに居たんだ?」

 向井島が北野に尋ねた。

「今朝、全治と別れて教室に向かおうと階段を上っていたら、踊り場の所で三人組に襲われたんだ。それで体育器具庫に連れられて、このロッカーに閉じ込められたんだ。」

「三人組というのは、生徒か?」

「ああ、俺より背が高かったから先輩に違いないと思う。」

「わかった、私が職員室に報告しに行く。二人は教室に行きなさい。」

 全治と北野は頷いて、それぞれの教室に戻って行った。そして急いで着替えて、次の授業の準備をしてから、全治は考えた。

「どうして北野君はあんなところに居たんだ・・・ん?」

 ふと全治は北野が閉じ込められた事と、今日自身の身に起きたことを、繋げて考えてみた。

「僕はあの時、自身の無実を明かすために北野君を呼びに行った。あの三人の先輩たちは、黒之の仲間・・・。まさか!!」

 全治は気が付いて、そして決意した。





 そして授業が終わった後、全治と北野は職員室に呼び出されて、教頭先生に詳しい事情を話した。

「つまり、全治君は言いがかりをつけられたということか・・・。」

「はい、その先輩達が何か知っていると思います。」

「ああ、間違いないぜ。」

「ありがとう、もう戻っていいぞ。」

 全治は教室を出るとき、教頭先生に一つ質問をした。

「あの、豊山遥さんってどこのクラスですか?」

「ああ、三年一組だよ。」

「ありがとうございます。」

 そして全治は教室を出た。




 そして放課後に全治は三年一組の教室へ向かい、豊山遥を呼んだ。

「私に用ですか?」

 豊山遥はショートヘアーが爽やかな、明るい少女だった。

「僕は千草全治といいます、一つ質問してもいいですか?」

「ええ、何かしら?」

「実は今日、ある三人の先輩に『遥に手を出したな!!』と言われて、袋だたきにされたんです。」

「は?」

 遥は怪訝な顔をした。

「僕はもちろんやっていませんが、あの三人は信じてくれませんでした・・・。その

三人について、何か知っていますか?」

「ああ・・・あの三人ね。」

「何か、知っているのですか?」

「大野・菊池・住江の三人よ、あいつら陰で私のファンみたいなことをしているのよね・・・。あの三人なら、職員室よ。」

「え、どうして?」

「確か北野君を体育器具庫に閉じ込めたことを、白状したらしいのよ。」

「なるほど・・・。ありがとうございました。」

「それにしても、あの三人最低よね。わいせつなことしたとかどうか・・・。全治に会うの、今が初めてなのに。」

「では、失礼します。」

 全てが分かった全治は、教室を出て階段を降りた時、踊り場で黒之と出会った。

「よくわかったね、全治君。」

「黒之君・・・、どうしてそんなことをするの・・・?」

「それは君が、大嫌いで目障りだからだ。次は戦いを用意してやるから、お楽しみに!」

 黒之は不気味な笑みでケラケラ笑いながら、階段を下りて行った。



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