第201話 全員で、力を合わせて


「二人とも、信じるよ」


「そうフィッシュ。みんなで力を合わせれば、絶対勝てるフィッシュ」


「そうだよ。今までだって、それで勝ってきたんだから」


 ハリーセルとレシアも強気な表情で俺に勇気を与えてくれる。

 そして……。



 スッ──。


 だれかが優しく背中を撫でた。


「フライさん。最後の戦い、みんなで戦って勝ちましょう」


 フリーゼだった。

 不思議な気分だ、みんながこうして声をかけてくれたからか、どんな障害でも乗り越えていけそうな気がする。


 負けるというイメージが、全くわかない。


「そうだね」


「行ってきなさい! 勝ってここから帰りましょう。私達がフライの力になってあいつを倒すのよ!」


 そうだ、今の俺は、フリーゼやレディナの力を受け取れる。みんなの力で戦うことに変わりはない。


 一歩前に出て、答えを出した。


「セファリール、わかった。その決闘、受け入れるよ」


「──了解です。フリーゼたちの力があれば、行けると踏んだのですね。無駄だと思いますが」


 こうして俺はセファリールとの一騎打ちをする事になった。

 それを察したのか、後ろにいた熾天使たちは後ろへと離れる。


「まあ、無謀ですこと」


「セファリール様に、コテンパンにされればいいんですの」


 ぶつぶつと、俺に陰口をたたきながら……。

 そして、俺とセファリールが向かい合った。真剣な表情で、俺を見つめてくる。


「フライ──でしたわね」


「はい」


 まるで透き通っているかのような、純粋で水色の瞳。

 見ているだけで、まるで吸い込まれそうな感覚になる。


 そんな瞳で、俺の方をじっと見つめている。


「私は、ツァルキール様に、その想いを伝えなければなりません。人間であろうと、手加減するつもりはありません」


「それは、あなたを見た時から理解してました」


 当然だ。

 今までのどんな強敵よりも、熾天使よりもはるかに強いオーラ。

 気持ちを強く持っていないと、すぐに腰を抜かしてしまいそうになってしまう。


 それだけではない。彼女には、負けられない思いがある。俺がこの戦いに強い想いをかけているように、彼女もまた同じくらい、いや──はるかに強い想いを持っているだろう。



 スッと、足音が聞こえる。


「フライさん──」


 フリーゼたちだ。何事かと思うと、フリーゼが右手を出た。そしてレディナ達に視線を配った後、何か示し合わせたかのように全員がコクリとうなづいた。


 そして、全員が同じ場所に手を出す


「私達の力、全部あなたに託すわ」


「はい。私達の力で、絶対に勝ってください」


「──わかった」


 コクリとうなづいて俺もフリーゼたちの手の元へ手を出す。

 そしてフリーゼたちは各々の力を、俺に供給し始める。


 強く、俺の手に彼女たちの手が押し付けられる。

 今までにないくらい。それぞれの想いを込めるかの如く強く──。


「フライ、私達の力、全部あなたに託すわ」


「受け取ったよ、みんなの力」


「頑張れフィッシュ。負けるなフィッシュ」


「絶対勝ちなさい。負けたら、承知しないんだからね」


「フライ──。絶対勝つって、信じてるよ」



 背中を押される形で、俺はセファリールがいる、場所へ。

 みんながくれたこの力、決して無駄にはしない。


 相対する俺とセファリール。


 ツァルキールは、切ない表情で祈るようなポーズをしながら、俺たちをじっと見ている。


「いよいよ始めるのですね。世界の趨勢が決まる一騎打ち──」


 晴天の空に、草原が広がるこの地。

 優雅で天国ともいえるこの空間に、俺とセファリールがにらみ合う。

 それを取り囲むように、エンレィなどの熾天使たちとフリーゼたち。そしてツァルキール。


 セファリールが聖剣を俺に向けてくる


「冒険者フライ。たとえあなたが人間であろうと、手加減をするつもりはありません。私達が理想とする世界のために、全力で戦い抜くつもりです。例えこの戦いで、あんたの命が尽きることになろうとも──」


 その言葉の意味を理解し、無意識に俺は一歩引いてしまう。

 セファリールはこういっているのだ。


「戦い次第では、俺を殺すことだってあり得る──ということですね?」


「はい。容赦はしません。これが最終通告です。よろしいですね?」


「……ああ」


 俺は、しばしの間戸惑いながらも首を縦に振った。


 フリーゼたちと、約束した。この戦いに勝って、またみんなで楽しく過ごすと。

 そして──。

 答えは一つ──。

 フリーゼを未亡人になんてさせない。


 絶対に勝って、生きてこの場から帰る。


 そして俺とセファリールが再び向かい合った。

 真剣な目で見つめ合い、剣を互いに向ける。

 金銀に輝き、神秘的な幾何学模様をした剣。


「フライ──あなたの想いを、全て受け止めて……私が勝ちます」


 そして、俺達は互いに接近。世界をかけた、壮大な戦いが始まった。


 互いに引いたりしない、共に自らの想いを込めるような攻め合う攻防。これは、俺と彼女の想いをかけた戦い。


 動きが全く違う。やはり人間と天使では大きな差がある。

 一歩一歩引きながらの攻撃になり、このままではどんどん押し込まれてしまうというのがわかる。



 それでも、負けるつもりなんてない。

 俺には、フリーゼたちからもらった力がある。


 まずはレシアの動き。レシアのスキルである「猛火逆鱗」を発動させる。


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