第200話 唯一王 セファリールと対峙する

「大丈夫です。彼は、私達の敵ではありません」


 あわあわと手を振り、否定するツァルキールだが、セファリールはいうことを聞かない。


「なわけないでしょう。今は、演技をして、いい子ぶっているだけです」


 聖剣を俺に向け、言い放ってくる。その聖剣は、神々しい飾りを纏い、真っ白に強く光り輝いていた。

 まるで、彼女の心を表わしているかのように……。



「私達は、見てきました。人間たちの醜さを──。己の私利私欲のために周囲を裏切り、利益のために周囲を傷つけていく姿が。彼もきっと、そうなのでしょう」


 その言葉にフリーゼが一歩前に出て反論。


「そんなことはありません。フライさんは、いつも周囲のために戦っていました。自分の利益を捨ててでも、人々の命のために身を投げ、それでも助けた人を責めることはありませんでした。自分が傷ついても、決して周囲を裏切ったりしません。私が、保証します」


「そうフィッシュ。お前なんかとは、違うフィッシュ」


「黙れ! それはお前たちの目が節穴なだけです!」


 セファリールの言葉にレディナが負けじと反論。


「節穴じゃないわ。それに、私達だっていろんな人を見てきた、確かに人間の中には欲望にまみれて私欲に動いてしまう人だっている。けれど、そんな人ばかりじゃない。正義感にあふれて、たくさんの人のために戦っている人だっている。だから、あなたの言葉が暴論だってわかる」


「そうだよ。僕たちは、お前たちの声になんか賛同しない。人間たちを滅ぼすって言うなら、僕たちがどんな手を使ってでも止めてみせる」


 レシアも反論に加わり、セファリールは思わず一歩引いてしまう。

 しかし、俺達をにらみつける眼光は少しも衰えていない。


「私だって、独りよがりに考えているわけではありません」


 セファリールはピッと指をはじく。すると、彼女の後ろに大きな光の柱が現れる。

 そして、光が消滅するとそこには──。


「うわっ、人間?」


「ええ……何で人間が天界が汚れるじゃない」


 セファリールと同じように、白亜のドレスを着ている女性たちの姿。

 皆、俺を見るなり嫌そうな表情になりひそひそとうわさ話をしはじめた。


「熾天使の人たちね。みんな呼んできたってこと?」


「そうよ、レディナ」


 この人たちは、熾天使の人達らしい。俺のことを、蔑んだ目で見ている。

 髪の毛は、緑だったり青だったり──。

 どれも絶世に美女といった感じできれいな人たちだ。


「何で人間が、こんなところにいるのよ」


「本当よ、美しい天界が汚れるわ」


 いまだに汚いものを見るような目つきで、俺を見ている。


「そうです。欲望にまみれた人類なんて、俗物そのものです。ゆくゆくは、滅ぼして、もう一度作り直さねばいけません」


「そうか、それは分かった」


「わかったって、本気で言ってるのですか?」


「本気だ。本気で彼女たちは実行するつもりなんだ」


 彼女達の目を見ればわかる。本気だ。本気で、俺達に敵意を持っている。どれだけ言葉で説得しても、その想いを変えることはないだろう。


 それならば、方法は一つしかない。


「そうですね、それなら──戦って、決着をつけるのが一番だと思います」


 フリーゼの言う通りだ。戦って、俺達の想いや強さを見せつける。

 このやり方が一番しっくりくる。


 熾天使たちはただセファリールを見ていた。皆、彼女を指導者だと認識していて、彼女の言葉に従っているだろうというのが理解できる。


 そして、当のセファリールは俺をじっと見つめてしばし立ち尽くした後、ツァルキールに話しかける。


「私達に、人類への浄化をやめさせる気ですか? 殺しは、やめろと命令しますか?」


 ツァルキールがじっとセファリールを見つめた後、コクリと頷いて答えた。


「はい、もう──無意味な犠牲はさせません」


 弱弱しくも、強い意志を持った言葉。その言葉に、観念したのだろうか、目をつぶって大きく息を吐いて、言葉を返す。


「わかりました。その決闘、引き受けましょう。ただし、一騎打ちです。私と──そこの人間と」


「──俺?」


 俺一人で、熾天使と──。


「フライさんですね。エンレィから聞きました。あなたと、一騎打ちをします。そして、私にぶつけて下さい、あなた達の想いを」


 その言葉に思わず怯んで住まう。

 まともな戦いになるのだろうか……。


 セファリールは俺がおどおどしていると、さらに強気に出て来る。


「どうしました? 私達を止めるのでしょう。そのくらいの覚悟がなければ、そのようなことはできませんわ。それとも、自分では勝負にならないと悟っているのですか?」


 確かにそうだ。エンレィにゼリエル、スワニーゼ。

 どれも強敵ばかりだった。いくらフリーゼの力を借りても勝てるかどうか……。


 そんなことを悩んでいると、誰かが俺の肩にポンと手を置く。

 振り向くと、そこにはフリーゼやレディナ、みんながいた。


「大丈夫です。私たち全員で、力を合わせましょう」


「俺達……、全員で」


「そうよ。私だけじゃなくて、フリーゼだけじゃなくて、全員分」


 全員分。これまで、フリーゼの力と、レディナの力をここに受け取ったことはある。しかし、全員一緒というのはない。果たして、出来るのだろうか……。


 いや、出来る。二人とも、俺が最大限動きやすいように力を調節して、送ってくれた。

 レシアとハリーセルだって、出来ると思う。二人とも、ずっと戦ってきたんだから。


「レシア、ハリーゼル、力を貸してくれるか?」


「大丈夫だよ、フライ」


「フライのことは、良く分かってるフィッシュ。心配するなフィッシュ」


 自信満々の言葉に、俺は安心した。これなら、大丈夫だと。


「二人とも、信じるよ」

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