第186話 唯一王 スワニーゼの本性を知る

「はっ、意味わかんない」


「すぐにわからせてあげるわ、レディナ」



 スワニーゼは後ろを振り向いて、言い放つ。


「貴方もいるんでしょう、スキァーヴィ」


 何もない場所に放った声。


 すると、真っ暗だったその場所に光の柱が現れる。

 光が薄くなると、そこに人がいるのが理解できた。


「スワニーゼ、良く気付いたじゃない」


「バレバレよ。わたしの目をごまかせると思ったの、おもらしの暴君さん」


「──何とでもいうがいいわ」


 何と、スキァーヴィの姿だ。

 スキァーヴィはどこか達観したような目つきで、じっとスワニーゼを見つめている。


 それだけじゃない、隣には、キルコとミュアもいる。二人は、スワニーゼに強気な表情をにらみつけていた。

 そしてスキァーヴィは強気な視線でスワニーゼに言い放つ。


「もうあなたには、屈しない──」


 今までのような、暴君と言われた時とは違う、怯えながらも強さを内に秘めた目つきだ。


 その一言に、彼女の覚悟があるのを、強く感じる。

 すると、隣にいたミュアが、カバンから何かを取り出した。



「とりあえず。吐いちゃった後だけど言っておく。すべて暴いたわ。黒幕は、あなただってね」


 そしてミュアが持っていた資料を見せ始める。


「何様のつもり──フライのハーレムが」


「私が、あんたの部屋の書類をあさって、渡したのよ。意味は──分かってるわね」


 スキァーヴィの言葉にスワニーゼははっとした後、けげんな表情になり言葉を返す。


「なるほどね。本気で、私に立ち向かうつもりだったのね」


 そして、ミュアが一冊の本を取り出した。


「スキァーヴィさんが見つけてくれました。この本に、スワニーゼのすべてが入っています」


 すると、スワニーゼは急に冷静な態度になる。一度、大きくため息をしてから、平然と言葉を返した。


「もういいわ。私はここでじっとしているから、全部読みなさい。私がやろうとしていることが、全部記しているわ。まあ、熾天使たちのこの世界での計画書みたいなものよ」


「え? ちょっと──」


 意外な言葉に俺は戸惑ってしまう。


「どうせ、いつかは分かる日が来るわ。それに、私達が戦うことに変わりはないしね」


「──わかった」


 ここは、変に疑っても仕方がない。しっかりと、彼女の目的を拝見しよう。

 そして、読んでいくごとに、俺達は言葉を失った。




 その、予想もしなかった内容に──。


「どう? 素晴らしいでしょう。私達の計画」


 自慢げに話すスワニーゼに、レディナが強くにらみつける。


「この文章を見て、何も思わないというのがおかしくてしょうがないわ」


 そう叫んでその本の十三ページ目を開け、スワニーゼに見せつける。


 レディナはため息をついて呆れ、その中身を読む。


「この世界を浄化するための計画。その名も『地上の楽園計画』」


「全員が大天使様への信仰を強制。信仰を拒絶したものは死刑 少しでも軽い犯罪を犯した者は死刑。

 教師は死刑。自分たちの以外の信仰を持っている人物は死刑。

 知識人は全員死刑。

 笑ったら死刑、文字を読める者は死刑」


「どう? 爽快でしょう──」


「そしてその後にあるのは、人間たちは、休日も娯楽もすべて奪われ、ひたすら農作業と祈りだけを行う世界。素晴らしいじゃない。あなた達にお似合いよ」


「あきれたわ。これのどこが地上の楽園なのよ! 悪魔だってここまで人々に地獄を見せたりしないわ!」


 レディナもカンカンに怒り強い口調で言う。


 本当に書いてあるのだ。人間たちは、楽しみを与えると堕落してしまう。だから楽しみの根源をすべて奪い、大天使様への祈り以外奴隷として働かせ続けると──。


「そして最後は、十歳以上の大人をすべて殺し、大天使様を信仰する子供たちだけで理想の世界を作り上げていく。子供の妄想だって、もうちょっとまともなことを考えるぞ」


「当たり前じゃない。余計な知識を持った大人なんて、手遅れよ。焼き払うべきだわ」


 スワニーゼは何の罪悪感もなく、自信満々に言葉を返す。俺も、激しい口調で言葉を返した。


「焼き払うって、ゴミを扱っているかのような言い方するか?  それでも天使か。罪悪感というものを感じないのか?」


「ないわ。むしろこれで未来永劫人類が救われると思うと、すがすがしいわ」


 俺がどれだけ行っても、スワニーゼは血眼になり激高したまま叫び続けた。

 何を言っても無駄だというのがよく理解できる。


「お前が正気じゃないというのは理解できた。死刑死刑と人の命をゴミのように扱う大量虐殺をしようとするどんな悪より醜い存在だということも。お前の独りよがりな正義のせいで大勢の人が死ぬんだぞ?」


「仕方がないわ。それが世界のためなのこれで世界は救われるの。これは、尊い犠牲なの、平和なツァルキール様が世界を収め、地上の楽園を作り上げるための!!」


「バカなこと言わないで。人々をたくさん殺しておいて、何が楽園だ?」


「貴方は、私が支配する前のローデシアを知らないから言えるのよ!」


 そう叫ぶスワニーゼ。胸に手を当てながら浮かべる必死な表情。

 ただ感情的に叫んでいるのではない。彼女なりに考えがあるのだろう。


「私が来る前のローデシアは、悲惨そのものだった。自由の名の下、貧困の格差は深刻で、街にはスラム街と、当たり前の様に流通している違法な薬物。法は機能せず争いは絶えない。政府に上層部は国民の危機に全く関心がなく毎日の様に酒と女に入り浸り。腐りきった世界を変えるには、こくみんに言うことを聞かせるには、生半可なやり方じゃダメなのよ」


 必死になっている気持ちはわかる。それでも、彼女を擁護するわけにはいかない。


「私がスキァーヴィを使ってこの国を統治してから、治安や犯罪率は劇的に低くなった。子供や情勢たちは夜一人でも歩けるようになった。だから、このくらいの手数料なんて、当たり前のことなのだわ。」


 醜くゆがんだ笑顔。罪悪感のかけらも感じていない。


「あんな暴力で支配しなきゃ治安の一つも守れない猿の集団なんかに、自由だか権利だかなんて、三百年は早いのよ」


「思い上がりもいいとこだわ!」

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