第167話 唯一王 潜入捜査へ

「しーっ! この話はホテルでしましょう。ついてきて」


 耳打ちってことは知られたくないことがあるか、この話を聞かれたくないってことだ。


「わかった」



 そして俺たちはミュアに連れられて街を歩く。

 人通りの多い繁華街を抜けて、ひっそりとした場所へ。


 そこに、レンガ造りのこじんまりとした建物。ここがホテルらしい。


 取った部屋はミュアとキルコの部屋と、他の仲間3人の部屋に分かれている。

 俺たちの部屋も、すでに確保しているようだ。


 ミュアたちの部屋の隣に俺たちの部屋があり、そこに荷物を置いた後ミュアの部屋へ。



 男たち三人は他にやることがあるらしく、外に出ていってしまった。

 ミュアが人数分のお茶を組んできて、机にコトッと置く。


 俺が一言お礼を言った。


「ミュア、ありがとう」


 全員のお茶を机に置き、フリーゼがお茶を飲み始める。

 それからキルコがベッドに座り、腕を組みながら話し始めた。


「この国、やけに兵士の数が多かったでしょう?」


「そうだったな」


「スキァーヴィが政権について以降、この国の政府はどんどん強圧的、独裁的になっていった。そして市民たちのから自分の意にそぐわないものを炙りだすため、秘密警察を導入したのよ」


「それで、反逆的な事を言った人は秘密警察に捕まっちゃう。それだけじゃなくって」


「それであんな雰囲気になっていたのか……」


 もしローデシアに反抗的な事を言って秘密警察にバレたら逮捕される。

 だから人々は不満があってもどこにも打ち明けることができず、いつも周囲を警戒していたんだ。



 取りあえず、話の本題に入ろう。


「この街にさ、闇市ってのがあるみたいんだけど、わかる?」


「闇市ね、調査自体は行ったわ」


「──教えてくれますか?」


「わかったわ、フリーゼ」


 キルコの話によると、この街には不定期で闇市というものが開かれているらしい。

 そこでは違法な薬物や、地方の物珍しい食品。兵器などが取引されているのだとか。


「それだけじゃないわ。剣闘士というものが存在するの」

 違法な賭け事。ミュアの言葉、聞いた事がある。闘技場などで二人の奴隷を戦わせる。

 周囲の観客はどっちが勝利するか賭け事の対象にして楽しんでいるというものだ。


「けど、それだけじゃないわ。奴隷たちに秘薬ニクトリスとかいうものを与えていると情報が入っているわ」



 キルコの言葉に、俺は驚愕する。

 ウェレン王国で俺は目撃した。ニクトリスを使用したトランの末路を。


 ニクトリスの強さに肉体が耐え切れず、使用したトランの体はゲル状に溶けてしまった。

 あの薬は人間が使用してはいけないものだ。



 そのこと、ニクトリスのこととトランの最期を二人に話す。

 二人とも、啞然として言葉を失ってしまっていた。



「そ、そんなことがあったの……」


「けど、奴隷たちが大量死しているなんて聞いた事がないわ──」


 キルコが足を組み始め考える。

 確かに、人がいない場所でひっそりとならともかく、大勢の人が見ている前で、何人も出来る事じゃない。


 そのたびに人が死んでいたら、観客たちの中で噂になるし、奴隷たちがそもそもそんなことをしない。


「希釈して、人間が使用しても肉体が崩壊しないようにしているのではないでしょうか」


 フリーゼの推理。確かに、水で希釈をして成分を弱めれば行ける可能性はある。


「そうかもね、ちょっと興味が湧いて来た」


「分かった。俺達も行けばいいんだろ」


「お願い」


 これで行く場所がはっきりした。流石はミュアとキルコだ。

 俺がいなくたって、二人はこれくらいはやれる。


 彼女達なら、これからもしっかりとやっていけるだろう。


「それで、闇市はいつ行われるんだ?」


「五日後」


「分かったキルコ。俺達もそこに行けばいいんだろう」


「お願い」


 闇市。それも違法な戦いが行われている場所への潜入。

 確実に一筋縄ではいかないだろう。


 戦いになる可能性だって十分にある。



 それでも力を合わせて闇市の秘密を暴いていこう。

 大丈夫。俺とフリーゼはもちろん、キルコとミュアだって強いし、行ける。



 どんな敵と当たったって、立ち向かえる。


 なんとなくだけど、そんな気がした。






 そして夜。パンとサラダの食事を終えた後、入浴の時間となる。


 フリーゼが、バスタオルで口元を覆いながら話しかけてくる。


「それでは、お風呂に入りましょうか」


「わかった。フリーゼから先に入りなよ。俺はあとでいいから」


 俺は入浴の準備をしながら言葉を返す。

 ここは大浴場がついているものの、交代制で今は女性の時間のはず。


 俺は、その後に入ることになるだろうからだ。

 そして、着替えとタオルをたたんで、ベッドに置いたとき、フリーゼが言葉を返して来た。


「えっ? 一緒に入るに決まっているじゃないですか」


 その言葉に俺は表情が固まってしまう。

 まてまて、おかしいおかしい。


「ダメだって。他の人が、許さないよ……」


「大丈夫です。宿の主に許可を取りました。新婚って言ったら、どうぞ楽しんでいってくださいって言われました。行きましょう」


「おいまて。それはそういう設定だということであって、絶対悪用しているでしょ!」


 フリーゼは俺の言葉を聞かずに服の袖をつかみ、引っ張る。

 俺たちは一緒に入浴をする羽目になってしまった。


 そして俺とフリーゼは階段を下り、地下にある大浴場へ。


 着替えをして、浴場へ。


「ふう──久しぶりのお風呂ですね」


「そうだね──ってえっ?」


 フリーゼの姿に驚愕して固まってしまう。

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