第166話 唯一王 ローデシア帝国へ

 ガタゴトと馬車が揺れている。

 馬車が道を行くときのほど良い揺れとリズム。車輪が石畳の道を歩いていく音。


 気持ちよい揺れ、暖かい陽光に包まれ、うとうととしていると不意に前方から声が飛んできた。


「旦那。そろそろ到着しますぜ、どうでしたかい。うちの馬車の居心地は」


「──うぅん。──あ、ありがとうございます。揺れも少なかったし、快適でした。素晴らしかったです」


 寝ぼけていたため、びっくりしてしまったが、すぐに言葉の意味を理解し、言葉を返した。


 背筋を伸ばして外の風景を視線に入れると、古い歴史を感じさせる、伝統的な石造りの街並みが視界に入った。


 ここは、ローデシア帝国の王都ウムブルク。

 ウェレン王国から数日間の長旅を経て、この場所にたどり着いた。


「お疲れ様ですぜ。宿を取りたいなあっちの通りにいくといい。手ごろな宿がいくつもあるぜ」


「了解です。それにしても、この街は栄えていますね」


「そりゃあローデシアの王都なんだからねぇ。けど、気を付けなよ──。この街、きな臭いぜ」


 ここまで俺たちを導いてくれだ馬車のおじさん。警戒したような目つきで耳打ちして話しかけてくる。



「わかりました。気を付けます」


「じゃあうまくやってくれよ。エリナ、ルア」


 そう言って馬車の主の人はこの場を去っていった。



 エリナはフリーゼ。ルアは俺のことを言っている。

 それが今回、俺たちがこの街に潜入するためにつけられた名前。


 今回俺とフリーゼは、ウェレン王国から来た商人の夫婦としてこの街に来た。


 理由は簡単。大規模な闇市の存在。


 ステファヌアはその存在を知り、潜入するよう勧めてきた。

 ──がそこではチェックが厳しく、入るには特別な許可が必要となる。


 そんなとき偶然、ウェレン王国に住んでいる二人の商人夫婦がとある闇市への入場許可を得ていた。


 その後にクリム達によって捕まり、捜査に丁度いいということでその夫婦に成りすます形となり、俺達がその名前で闇市へ潜入することとなった。


 なお場所は、商人たちは吐いてくれなかった。

 恐怖で体を震わせ「言えない……、言えない……」と呟いていて、どうにもならなかったらしい。


 そこで、この地でとある人物に潜入捜査をさせているようだ。

 その人物との待ち合わせ場所と時間も、すでに記録している。


 今のフリーゼの姿は、青い髪に大きな白いリボン。

 誰がどう見ても、フリーゼと同一人物とは思えない。ちなみに俺は茶髪のツンツン頭。


「その……フライさん。私、ちゃんと変装出来ているでしょうか?」


「大丈夫大丈夫。とってもきれいだと思うよ。後、ここではフライという名前は使わないでほしい。ルアって読んで。エリナ」


 フリーゼはその言葉にはっとして、言葉を返す。


「そ、そうでしたね。ルア。あ、ありがとうございます」


 フリーゼはほんのりと顔を赤くして、喜んで頭を下げる。




 まずは、目的の人を捜すとことから始まる。


 人通りの多い市場を俺とフリーゼは歩く。


 石造りの建物の前で、いろいろな商人たちが店を構えて、いろいろな商品を売りつけている。


 見たことがない魚の干物やドライフルーツ。

 雑貨や小物類など、出店によって様々なものが売られていた。


 これは、文化や売り物の違いはあれど他の国でもあった。

 しかし──どこか違和感がある。


 すると、フリーゼが耳打ちして話しかけてくる。


「何か街の人、よそよそしくないですか?」


「それは思ってた」


 フリーゼの言葉。俺もそれは感じていた。


 確かに人通りが多くて、活気がある

 しかし、亜人であれ人間であれ、人々はキョロキョロ周囲に視線を配ったり、警戒しているかのように震えていたりする。


 まるで、何かに怯えているようだ。



 それと、この街──。いままで見た街に比べて兵士の数が多い。

 全員無表情できょろきょろと視線を周囲に向けている。


 まるで何かを探しているように──。



「これがこの街の本質よ──」


「いろんな意味で、きな臭い街だわ」


 聞きなれたことがある声が後ろから聞こえた。

 瞬時に、後ろを向く。


 やはり、あの二人だ。


 まさか、この地に来て聞くとは思っていなかったので、驚いて言葉を失った。


「ミュア、キルコ──」



 そこにいたのは、かつての仲間。


 大人びた美しさを持った少女。キルコ

 小柄で幼い顔つきに、水色のワンピースとミニスカートを着た少女。ミュア。


 そして、他に男の冒険者が三人。二人が新しく入ったパーティー「アドス」の人たちだ。



「待ってたわフラ──じゃなかった、ルア。部屋、用意してあるから」


「ミュア。じゃあ、この街で俺たちを待っていた人たちっていうのは──」


「私達のことよ」


 キルコがその豊満な胸を張る。自信あふれた態度。


 話によると。ある日、クラリアのギルドから呼び出され、このクエストを請け負ってほしいと言われたらしい。


 リルナさんによると俺のことを知っている人へ、このクエストを実行してほしいと連絡があったとか……。



 そしてそのステファヌアからの手紙でリルナさんを通し、このクエストを請け負ったとのこと。

 今回のクエストが成功すればパーティーのランクがCからBに上がるらしい。


「ローデシア帝国のことを調べるのと、スキァーヴィに関する秘密を探るのが私達の役目よ」


 ミュアが胸を張りながら事情を説明する。ミュアがこういう態度をとるということは──。


「なにか秘密でも掴んだの?」


 なにか結果を出しているってことだろう。彼女達なら、十分あり得る。

 するとミュアはキョロキョロと周囲を見回してから警戒した表情で俺に耳打ちしてきた。


「しーっ! この話はホテルでしましょう。ついてきて」

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