第168話 戦いが、終わったら……
「ふう──久しぶりのお風呂ですね」
「そうだね──ってえっ?」
フリーゼの姿に驚愕して固まってしまう。
フリーゼは、俺に対して体を隠したりしない。生まれたままの姿で俺と対面している。
フリーゼのすべてが見えてしまい、とてもつらい。
そして、どこか自信を持った表情で話しかけてきた。
「背中、流させてください!」
「……分かった」
ギラギラとした目つき。断ったら、何をされるかわからず、そうとしか答えられなかった。
そして俺は洗い場の椅子に座り、後ろにはフリーゼ。
フリーゼはタオルに石鹸を付け、俺の背中を洗い始める。
途中、フリーゼの豊満な胸が、俺の背中にピタッと当たる。
顔が真っ赤になり、思わず反応してしまった。
「おい、当たってる」
「あ、当てているんですよ……。こうすれば男の人を夢中に出来るって教わったんです」
誰だよ……。レディナか?
「そんなことしなくても、フリーゼの事好きだから。やめて」
「……はい」
フリーゼは、どこかしょぼんとしながら大きな胸を俺の背中から離した。
理性が持たず、一線を越えてしまいそうだ。
そして洗いっこを終え、俺達は浴場の中へ。
温かいお湯の中に入り、気持ちが落ち着いてくる。
隣にいるフリーゼも、リラックスしているようで、ほっと溜息をつく。
そして、俺の方を向いてフッと笑みを浮かべると、話しかけてきた。
「フライさん。聞きたいことがあります」
「なに、フリーゼ」
「この一件が終わったら、私たちどうしましょうか──」
「この、一件。熾天使に関すること?」
「はい。 熾天使たちとの戦いが終わって、大天使とも会って、この世界の危機が去ったら、私達どうしましょうか」
熾天使や、大天使との戦いが終わった後。
考えたことなんてなかった。
今までは目の前のことに精一杯だったから。だから返答にとても困ってしまう。
「どうって言われても……、みんなで平和に暮らすとか、やっぱり、楽しいことをする……とか?」
「みんなで、ですか……」
フリーゼのどこか切なさが混じったような笑み。
確かに生活していくために冒険者を続けていくことに変わりはないと思うが、今までの様に世界の平和をかけて戦うようなことはなくなり、どこかほのぼのとした日常を送ることになるだろう。
死線をくぐるようなことも、減っていくはずだ。
「とりあえず、みんなと一緒に楽しく暮らしたい──かな」
「──それも、いいかもしれませんね」
フリーゼの、どこか嬉しそうな表情。恐らく彼女も、そんなことを望んでいるのだろう。
それ以外にも、各個人のやりたいことをやったり、楽しんだりもいいかもしれない。
願いが叶うように、これからも頑張っていこう。
けれど──。
「楽しみだね、想像するだけで」
「──そうですね」
俺とフリーゼの表情に思わず笑みがこぼれる。
まだ戦いが終わったわけではないが、こうして戦いが終わってからのことを考えるのも、悪くないだろう。
そんな事を考え、ゆっくり風呂に使っていると……。
ぎゅっ──。
フリーゼが抱き着いてきた。予想もしなかった行動に俺の思考がストップしてしまう。
俺の全身が、フリーゼの柔らかくも引き締まった肉体の感触に包まれる。
フリーゼの両手が俺の身体にまとわりつき、ぎゅっと引き寄せてくる。
「フリーゼ……」
「もし、この戦いが終わったら。その──してもいいですか?」
俺の耳元で、そうささやく。話すと同時に彼女の吐息が俺の耳の穴に入り全身の力が抜ける。
「な、何を──」
「その、プロポーズです」
その言葉を聞いて、周りの時が止まったように感じる。
じっとフリーゼの恍惚な表情を見ながら、考える。
確かに「好き」と言われたことはあるし、俺もフリーゼは好きだ。
それでも、いきなり言われたプロポーズという言葉。
もちろん、今するわけではないから、考える時間はあるので今答えを出す必要はない。
それでも、予想しなかった行動に言葉を失ってしまう。
抱き合いながら、どうすればいいか考える。
そして、しばしの時間が経つ。
「いいよ。けれど……」
俺はフリーゼの肩を掴み、距離を取った。
「今は、目の前のことに集中しよう。答えは、その後でいいかな?」
フリーゼは赤くなった顔で微笑みを俺に向けた。
「──わかりました」
そしてフリーゼは俺の隣へと場所を変える。
一緒に、窓の外を見ながら湯船につかる。
プロポーズか……。まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。
フリーゼは、本気で俺のことを思ってくれている。
だから、俺もしっかりと答えを出して、返事をしないと──。
大変な事になってしまった。
フリーゼの気持ちに、しっかり答えられるようにしたい。
そして俺たちは風呂から上がり、自分たちの部屋へ。
ベッドは別々になっていたが、フリーゼが一緒に寝たいと甘えてきた。
俺が大丈夫だと答えると、フリーゼは俺の腕に頭を添えて、寝ようとする。
いわゆる腕枕というやつだ。
腕枕になりながら俺に抱き着いてきた。フリーゼのぬくもりを、全身に感じる。いつもより甘えてくるのがわかる。
けれど、それは以前と比べて俺のことを信じてくれていることの裏返しでもある。
そんなフリーゼの期待に、何とか応えられるようになりたい。
そんな事を考えながら目を閉じる。
いけないいけない。まだ浮かれている場合じゃない。
数日後は、フリーゼと一緒に闇市への潜入捜査。きっと一筋縄ではいかないだろう。
気合を入れ直さないと。
何があっても、生き残っていい結果を出そう──。
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