第162話 ステファヌアの、意外な一面
大聖堂の一番上。
そこにある教会の応接室。
赤絨毯の床、部屋の隅には高級で上品そうなランプや瓶、フィヨルドや氷河などが描かれた美しい絵画などが飾られている。
この街にいるのも、これで最後。俺達は、ステファヌアさん達に熾天使の手紙や、彼らのことをなんか知っているか聞きに来たのだ。
そして白いクロステーブルが引かれた木製のテーブル。
銀でできたコーヒーポットと、白いコーヒーカップ。
そこに、メイド服の女の人が人数分のコーヒーを入れている。
歴史を感じさせるつくり、そして教会の総本山として人々におもてなしを与えるのに十分なつくりをしていた。
「さあ、ソファーにお腰掛け下さい」
ソファーはふかふかでとても柔らかかく、ハリーセルは無邪気にポンポンソファーの上ではねていた。
「こら、はしたないからやめなさい」
レディナの注意にハリーセルは無邪気に言葉を返す。
「でも気持ちいフィッシュ。すごいフィッシュ!」
「まあまあ、別にかまいませんよ」
それを見てステファヌアが優しくなだめる。
「とりあえず、座ろう」
俺達は順番にふかふかのソファーに腰掛ける。
同時に、メイドの人はコーヒーを煎れ終わり、俺達の前に出す。
メイルが机に向かって手を出し、一言。
「とりあえず、召し上がってください」
「ありがとうございます。
そしてコーヒーを口につけた瞬間──。
「あっっっっつい!! 苦い!!」
ステファヌアは慌てて口からコーヒーを離し、急いでがたんと机に置く。
そして右手で口元を覆い、苦しそうな表情をした。
慌ててフリーゼが立ち上がる。
何があったんだ?
「ど、毒でも入っていたんですか? 助けないと」
しかし、クリムが冷静に言葉を返す。
「そんなたいそうな事じゃないわ。メイドさん、あんたステフに仕えるの初めて?」
メイルはため息をついてあきれ果てる。そして、コーヒーを飲みながら侍女に声をかけた。
「そ、そうなんです──。ステファヌア様は、熱いものと苦いものが大の苦手なんです……」
メイルがあーとでも言いたげな表情で彼女の事情を説明した。
その言葉に侍女はお盆をぎゅっと抱きかかえ、驚く。
「そ、そうだったんですか? 申し訳ありません。すぐにお取替えさせていただきます」
そして何度も頭を下げた後、ステファヌアのコーヒーを持っていこうとする。
すると、ステファヌアはスッとその手をふさぐ。
「──大丈夫です。もったいないですし」
「し、しかし……」
引き攣った笑みで手を振りながら言葉を返すステファヌア。
確かに裕福とは言えないこの地で、味が合わないだけで捨てるというのはもったいないとは思う。
「それなら角砂糖を入れて、ちょうどいい甘さにしてから氷を入れるというのはどうですか?」
「そ、それがいいですねフライさん。氷の方、用意できますか?」
「──わかりました。急いで持ってきます」
そして侍女は早足でこの場を出ていった。
「──ありがとうございます」
「いえいえ」
「ステファヌアさんのい、意外な秘密だったでフィッシュ」
「──そうね。今まですごい人だと思っていたのに……」
レディナのため息交じりの言葉に、俺も同感だ。
今まで、ステファヌアさんは普通にすごい人だと思っていたけれど、何か拍子抜けだ。
ステファヌアの人間らしい一面を、初めて見た。
「とりあえず、砂糖を入れましょう……」
そしてステファヌアは熱いコーヒーにスプーンで砂糖を入れる。
それも七~八回ほど。
甘そう。
「もう、入れ過ぎよ。ほとんど砂糖水じゃない」
クリムがため息をして突っ込む。
メイルはそれを見てほっとしたような表情をしている。
「私も、それは感じております。虫歯になりそう」
「いいじゃないですか、甘い方が──おいしいですし」
ステファヌア、それを聞いても特に不機嫌にはならない。少しだけぷくと顔を膨らませた後、 微笑を浮かべ、言葉を返す。
三人とも、言いたいことを言っても、仲が悪くなる様子は全くない。
こういう、忖度なく言いたいことを言える仲というのも、悪くはないと思う。
そしてさっきの侍女が氷を持ってくる。
一度頭を下げた後、氷の入ったコップを机に置いた。
「ステファヌア様、氷です。先ほどは、申し訳ありませんでした」
「いいえ。私のわがままを聞いていただき、ありがとうございます」
ステファヌアは微笑みを侍女に向けた後、氷を二、三個ほどコーヒーの中に入れる。
ほどなくしてコーヒーが覚めると、ステファヌアは再びコーヒーを口に入れた。
「──はい、おいしいです」
ニッコリとしたご機嫌な表情。
そして穏やかな時間が過ぎた後、話の本題に入って行く。
侍女の人が飲み干したコーヒーを持ってくと、メイルがオホンと咳をして話が始まった。
「それでは、話の本題に入りましょう」
この場の雰囲気が真剣なものに変わる。
まずは俺、例の手紙をポケットから取り出した。
「この住所について何か知っていることはありますか?」
俺はそう言って一枚の手紙を机に置く。
メイルが代表して手に取り、その手紙を広げる。
「この、住所ですか──。これ、どうしたんですか?」
「これは、以前の私のパーティーの人が持っていた手紙よ」
レディナがメイルの方を向いて言葉を返す。
そう、これは以前ノダルの家を捜索してにあった手紙だ。
すると反応したのはクリムだった。クリムが思わず叫んで指をさす。
「あーー、この場所知ってる、ほら、先日違法な薬物を取引されているって強制捜査をしたやつ」
「あーそうですね。あの場所です」
なるほど、彼女達はすでにその場所を調査しているのか。これなら話が早い。
「捜査はしたのですが、特に何も見当たりませんでした」
「ただ、あれがあったじゃないですか──」
ステファヌアの言葉に、クリムが指をはじいて思い出す。
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