第141話 クリムへの罠

「待てクリム。ゼリエルの様子がおかしい、何か罠がある!!」


 俺は数歩踏み出して叫ぶが、クリムはそんなこと気にも留めない。


「罠なんて、このクリム様に通じるわけないでしょ。そんな小細工ごと、私のパワーで粉砕してやるわ」


 自身の剣をゼリエルに向かって突きつける。その姿にタミエルが一歩引いてゼリエルに話しかけた。


「おいおい、クリムって精霊でも強い方なんだろ。大丈夫かよ……。


 どこか不安な表情。しかし、ゼリエルは微動だにしない。クリムに向かってフッと不気味な笑みを見せつけると、小声でささやいた。


「大丈夫です。いくら力があっても、こいつなら、すぐに攻略できるです」



 そしてゼリエルは自信満々な笑みのままピッと指をはじいた。

 その瞬間、はじいた指から青白い光が生じ始める。



「クリム。下がりなさい。彼女から、ただならぬ力を感じるわ!」


 フリーゼがその力の邪悪さに気付き、警告するが。クリムは気にも留めない。


「余裕余裕。どんな力だろうと、私の力で押し潰して見せるわ」


 その光はさっきよりも力を増し、パッと閃光が走る。


 一瞬だけ、思わず目をつぶってしまった。

 そして光が再びやんだ。

 再び目を開け、周囲に視線を移すと、その光景に驚愕した。



「ステファヌア様?」


 俺達の後ろにいたはずのステファヌアが、一瞬で消滅。その体をタミエルが右手で抱え込んでいるのだ。

 意識を失ったステファヌア。思わず叫ぶ。


「どういうことだ──」


「なあに、ちょっと借りるだけさ。殺しはしないよ。それに、注意するべきなのは他にもいるんじゃねぇのか?」


 タミエルの挑発するような物言い、俺は周囲に視線を向けた。



「ステフ……」 



 クリムの様子がおかしいことに気付く。

 表情を失い、あぜんとしている。大切なステファヌアを取られて、ショックを受けているのだろうが、クリムの性格ならすぐに感情的になり、すぐにゼリエルとタミエルに突っ込んでいっているようにも感じる。


 クリムは、ぽかんと口を開け、数秒ほど固まった後、再び視線を向け──そして。


「フライ、フリーゼ──お前たち全員。絶対許さない!!」


「なんだ。どうしたクリム!」


 クリムは血眼になりながら剣を振り回し、俺たちに襲い掛かってきた。

 突然の出来事で戸惑いながらも、俺とフリーゼは何とか攻撃を受けていく。



「皆さんここは俺達が対応します。下がってください」


 その言葉に、要人や兵士、冒険者達は後ろの壁伝いに退避。


「クリム、どうしたんだ。言ってくれ」


 俺がクリムに叫ぶが、クリムは答えず、その間にも攻撃を加えていく。


 クリムは本気で俺たちを殺そうとしている。ふざけてなんかいない。その眼は、本当に、俺達を憎んでいる。


 それでも俺は攻撃を受けながら必死に話しかける。しかし、クリムは全く言葉を返さない。


「殺す。殺す。殺すゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ──!! お前たちを、ぶっ殺してやるぅぅぅぅっっっ!!」


 全く聞く耳を持たない。

 何があったかはわからんけれど、クリムの身に何か起きたということは理解した。


 フリーゼがこっちに近づいてひそひそと話しかけてくる。


「とりあえず。私に時間をください──」


 そう言うとフリーゼは、さらに急接近してきた。



 ぎゅっと腕を掴んで腕を組んだような状態になる。

 フリーゼの柔らかい肌が当たり、一瞬ドキッとしてしまうが、今はそんな場合ではない。


 そしてフリーゼは目をつぶると、その身体が青く光りだす。

 それからその光は、俺の体を包み始める。


「フライさん。目を閉じてください。かかる時間は一瞬です」


「──わかった」


 フリーゼの言葉通り俺は目を閉じる。すると、瞼の裏に、とある光景が生まれた。


 声のタイミング、ゼリエルやタミエルの居場所からしてさっきの閃光が刺し、クリムが悲鳴を上げた時間だ。


 しかし、先ほどとは決定的に違う所がある。


 それは、俺とフリーゼ、国王親子だ。


 俺とフリーゼがステファヌアを捕らえ、ケイルとジロンがステファヌアの腹をぶん殴る。

 そしてステファヌアは血を吐いて、ピクリとも動かなくなってしまった


 倒れこんだステファヌアを意気揚々と肩に乗せたタミエルが、俺たちに向かって親指を上げる。すると、そこにいた俺とフリーゼもそれに合わせるかのように親指を上げたのだ。


 俺はすぐに理解した。この映像は、クリムが見た光景なのだと。


「これは、ゼリエルが見せた光景なのか?」


「はい、今の術式は他人の視点から物を見ることができる術式です。強力な半面、魔力の消費が激しく、戦闘での使用では避けたかったのですが──。クリムに何があったのかが分からなければ、対策のしようがありませんので──」


 そして俺たちはこの空間から戻った。数分の間いたように感じても、空間に居た時間自体は一瞬なのだろう。

 すぐにクリムが攻めかかってきて、攻撃に対応。


「そういう──、ことだったんですね……」


 フリーゼの息が軽く荒くなっている。消費魔力が大きいのだろう。


 フリーゼ息切れするなんて相当だぞ。


 と考えてみたが、簡単にできるなら以前からやっているはずだ。普段は魔力の消費が多くて使えないけれど、今はそんなリスクを負っても使わないといけない。


 そんなところだろう。



 俺はクリムの攻撃に対応しながらゼリエルに向かって叫んだ。


「お前たち、クリムに何をしたんだ。言え!」


「そこまで怒るなよ。なぁ~~に、ちょいと認識を変えて洗脳を施しただけさ」

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