第140話  唯一王 遺跡の奥へ

 そのころ、俺達は遺跡の最深部に到着。


「ここが最深部です」


 先頭のステファヌアが俺たちの方向に視線を向け、手を広い空間全体の方へと差し伸べた。


 部屋と呼ぶには広すぎる空間。

 そこには、ランプがともっていて、全体的に薄暗く光っている。


 そして、ところどころ風化した後がある壁。

 そこには白い服を着ている女性たちの壁画。所々、色は剥がれていて地が出ているのがわかる。昨日訪れた遺跡より、ひと昔古いように思えた。


 壁画の人たちは、金髪だったり、緑だったりと様々な人って──緑?


 その緑の人は、背が高く、髪が長い。そして大人びた顔つき。とっさにフリーゼに視線を移した。


「恐らく──、これは私です」


「やっぱり」


 赤い髪に、水色の髪──。これはレディナとハリーセルだ。レシアもいる。

 ここにいるのは、天使や精霊達。


 ここにいる人たちは、彼女達を知っていたのだろう。

 他の要人たちも、その壁画をまじまじと見ている。


 ステファヌアがこの広間の中心に立ち、パンパンと手をたたくと、大声で周囲に向かってしゃべり始めた。


「それでは皆さん。最後の儀式、始めますよ──」



 そして要人達がステファヌアの元に集まり始めた次の瞬間──。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 突然頭上から大きな音がし始めた。慌ててここにいる全員が頭上へと視線を向けた。


「な、何だよこの光は」


「眩しっ、なんかの罠か?」


 頭上に突然合わられたのは、大きな光の柱だ。それも、真っ白に眩しいくらいに輝く



 あまりの光の強さに俺もフリーゼも思わず目をつぶり、そらしてしまう。

 そして、その光が弱くなると、光の中から人影が現れ始めた。

 そこに現れたのは四人の人物──。


「とうとうやってきましたね、あなた達」


 真ん中にいる人物が腕を組みながら話しかけてくる。まるで汚いものを見ているような蔑んだ眼。




 まず一人目。

 小柄で金髪、三つ編みをしていて勝ち気な目をしている人物。


 その隣には長身で茶髪のロングヘアな姿をしている女の人。

 外見は二十代くらいのお姉さんに見える。顔つきはきりっとしていて、どこかきつそうな印象。


 この二人は、面識がない。しかし、二人から発せられる強大な魔力から、二人は天使、もしくはそれに近い存在だと推測できる。



 次に視界に入ったのは騎士の格好をした金髪の男。二人に比べれば幼い顔つきだが、どこか薄ら笑いを浮かべている人物。確か、グランとか言う男で、スパルティクス団の幹部の男。


 昨日はハリーセルに負けて撤退したものの、まだ実力を隠している可能性もある。


 そして、最後に視界に入った人物。予想もしなかった、驚きを隠せないまさかの人物がそこにいた──。


「お、お前──こんなところにいたのか。トラン」




 その姿を見るなり、俺は言葉を失ってしまう。

 表舞台から姿を消し、どこにいるか誰もわからなかったのだが、まさかこんなところに落ちていたとは──。



 赤髪でツンツン頭の青年。

 以前俺はその姿を見たことがある。


 強い力を持っているものの、素行が悪く、故意にミュアを見捨てたという罪でギルドから追放された。


 あの時より、目つきが悪くなったり服がよれよれになったりして、どこかやさぐれている印象がある。


「ようフライ。お前に会いたくてずっとウズウズしていたぜ……」


 トランはニヤリと笑みを見せながら舌を舐めずり。


「トラン──。なんでこんなやつらと手を組んだ」


 そう、間違いない。少ししか目を合わせたことはないけれど、間違いなく彼だ。

 かなり久しぶりに見た。


「そりゃあ。お前のせいだからよぉ。お前のせいで、俺は表で信頼を失い、まともな仕事に就けなくなった。そして、そんな俺様を拾ってくれたのがこいつらというわけだ」


 すると、隣にいたグランがにやけながら話す。


「そうだ。金のためによく働いてくれるし、何よりウェレン王国ではほとんどいない元Sランク。なかなかの掘り出し物だったよこいつは──」


 なるほどね、はぐれ物同士ひかれあったということか……。


 そしてフリーゼは、二人の女性の方へと視線を向けている。

 二人に対して、真剣な表情でにらみつけている。


「ゼリエル。それにタミエル。どうしてこんなところにいるのですか!」


「知っているのか、フリーゼ」


「はい、こいつらは熾天使の仲間です。実力もそうですが、相手を分析する能力や巧妙な罠を張って、敵を陥れたりすることが得意な人物です」


「お久しぶりですね、フリーゼ……」


 ゼリエルの、冷めきったような目つきと、何を考えているかわからない無表情さ。


「よりによってあなた達ですか。何をする気ですか?」


「何をって、ここで話すわけないだろ、バーカ!」


 タミエルがバカにしたような笑みで言葉を返す。

 そんな姿にクリムは腕を組みながら余裕の笑みを見せる。


「ふん。なんだか知らないけれど愚かそのものだわ。所詮あんた達じゃ私の噛ませ犬にしかならないのよ。それを、今から教えてあげるわ!」


 そして自身の剣を召喚。

 対してゼリエルも、余裕の笑みを見せていた。


「かませかどうか、愚かかどうかはすぐにわかりますよ。自分の未熟さとともに、それを教えてあげましょう」


「待てクリム。ゼリエルの様子がおかしい、何か罠がある!!」

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