第122話 唯一王 二日目を迎える

 二日目。


 正直、あまり眠れなかった。当然だ、両隣に異性がいて、腕をぎゅっとつかんでくるのだから。


 目をこすりながら食堂へ。


 ライムギのパンにヤギのバター、サラダとチーズなどの食事が出される。

 どれも品質がかなり良いものを使っていると感じた。


 そして準備をして着替え。昨日の様なしっかりした服を着る。

 全員の着替えが終わる。俺はスーツ。フリーゼたちはブラックドレス。大聖堂へと出発。


「フリーゼ。今日は──、わかってるね」


「ええ、気を引き締めましょう」



 そう、メイルとクリムの言葉によるとスパルティクス団の襲撃がある日だ。

 相手が裏組織ということもあり、どんな手段を使ってくるかわからない。


 なので、どんなことがあってもいいように警戒し続ける必要がある。

 何事もなく巡礼祭が進むよう、頑張っていこう。



 前日と同じように大聖堂前の大きな広場に一同集合。

 兵士の人がここにきていない人がいないか確認。


 それが終わると、軽い挨拶をしてから長い隊列を組み出発。


 街を出発してから俺たちは人気が全くない道を歩いていく。俺たちのポジションは昨日と同じくしんがり。

 要人たちの後ろで、敵が襲ってこないか警戒を続ける役割だ。


 雪が積もった針葉樹の森。そこを抜けると断崖絶壁で海に面する細道を進み始める。


 しばらく歩いていくと高さ数百メートルから見える複雑な地形の入り江海岸の景色が現れた。

 そこから見える海や木々は、今まで見たことがないほど雄大で綺麗なものだと感じた。


 確かこれは聞いた事がある。長い時間解けずに積もった雪が氷となり、地面を侵食し、そのまま気候変動で氷が解け、出来た地形。

 フィヨルドというやつだ。


「フライさん。これ絶景ですね。本当に素晴らしいです」


「そうフィッシュ。きれいフィッシュ」


 フリーゼたちはその美しい光景に興味津々だ。俺もそうだけどこんな風景、雪国でしか見ない。


 だから初めて見る光景に目を輝かせているのだろう。

 大自然が織りなす素晴らしさを、とても感じている。


 そんな絶景が見える場所に最初の巡礼場所はあった。

 そこで要人や教皇の人たちが祈りをささげ、黙とうを行う。




 終わるとしばしの休憩をとり、再び出発。再びフィヨルドが見える断崖の道を進む。

 途中警戒は怠らないものの、敵の気配はない。



 出発から一時間ほど。断崖絶壁の道の先に大きな洞窟。



「ここを抜けて内陸部の道を歩いて二日目は終了よ」


「そうなのかクリム」


「ただ、あの洞窟の中、暗いうえに魔物が出ているから、気を付けた方がいいわ」


 なるほど、じゃあ気を引き締めないとな。


 そして一行は洞窟の中へ。俺たちはさっきまでと同じくしんがりとして後方への警戒を続ける。


 少し入ると光が無く真っ暗な道となる。

 そのため同行していた冒険者数人が明かりを照らし、足元が見えるくらいにはなった。


 薄暗い鍾乳洞の道を、足場に気を付けながら俺たちは進んでいく。

 無数の成長した鍾乳石と石筍がきれいに見え、どこか神秘的に感じる。芸術といっても過言ではない。


 さっきまでのフィヨルドの絶景もそうだが、こういった神秘的な風景がこの地の人が大天使を信仰する理由になったのだろうか。


 そんなことを考えていると、誰かが俺の肩に触れてくる。


「フライさん。何かが私達に近づいています。それも私達を取り囲むように複数──」


「本当かフリーゼ。それなら、戦う準備をした方がいいな」



「僕もそれを感じる。しかも結構強い魔力。警戒した方がいいよ」


「ありがとうレシア。ちょっとこのことを伝えてくる」


「早く酒が飲みてぇんだよ。何とか進みながら対応しろよ


「そうはいきません。お願いします、そう長い時間はとらせませんから」


 ジロンの罵詈雑言に、ステファヌアが優しくなだめる。当然だ、もし敵が待ち伏せ状態で奇襲を仕掛けてきたならば、相手は俺達を倒すためにどんな奇策を売ってくるかわからない。


 おまけに有利になったとしても、何とか有利な状態に持ち込もうと要人たちを人質にとったりもする。


 だから安全のため、警戒を怠ってはいけないのだ。


「チッ──。ふざけるな。それはおめぇたちが無能だからだろうがよ!」


 しかしそんな心配、当のジロンには全く届いていない。

 それでもステファヌアは、優しくも引かない姿勢で説得。


「もし要人たちに何かあったら王国の名誉にかかわってしまいます。それに、ケイル様のお楽しみは逃げたりしません。少々お待ちください」


「チッ──。しょうがねぇなあ。この俺様のやさしさに免じて許してやるよ」


 ジロンは嫌々ながらも了承してくれた。

 そして俺たちが口論になっている間、彼らは襲ってきた。どこかから物音がすると、それにフリーゼが初めに気付き、周囲に向かって叫ぶ。


「フライさん。敵が来ます。冒険者の皆さん、準備をしてください!」


 フリーゼの言葉に冒険者は所定の位置につき、戦闘班と要人の護衛にあたる班に分かれた。

 そして、暗い洞窟の中から大きな化け物は現れる。


 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──!



 黒色の肉体に醜い形をしたオークの様な外見の化け物。「アルコーン」であった。









 ☆   ☆   ☆


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