第121話 クリム 孤独の過去と一つの疑問

 クリム視点。



 遺跡で孤独だった私。突然誰かがやってきた。

 やさぐれた言葉使いで私は話かける。


「あなたたち、何しに来たの?」


 すると、一人の女が私の元へ近づいた。


「あなたを、救いに来ました」


 そしてメイルとかいう女が私の額に手を触れた。

 真っ白く、どこか暖かい光。それが私を包む。


「これで、あなたは解放されました。さあ、外へ出ましょう」


 隣にいる清楚そうで、かしこまった服を着た人が言う。

 正直むっとした。そんな簡単に、出られるものか──。


 試してやるよ。約束を破ったら、ただじゃすまないからな──。

 私は半信半疑で、ステファヌアとかいう女の後について行く。


 結論から言うと、あっさりと出来た。何百年ぶりかってくらいの、眩しい日差し。


 それから私は、ステファヌアとメイルとかいう女と生活を共にすることとなった。


 同時に、大天使たちを崇める教会へと入ることとなった。


 私は、自分で言うのもなんだが感情的な存在だ。

 一度カッとなると、自分でも感情をコントロールできない。

 そこでも、問題を起こすこととなった。


 教会に入ったころ、領主から不遇扱いを受けていた私。なぐさめの言葉がたくさん飛んできた。


 とくにステファヌアと一緒にいたこと、弱者救済をぜひとしていることから教会の信者たちからはたくさんの慈悲(と自分たちが思いこんでいる)言葉をいただいた。


「メイルちゃんって言うんだね。なんてかわいそうな人なんだ。けれど、こんなことでくじけてはいけないよ」



「きっとね、これは大天使様が与えられた試練なんだよ。私達も一緒にいるから、絶対に乗り越えよう」


「負けちゃだめだよ。これはあなたに与えられた試練なんだよ」


「だから私達と一緒に祈りましょう。そうすればあなたの荒み切った心も、きっと癒されるはずだよ」


 ふざけるな──。


 そんな安っぽくて空虚な慰めに、どれほど私の心が傷ついたかわからない。

 信者たちは良かれと思ってやっていっているから本当に腹が立つ。


 途方もない時間の孤独。それがどれだけ私の心を荒ませたのか──、お前たちにわかるのか? 理解したような言葉を吐かれると、怒りが泊まらない。


 クリムも、そんなことを吐いていた。

 孤独だった自分への安っぽい言葉、やはりなにも届いていないと──。




 ──が唯一ステファヌアだけは、そう言ったことをしなかった。


 ただ、ギルドや家の前などを訪れては、お腹を空かせてはいないか、困っていることはないか、クエストはうまくいっているか? などを聞いたり。後はたわいもない日常会話をしたり、一緒にご飯を食べたりして、ただ私達のそばにいてくれた。


 私が悪夢を見たときには、うなされている私を介抱。

 クエストでけがをしたときには、家にまで来て看病をしてそばにいてくれた。


 この人が、祈るしか能がないお花畑人間ではないことは分かっている。

 周囲との駆け引き、時には裏社会とかかわることだってあった。


 教会を守るためには、多少の悪事ならいとわないことだってあった。



 それでもこの人と一緒にいると、もっと、彼女と一緒に居たい。力になりたいと──。


 そのように考えてしまう。愚かなものだ。彼女だって、私を利用して何かを企んでいるかもしれないというのに──。


 何かしらの思惑は感じられる。


 それでも、彼女の存在と気持ちを、快く思ってしまう。



 内心警戒は怠っていないが、こればっかりはどうにもならない。

 人は弱っているとき、どうしても自分の味方に好意を抱いてしまう。


 そんなステファヌア様を、私は心のどこかで母親のように感じていた。


 そして、彼女のために戦い続けようと、感じることができた。



 孤独だった私に、家族のようなものが生まれた。

 しかし、不満だったこともある。

 それは、去年の出来事──。


「ステフ──。ちょっと処分が甘くない?」


「どうして、そう考えたのですか?」


「どうして? こいつ、私達を裏切ったのよ」


 問題になったのは、一人の信者のことだ。古びた服を着た、貧しい男の信者なのだが、こともあろうに信者たちの情報の一部を売り渡してしまったのだ。


 スパルティクス団の奴らに──。


 聞いたところによると、この男はまともに食事がとれないほど貧しく。三日間何も食べていなかった。

 確かにそれには同情するけれど、それでも許せることではない。



 信者たちからも、こんな裏切り者は磔にして、奴隷にしろという声があった。

 事実さっきまで信者たちからボコボコにされ、傷だらけあざだらけになっている。

 しかし、教会の上層部が出した手段は違った。



 数年間の教会での奉仕(労働)義務と、その仕事から出る賃金から払う、今回の損害賠償だけだった。



 ステフの処分が甘い。そういう声はたまに聞く。

 私も、それについての事を聞いても帰ってくる言葉は一緒だった。


「いいえ、これ以上処分を重くするつもりはありません」


「なんで?」


「確かに償いは必要です。しかし、容易に罰を重くし、彼をこの場から叩きだしてしまえば、彼はさらに悪事に手を染めてしまうでしょう。そして私達のことを敵と認識し争いを繰り広げてしまうでしょう。それだけは避けなくてはなりません」


 と言ってしまった。ステフは優しくも、こういう時に決して一線を譲ることはない。

 私が何と言おうと、その言葉を変えることはないだろう。


 だから、これ以上私も言わない。


 それでも、他に居場所がない私はステファヌアを頼っている。


 疑問点はあるけれど──。

 本当に、この人にゆだねて大丈夫なのかと……。

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