第56話 フリーゼ、初めて酒に酔う

 ハリーセルとのデートから数日後、今度はフリーゼとのデートだ。


「とりあえず、繁華街はどうだった?」


「楽しかったです、フライさん。珍しい宝石に食べ物、見ていて素晴らしかったです」


 まずは公園に集合し、ショッピングなどを楽しんできた。しかし、これは余興のようなもの。

 フリーゼとのデートのメイン。


 それは一緒に食事をすることだ。


 さっきまでの人通りが多い街を通り過ぎ、二人で閑静な通り道を歩く。


 道行く人は高級そうな貴金属を身に着けていたり、幌が付いた馬車に乗ったりしていて、身分が高い人だというのがわかる。


 この辺りはこの街でも上流層の人が住んでいるエリアだ。

 名門貴族や、政治家の人も見かける。

 当然来たことがない。初めて通る道。


 そしてそんな中にあるこじんまりとした店。


「ここですか? なんか家みたいですね」


「多分民家を改造して作った店なんだと思う。じゃあ、入るよ」


 チリンチリン──。


 ドアを開けるとついていた鈴が鳴り、店員のメイドさんがやってくる。


「いらっしゃいませ、ご予約のフライ様、フリーゼ様でございますね。早速席をご案内します」


 店には所々に綺麗な花が飾られている。


 おまけにラベンダーの香りがうっすらとした香り。

 ただ食事を提供するだけじゃなくいろいろ気遣いができていて、流石は富裕層向けの店だと感じた。


 そして俺たちは窓側の眺めがいい席へ。

 高級感あるおしゃれな街がよく見えていて食事にはもってこいの場所だ。


 ここは本来貴族などの身分が高い人が食事をする場所だ。


 いつも俺たちが行っている店とは格式が違う。


 値段もそれなりに高いし、服装もそれなりの物を要求される。

 マナーや作法などもきちんと学んでいかなくてはならない。


 なので俺は高そうなスーツ、フリーゼはドレスと購入してきた。俺の金で。


 結構な支出になっちゃったけど、また稼げばいいか。


「とりあえず、ディナーセットを二人前下さい」


「承知しました」


 そう言ってメイドの人はこの場を去っていく。



 それから俺は料理が出て来るまでの間、フリーゼといろいろなことを話す。


 普段の生活のこととか、戦っていて気になっていたことを聞き出し、共感する。


 そして、優しい口調で「こうすればいいんじゃないかな」と解決の糸口をそっと話してあげる。

 会話が途切れないように話題を用意したり、気を使ったりするのもとても大変だ。


 それでも、フリーゼが優しく笑みを浮かべて「ありがとうございます」と言葉を返して来るととても嬉しい。


 なことをしていると、時間はあっという間に過ぎて料理がやってくる。


 銀色の高級そうな皿。

 サラダにパン。野菜スープ。

 それから、メインの牛肉のステーキ。

 あとワイン。


 まずは互いのワイングラスに赤ワインを注ぐ。


 コンとワイングラスを当てて一口。


 それにしてもワイン。アルコールか、初めて飲むけど、おいしい。ただアルコールがきつそうだから飲みすぎないようにしなきゃ。


「このワイン。おいしいね、フリーゼ」


「はい。これがワインというやつですか。ブドウの甘味に、後を引く味。正直とても好みです」


 フリーゼはワインの味がとても気に入っているようで、すぐにグラスに入っているワインを飲み干してしまった。


 ワインって結構アルコールが強いけど、フリーゼって酒に強いのかな?

 ちょっと聞いてみるか。


「そういえば、フリーゼってお酒は飲んだことあるの? そんな一気に飲んで。ほら、ワインってアルコールが強い方だし……」


 するとフリーゼは不思議そうな表情になり、キョトンとし始めた。


「お酒──、というのは今まで飲んだことがありません。アルコールというのは、取りすぎると危険なのでしょうか?」



 じゃあフリーゼは酔いってものを知らないのか。


「まあね。人によってだけど、理性を失って人格が変わるとか、泣いて絡みつくとかいろいろあってね……」


 それは、気を付けないといけませんね」


 そっけない口調で言葉を返してくる。きっとアルコール自体を知らないのだろう。

 まあ、これだけ飲んでるんだ。嫌でも体で理解できるだろう。


 それから、ワインを飲みながら食事にも手を付ける。



 おいしい肉のステーキに、硬めのパン。野菜スープ。高い店だけあって、味はおいしかった。


 会話しながらの食事。

 いろいろ話せたし、お金はかかっちゃったけれど、いい経験になった。



 そしてフリーゼは……。


「な、なんか体が熱いです。脱がせていt──」


「待て、こんなところでストリップをするな!」


 身体がほでっているのか、いきなり上の服を脱ごうとした。すぐに俺がそれを止める。


 見事に出来上がっている。

 それだけでなく、顔を真っ赤にしてどこかふらふらしているフリーゼ。明らかに酔いが回ってきているのがわかる。


「あれ、フライさん。なんでふらふらと動いているんですか?」


「逆だ。ふらふらしているのはお前だ」


「そんなことないですよー、私はこの通り大元気ですよ! フフフ──。フライさんって面白い人なんですね~~」


 人格が変わっているのではないかと疑うほど、ハイテンションになっている。

 完全に理性を失っているのがすぐに理解できた。早く部屋に戻らないと大変なことになるぞ。とりあえず店から出よう。


「店員さん。お会計の方お願いします」


「分かりました」


 そして俺はお会計を済ませた後。フリーゼに肩を貸し、店を出ていく。

 店を出ると、涼しい夜風が体にあたる。


 どこか肌寒い感覚。それと隣にいるフリーゼ、彼女の体温がとても感じられていてドキッとしてしまう。


 帰るときも、フリーゼの酔いは止まらなかった。

 笑い上戸になったように明るく笑い。楽しそうにはしゃぐ。


 なんだか、とてもかわいい。普段の無表情な彼女と、とてもギャップを感じる。

 これが、本当のフリーゼなのだろうか。


 そして数十分ほどたつとホテルへと到着。

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