第57話 酔いの代償

 そして数十分ほどたつとホテルへと到着。


 フリーゼと抱えたままなので、いつもの倍近く疲れてしまった。

 鍵を開け、中に入るとすでにハリーセルとレディナはベッドの中で夢の中に入っていた。

 二人とも、入ってきたドアの音にびくともしない。ちょっとやそっとじゃ起きなさそうだ。



 弛緩しきったフリーゼの重み。さっきまでのテンションが嘘だったかのようにぐったりと、冷静になっている。


 寄っているせいでフリーゼは顔を熱くし、息を荒げてはいるが、意識はかろうじてある。



 やはり疲れは残っているようで、フラッとしている。



「よかったです。フライさんといることができて、私はとても幸せです」


 まだ酒に酔っているせいか、ふらふらとどこか夢見心地のような口調でフリーゼは囁いた。


「フライさん。私なんかのこと、思っていてくれるんですね。そういう所、本当に大好きです。ずっと、こうしていたいという気持ちになれます」


「フライさん。あなたとこうして……、いたい──」


 幸せそうに蕩けた表情でささやくフリーゼを見て、思わずドキッとする。

 フリーゼはなんと顔と体をすりすりと寄せてきたのだ。


 その筋肉で締まりつつも絹のように滑らかな腕を、俺の首の後ろにゆっくりと絡めてくる。

 ってちょっと待て、それはまずいぞ──。


 普段は、クールで口数が少なく、真面目なフリーゼの意外な一面。

 俺はフリーゼの大胆な行動に驚いてしまう。






 長身で、俺と同じくらいの彼女が、上目遣いで甘えた表情でおねだりをする

 ま、まずい。このままではフリーゼと間違いを起こしてよからぬ展開になってしまう。


「ま、待ってくれフリーゼ。勢いに任せてそんなことしたら後悔する──って寝てるし」


 フリーゼはすでに寝ていた。初めてのお酒の経験。

 酒の程度がわからず酔いつぶれてしまったようだ。


 すぅすぅと静かな寝息を立てて眠っている。

 取りあえず間違いが起こらなくてホッとした。



 俺はフリーゼを抱きかかえ、ベッドに寝かせた。


 ふぁ~あ。とたんに俺も疲れが出て来た。もう夜も遅いし寝ようか。

 今日はいろいろあった。まさかいつも物静かなフリーゼが酒が入るだけであんな変貌を遂げてしまうなんて──。


 彼女の意外な部分だ。


 明日は大変な事になりそうだ。フリーゼ、今日の変貌ぶりを思い出してどんなことになるだろうか。


 気が思いやられる。けど、何とかいい終わりに持っていこう。


 そして俺は夢の中に入っていく。









 翌日。


 まだハリーセルとレディナは起きていない。

 そんな中で、俺とフリーゼは起床し、ベッドで見つめあう。


「うう……、頭がとっても痛いです。それに気持ち悪い──。これは、なんでしょうか」


 フリーゼは具合が悪そうな表情で頭を抑えている。


 二日酔いと吐き気に襲われているのだろう。初めての体験だというのが一目でわかる。


「ハハハ、頭が痛いのは二日酔いてやつだ。人によってはあれだけアルコールをとると、気持ち悪くなってしまう。これからは飲みすぎないように気を付ければいいよ」


「そ、そうなんですか。これからは気を付けm──うえっ!」


 そしてフリーゼは口に手を抑えたままトイレへ。何をしに行くかは、聞かないでおこう。



 そしてリバーズを終えたフリーゼがどこかすっきりとした表情で戻ってくる。

 取りあえず、水を渡そう。


 俺はフリーゼのマグカップをすすいでから水を入れ、フリーゼに渡す。


 フリーゼはコップを受け取ると、そっと口につけ、ゆっくりと水を口に入れる。



 一分ほどしただろうか、フリーゼがコップの中の水を飲み干しほっと溜息をつく。


「フライさん。聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか」


「何?」


 するとフリーゼは頭を押さえながら俺に聞いてきた。


「昨日、食事をしていて、それから朝まで全く記憶がないのですが、何があったんでしょうか。これも、お酒の効果なのでしょうか」


 ど、どうしよう──。

 流石に言えない。


 酔った勢いでストリップをしようとしたり、キャラクターが崩壊してハイになって笑ってたりなんて──。


 言ったらフリーゼ、どうなってしまうのだろうか。発狂してしまうかもしれない。


「う~~ん、ふらふらして眠っちゃったんだよね。酔いつぶれるって言うんだけど。それでどれだけゆすっても起きなかったから仕方なく俺がこの部屋までおんぶしてきたんだ」


「そ、そうだったんですか。申し訳ありません」


 ──とりあえずごまかせた。


「アルコールを飲みすぎちゃったときは誰でもこうなるものだよ。これからは飲みすぎないようにセーブしていけばいさ」


「わかりました。これからは気を付けます」


 シュンとしながらのフリーゼの言葉。俺も、フリーゼが飲み過ぎないように気を付けよう。


 それから、なんとも言えない無言の時間が過ぎる。気まずい。


 こういう時は俺からなんか話さなきゃ。どうしよう──、そうだ。


「フリーゼ、聞きたいことがあるんだけれどいいかな?」


「……なんでしょうか」


 俺はベッドでフリーゼの隣に座り、そっと聞いてみる。


「フリーゼは、俺やレディナ、ハリーセルと一緒にいてどう思ってる? 俺たちと出会って、どんな風に感じてる?」



 いくら仲が良さそうに取り繕っても、不満の一つや二つはある。

 我慢してばっかりでは、彼女のストレスになり、どこかで必ず爆発してしまう。

 だから、このタイミングで聞いておきたいのだ。


 フリーゼの、本当の気持ちを──。

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