第55話 ハリーセルとの一日
平謝りする商人の顔を、ぷくっと膨れた顔でハリーセルは見つめている。
「さっきの短剣、九割引で売ってくれフィッシュ」
「さすがにそれは──」
ハリーセルの言葉にあたふたしながら否定する商人。しかし。
「──言いふらすフィッシュ」
「待ってください。そんなことしたら商売になりません」
ハリーセルは横に視線をそらし──。
「冗談フィッシュ」
そう言い放つ。おじいさんは安心したのか肩をなでおろした。
「じゃ、じゃあ別の店に行こうか」
これ以上ここにいてもいいことはないだろう。気を取り直して次へ行こう。
「そうフィッシュ。もっといろいろ回りたいフィッシュ」
ということで俺たちは他の店を回る。
珍しい昆虫の専門店や、ドライフルーツの店なども回る。
ドライフルーツはフリーゼとレディナのお土産も兼ねていくつか購入。
あじは、そこそこおいしいい。
それから、おしゃれな飾り物の専門店を発見。
「ちょっと、ここに寄ってみようか」
「いいフィッシュ。綺麗そうフィッシュ」
「いらっしゃい。見ていってよ」
長身で綺麗なお姉さんが店主だ。大きな机の上には珍しく光る宝石で作られたネックレスや指輪、飾り物などが所狭しと陳列されている。
どれかハリーセルに似合うものはないかな? そう考え商品を眺めていると一つの商品が視界に入る。
青色で星の形をした、きらきらした首飾りだ。
可愛い絵柄、これがいいかもしれない。
「これなんかどうかな。ハリーセルに似合ってると思うけど。青っぽくて、ハリーセルに似合うと思うんだけど」
ハリーセルがその首飾りを見た瞬間、瞳をキラキラと輝かせる。
「おおっ、綺麗フィッシュ。私に似合いそうフィッシュ」
そこまで喜んでくれると俺も選んだかいがある。嬉しい気持ちだ。
「お姉さん。この首飾りが欲しいんだけれどいいですか?」
「分かりました。お値段はこちらです」
お姉さんが提示した値段。金貨二枚。結構するな。けれど、せっかくのデートだし、ハリーセルにはいい想いをしてほしい。
お金は、また頑張って貯めよう。
「了解です。それを売って下さい」
「わかりました」
そして会計をしようとするとハリーセルが一つの商品をお姉さんに手渡す。
「これはフライの分フィッシュ。私が払うフィッシュ」
「俺は、別にいいよ」
そうだ。これは、ハリーセルをエスコートするための時間。俺が楽しむ時間じゃない。
しかしハリーセルは納得いかなようで顔をぷくっと膨らませる。
「私だけ買ってもらうなんて嫌フィッシュ。フライも喜んでほしいフィッシュ」
う~ん、ハリーセルはこういう時頑固になり引かないことがある。断り切れるとは思えない。
すると彼女はさらに言葉を進める。
「フライは、いつもみんなを気遣ってるフィッシュ。大切にしてくれるフィッシュ。でも、一方的に大切にされるのは嫌フィッシュ。私も、フライに何かしてあげたいフィッシュ」
その言葉をはしながらのハリーセルの目つき。
強い想いを感じる。断り切れる気がしなかった。
「俺のことをそこまで気遣ってくれたのか。本当にありがとう。じゃあ、ここは言葉に甘えて──それ、いただくよ」
その言葉にハリーセルはフッと微笑を浮かべる。
「よかったフィッシュ。うれしいフィッシュ」
ハリーセルの、嬉しそうな顔。演技ではない心の底からの表情。
それを見て、俺は考えた。
今まで俺は人の好意を受けるのが苦手だった。裏があるんじゃないかと疑ってしまったり、こんな俺が認められるなんておかしいと思い込んでしまったり。
バーティー仲間から罵倒され、存在を否定され。その中で好意というものを素直に受け取れなくなってしまった。
けれど、たまには人の好意に素直に甘えてみるかもしれない。
少しずつだけど、変われるようにしよう。
「ありがとう、ハリーセルと一緒にいることができて、俺とても楽しい、またこんなことハリーセルとしてみたいな」
それからお会計を済ませる。
「はい、ありがとうございました。お二人とも、幸せに──」
「ありがとうございます、って私たちそんな関係じゃないですから!」
そして俺たちは闇市を去っていく。日も落ちて来る頃、そろそろ買い出しをしないと。
しかし、やっぱり女の子のエスコートって難しいな。どうしても脳裏によぎってしまう、これは失敗なのかな、もっと自信を持った方がいいのかなとか考えこんでしまう。
比較的単純なハリーセルとはうまくいったけれど、他の子でうまくいくかどうかはわからない。
けれど雰囲気は体験できたし、二人で行動した経験は積むことができた。
りんご飴をペロペロと舐めながら道を行くハリーセルに話しかける。
「あまりいいおもてなしができなかったけど、どうかな?」
ハリーセルは満面の笑みで答えた。
「そんなことないフィッシュ。フライと一緒にいる時間は楽しかったフィッシュ」
彼女の笑顔からしてお世辞ではなさそうだ。
彼女が喜んでくれて、本当に嬉しい。残り二人、レディナとフリーゼ。
二人にも、これくらい喜んでもらいたいな……。
そんなことを考えながら、俺達はホテルへと帰っていった。
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