第38話 唯一王、レディナの微笑に気付く

「了解しました。その部屋、しばらく借りさせていただきますね」


「ちょ、ちょっとまでフリーゼ」


 何と俺が返事を返す前にフリーゼが勝手に了承してしまったのだ。慌ててフリーゼに話しかける。


「フリーゼだって男の人と一緒の部屋で寝るなんて嫌でしょう?」


「私は、フライさんと一緒なら構いませんよ。レディナとハリーセルも、同じこと言うでしょう。それとも、私達と寝ると聞いただけで理性が持たないとか」


「そ、そういう事じゃないけれど」


 ……無防備すぎるこいつに俺は少し心配になってしまう。いつか本当に間違いが起こってしまうのではないかと。


「兄ちゃん。うちの部屋、それなりに防音対策はしているから夜、激しく変なことしても大丈夫だから、安心してお愉しみをしてくれよ」


 ホテルのおじさんも茶化すように言ってくる。

 これじゃあ断りようがない。仕方がないか──。


「分かりました。その部屋、しばらくお借りいたします」


「ありがとうございました。存分にお楽しみくださいね」


 そして俺たちはキーを受け取り、ハリーセルとレディナを呼んでくる。そして階段を上がり、用意された部屋へ。


「はー、疲れたフィッシュ」


「そうね、しばらく休もうかしら」


 俺たちは歩き続けて疲れていたせいか、すぐに荷物を床に置いてベッドに身を投げる。


 そしてしばらく会話が途切れる。ハリーセルに至ってはいびきをかいて寝ているのがわかる。

 しばらくはそっとしておこう。



 それからしばらく昼寝をして体を休める。夕日が部屋の中に入ってきたころに、俺は周囲が起きているのを確認。


「みんな、起きてるか──」


「起きてるわよ。っていうか夕方になっちゃったわね」


 レディナに続き、フリーゼとハリーセルも起きる様子を見せる。夕飯でも作るか。

 

 夕食は、有り合わせの物で簡単に作った。

 安く市場で買った鶏肉に、塩で味付け、それから、野菜を焼いて一緒に食べる。

 あとはライ麦のパン。


 贅沢な食事とは言えないけれど、おいしい味がした。


「ごはん、おいしいフィッシュ」


「はい、みんなで食べると、とてもおいしい気がします」


「──そうね、ご馳走様」


 レディナの、どこか安心したような表情でのその言葉。

 安らかな微笑だ。

 ──ちょっと、会話してみるか。



 食後、フリーゼが気を聞かせてくれたようでコーヒーを入れてくれた。


 「よろしかったら、どうぞ」

 

 「フリーゼ、ありがとう」



 とりあえず、コーヒーを飲みながらレディナに、思ったことを話そう。


 

「レディナ。なんか会った時と印象が変わったなって、思った」


 俺の言葉に彼女ははっと表情を変え、近くにいる椅子に座った後言葉を返してくる。


「印象が変わったって、どういう事よ」


「ん~~、なんていうか、会った時より話しやすい気がする。出会った時より砕けていて、親しみやすい気がするんだよね」


 その言葉にレディナが照れたように顔が赤くなり、自身のカールした髪をくるくると撫でまわし始めた。


 困り果てたような表情をしながら。

 


「な、何よいきなり。褒めたって何にも出ないわよ」


「けど、一緒に服を選んだり、会話をしている時とか、どこか楽しそうにしていたように見えたんだけど、気のせいかな?」


 するとレディナは目を伏せ、少しの間考えこんだ後、顔を上げる。


「このすけこまし! ……正直に言うと、今まで楽しいなんて感情、味わったことなんてなかった。けれど、これが楽しいってことかな……、と考えるようにはなってはいるわね」


「回りくどい言い方ですね──」


「もしかしてレディナ、笑ってるフィッシュ?」


 その言葉にレディナの顔が真っ赤になる。そして──。


「わ、笑ってる? そ、そ、そ、そんなわけないでしょ! からかうのもいい加減にしなさい!」


「からかってないよ。本当のことを言っているんだよ」


「わ、私をほめたってなにも出ないわよ。そういうことはハリーセルやフリーゼに言いなさい」


 レディナがそう言いながら表情を背ける。どう考えても照れているのがわかる。


「いえ、今のレディナさんは、言葉こそ出さないもののとても喜んでいるように見えます。自分の気持ちに、もう少し素直になったらいいのではないでしょうか」


「素直に──。変なこと言うんじゃないの。別に、喜んでいるわけじゃないわ。……もう」



「これがツンデレというやつだフィッシュ」


 レディナの顔がさらに赤くなり、まるでリンゴのようだ。

 彼女は本心を出すのが苦手なんだと思う。それでもどこか打ち解けることができるような気がした。


「じゃあ、楽しい時間はこれでいいかしら? これから重要な話、私の頼みをしたいのだけれど──」


 レディナの表情が真剣なものに変わる。その雰囲気を察したフリーゼ、そして楽しそうだったハリーセルも、空気を読んでかおとなしくなった。


「それで、頼み事って何だ?」


「簡単に言うと、私が住んでいた遺跡を取り戻してほしいの」


「遺跡、それってもともとレディナが住んでいた遺跡のことか?」


「そうよ」


 取り戻す? 誰かに占領されてしまったということか?


「その前に、良く理由を聞かせてほしいです。どういう事があったか説明をお願いします」


 フリーゼの言う通りだ。まずは何があったかを聞きたい。

 そしてレディナは手に持っていたコーヒーを机に置き、遠目に視線を覆き始め、何があったかを話し始めた。

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