第39話  唯一王 レディナの願いを聞く

 レディナは手に持っていたコーヒーを机に置き、遠目に視線を覆き始め、何があったかを話し始めた。


「まず、私が遺跡から解放された時のことを話した方がいいわね」


「そうだフィッシュ。この私も興味あるフィッシュ」


「私を解放したのはノダルというAランクの冒険者よ。私達と違って、何十人も規模がある大きなパーティーだったわ。そして開放していくと時に、別の仲間らしき人が遺跡の中に入っていったのを見たの」


 ノダル、確か聞いた事があったな。強力な剣術は冒険者の中でもトップクラス。それだけじゃない、こいつのすごさは確か統率力や人をまとめる力にある。


 利益のためならどんな手段もいとわない。それで得た利益を仲間達にうまく配分すること、それに違反者には容赦ない罰を与えることで、通常ならまとめきれないような人や人数でもまとめているのだ。


 それに、ダークヒーローのようなカリスマ性を感じると、実際にあった人から聞いた事がある。


「それでね、その後にフッと聞いてみたの。気になったから。そしたらこう答えたの。あそこには利益となる貴重な宝石や資源がある。だからそれを欲している商人に分け与えるためだって」


 遺跡の中の物を利益に利用? そんな発想初めて聞いたぞ。確かに俺がフリーゼの遺跡に行った時も売れそうなものはあった。けれど──。


「しかし、遺跡の中には強力な魔物が数多くいるはずです。反撃にあってしまうのでないでしょうか」


 フリーゼがコーヒーをすすりながら言葉を返す。確かにそうだ。遺跡には、それを守る魔物がいる。数も数えきれないほどいるし、強さだって並の冒険者では返り討ちにされてしまう。


 そんな簡単に入って物を大量に持ち出すことなんてできないはずだ。




「当然よ。だからあいつ、仲間のスキルを使って遺跡にいる魔物たちを自分の支配下に置いているのよ」


「そんなスキルがあるフィッシュか?」


「ええ。仲間の一人にいるのよ。自分の近くの知能が低い魔物を自分たちの意のままに操ることができるスキルがある人が」


 なるほど、それを使って遺跡内の魔物たちを反撃してこないようにして中にある価値がありそうなものを根こそぎ奪い取る。


 他の冒険者にはそんなことができないから権益を独占し放題というわけか。

 その言葉に、フリーゼはほんの少しだけ首をかしげる。

 そしてカタッと飲み干したコーヒーカップを置いて言葉を返した。


「レディナさんがかつて幽閉されていた遺跡でなにが起こっているかは理解しました。しかしまだ疑問はあります」


「何よ」


「どうしてとらえる必要があるのか、ということです。別に、物を持ち出すだけならレディナさんに危害が加わるわけではありません。それをやめさせる理由」



 入ったダンジョンで価値があるものを持ち出す。

 それ自体は冒険者であればどこでもやっている行為で、別の犯罪行為ではない。


 レディナはすでに遺跡から抜け出しているから中の物の所有権を宣言しても認められないだろうし、それが目的ではないのはなんとなくわかる。




 その言葉にレディナは少し考えこんだ後、不満そうに髪をくりくりと撫でまわしながら話し始めた。

「あいつらは今、自分の従者を遺跡に住まわせて、遺跡の力を自分たちのパーティーに転送したり、資源を流して商人たちに高く売ったりしているの」


「兵器の秘密があるのよ。私がいた遺跡って」


「兵器、ですか?」



「精霊たちに伝わる強力な古代兵器よ。本気になれば街一つが吹き飛ぶような代物なの。そんな兵器が利益のことしかないノダルのところにわたってみ。何されるかわからないわ」


 確かにそうだ。そんなものの秘密が手に渡ったら何をされるかわからない。

 仮に使う気がないとしても、それをもとに多額の利益を得たり、


 最悪、その情報を本当の悪の組織に売られるかもしれない。

 このまま放っておけないというのはうなづける。


「別にノダルの一味を殲滅しろと言っているわけではないわ。渡ったらまずい、世界のバランスが崩れるようなものの秘密を守りたい。それだけよ」




 つまり、遺跡に入れば魔物たちが襲ってくるというわけか。


「そうよ。それでも入るつもり?」


 咎めるような物言いのレディナ。それだけ強敵が遺跡の中にいるというのだろう。

 もちろん、答えは決まっている。


「レディナが優しいのがわかった。けど、俺たちは行くよ」


 その言葉にフッとレディナが微笑を浮かべた。



「じゃあみんな。その時はよろしくね」


「必ず、遺跡を取り戻しましょう。レディナさん」


「そうだフィッシュ。負けないフィッシュ」


 二人ともノリノリだ。意気投合する俺たち。

 この雰囲気、以前のパーティーでは存在しなかった。絶対に大事にしたい。



 その後、俺たちは夕食を作って食べる。それから、シャワーを浴びて就寝。

 明日からまたダンジョンへと進む準備だ。


 強敵と戦う可能性がとても高い。だから今夜はよく体力を回復させておこう。

 それとレディナ。もっと仲良くなれるといいな。



 そんな思いを胸に抱きながら俺は夢の中に入っていく。

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