第21話 唯一王 新たな精霊と出会う

 明日の朝。目が覚めた俺は、顔を洗い、軽くパンを食べた後出発。



「さあ、出発しよう」


「はい」


 海岸線の道をゆっくりと歩いていく。特に魔物などと出会ったりはしない。

 それでも警戒を怠ることはなかったが。


 そして海岸線から陸に道を歩いて少しすると、その場所にたどり着く。


「おそらくここでしょう。この神殿から、ただならぬ魔力の気配がします」


 そこにあるのは何十メートルもあろう高さの神殿。


「おそらく、この階段の先に、ここの精霊がいると思われます」


 俺もそう思う。神殿からそんな気配を、感じるからだ。

 四角い形をしていて、レンガでできた階段をゆっくりと登っていく。



 階段をのぼりながら俺は考えていた。フリーゼのような、話の分かる人物であってほしいと。

 外へ出ることができないことに絶望し闇落ちをしてしまっていることだってあり得る。


 いずれにしても、自分が持てる最大限のことをしよう。

 一応トラップを警戒して神経を集中させる。


 そして俺たちは階段を上り神殿の上へ。




 その場所は、星の形をした絵が地面に描かれていて、角の部分に柱が立っている。

 そんな不思議な模様の中心に、その人物はいた。


「あなたがこの遺跡の精霊ですね」


 フリーゼが話しかけた先。そこにいたのは意外な人物だ。

 肩くらいまでかかった青い髪、小柄な女の子の見た目。水着姿で体の一部に魚のうろこのようなものを身にまとっている。

 童顔で、どこか幼く見える外見は、子供といっても通りそうな見た目をしていた。

 ダマされるな。これでも 強力な力を持っている。油断するな。



「そうだフィッシュ。私がこの遺跡の主だフィッシュ」


 ツッコミどころしかない口癖に、思わず言葉を失ってしまう。いくら魚みたいな部位があるからってその口癖は安直過ぎませんかね──。


 あと油断するな、まだ味方になると決まったわけじゃない。


「ここはハリーセルの遺跡でしたか──」


 なるほど、この子はハリーセルっていうのか。


「あれ、フリーゼだよね。なんでここにいるの?」


 するとフリーゼは俺の手をぎゅっと握りながら言葉を返してくる。


「このフライさんという人に、開放してもらったんです。彼のおかげで、私は外に自由に行くことができるようになりました」


「外に、自由に。それって私にも呪いを解いてくれるっていう事?」


「ま、まあね。一緒に行動するなら、ハリーセルも外に行けるけど、どうかな?」


 すると彼女ははっと笑みを浮かべだす。当然だ。フリーゼの所と違いきれいな景色とはいえ、ずっとここに居ろというのはやはり嫌だ。


 当然、首を縦に降るに決まっている。


「ここから出られるんだー。私、行きたい。外に出たいフィッシュ!」


 ハリーセルは喜びのあまり、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。

 嬉しそうにこっちへと向かってくる。



「会いたかったフィッシュ。外に出れるなんて嬉しいフィッシュ」


「待ってくださいハリーセル、あなたが走ったら──」


 無邪気な笑顔でこっちに向かって走ったその瞬間──。



 ドテッ──、がっしゃーん!




 彼女は何もない場所だったはずなのに、転んでしまったのだ。


 膝をうって、ぶつかった場所を抑えながら痛がるハリーセル。あれ? 突っかかるものなんて何もなかったはずなのに


「いててフィッシュ……」


 するとフリーゼはゆっくりと彼女に前に歩いていく、膝を曲げてハリーセルの方向に視線を移すと、優しい口調で話しかける。


「全く。昔と変わっていませんね。夢中になると周囲が見えなくなってしまう。みだりに走り回っちゃダメなんですよ。あなたは」


「ど、どういう事なんだ?」


 するとフッとフリーゼがこっちに顔を向けて話してきた。


「ハリーセルは、生まれつき運動神経に、到底無視できない、尋常じゃない欠陥をかかえていて──」



「そこまでフォローしなくていいでフィッシュ。普通に運動音痴って言った方がいいフィッシュ」


 彼女は涙目になりながらフリーゼに突っかかった。そしてフリーゼの胸に両手をポコポコと当てる。

 ハリーセルは、極度の運動音痴であったのだ。


「具体的に説明しますと、少し走っただけで息が上がり、動悸が激しくなります。また、一日一回は何もない所ですっ転びます。そして近距離戦闘は全く期待できません。冒険者はおろかそこら辺の一般人幼女といい勝負なくらいです」


「うるせーフィッシュ。私には最強の水霊術があるフィッシュ。運動神経なんて飾りフィッシュ。偉い人にはそれがわからないんだフィッシュ!」


 ハリーセルが腰に手を当て、自信満々にそう言う。フリーゼはため息をつきながら言葉を返した。



「ハリーセル。現実を直視しなさい。近距離戦がダメってことはあなたは前線で戦う人と一緒にいないと足手まといということなのよ。一人ではほとんど戦えないという事なのよ」


 ハリーセルはぷくっと顔を膨らませ、むきになって言葉を返した。



「う、うぅぅぅ……。けど、けど私には──遠距離攻撃があるフィッシュ。さいきょ―の攻撃フィッシュ」


 流石に可哀そうになってきた。

 誰にだって短所はある。だから俺たちは個人ではなくパーティーで動く。それで、短所を補い合い、長所を生かすんだ。


 ハリーセルにだって、Sランク冒険者をも凌駕する強い術式を持っている。 補えるくらいの長所があるはずだ。


「だから、俺たちと組もう。フリーゼと俺がいれば、ハリーセルの短所を補うことができる。とりあえず。ハリーセルの遠距離術式がどれくらいなものなのか見せてくれるかな?」


「わかったフィッシュ。私のさいきょ―の術式。見せてやるフィッシュ。腰を抜かすんじゃないぞフィッシュ」


 そう叫んだ彼女は軽くステップを踏み──。

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