第22話 唯一王 もう一度ダンジョンへ

 そう叫んだ彼女は軽やかにステップを踏み──。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!


 すさましい音を響かせ、大爆発を起こす。森があった場所は隕石が落ちたようなクレーターになっている。

 今まで見たことがないくらいの威力だ。


「どうだフィッシュ。まいったかフィッシュ」


 えっへんといわんばかりの偉そうな態度で自慢げに語るハリーセル。

 もし冒険者だったらSランク相当のすさまじい威力だ。これに俺の加護が加わったら、どんな魔物も敵なしになりそう。


 確かにハリーセルには致命的な欠点がある。運動音痴故近距離戦闘が全くできない。

 俺とフリーゼが介護してあげなきゃすぐに距離を詰められやられてしまうだろう。


 しかし、それを補って余りあるほどの威力のある一撃がある。

 前線で俺とフリーゼが戦いながら。俺の加護でダメージを軽減させて、ハリーセルを後方に回す。生かせばそれなりに活躍はできそうだ。


 どうやら、打ち解けることができそうだ。


「それと、教えてほしいことがあるんだけどいいかな?」


「何フィッシュ」


「ここに来る前、俺たちと一緒に遺跡に来たパーティーが罠にかかってさらわれちゃったんだけど、どうすればいい?」



「遺跡や、魔物のことはよくわからないフィッシュ。だから魔物たちをまとめているポルセドラに全部任せているフィッシュ」


 全部任せている。ってことはハリーセルに聞いてもアドナたちがどうなっているかわからないってことか。


 するとフリーゼは一つの質問をする。


「あなた、ポルセドラと話したこととかないの? あのダンジョンにどんな罠が仕掛けられているか、とかどんな構造になっているの。とか」


「確か、ポルセドラから聞いた事はあるフィッシュ。遺跡にわなを仕掛けていて、それにかかった人たちは、裏ダンジョンっていう所に連れていかれるって」


「裏ダンジョン。なんだそれは?」


 するとハリーセルはうつむき始め、下を向きながら質問に答える。


「確か──、裏ダンジョンは敵と認識した物を殲滅するためのフィールドだフィッシュ。表のダンジョンでは罠にかからなかった冒険達はみだりに殺したりはしないけど、裏のダンジョンというのは強力な魔物を尋常じゃないくらい集めているフィールドだフィッシュ。そこに落とし込まれた冒険者たちは魔物たちからは絶対に全滅させなければいけない敵として認識させられ、誰一人帰っていった冒険者はいないフィッシュ」


 その話に俺は言葉を失ってしまう。あんな形で別れたとはいえ、流石に見殺しにするのは気が引ける。


 仕方がない。助けに行こう。


「頼みがある。あいつらを助けるために、裏のダンジョンに連れていってくれるか?」


「わかったフィッシュ。すぐに転送するフィッシュ」


 二つ返事で了承してくれるハリーセル。根はいい子でよかった。

 そしてハリーセルは目をつぶって深呼吸。そして神経を集中させると呪文を唱え始めた。


 青き精霊の力よ。我に聖なる力よ──


 彼女がそう唱えると、足元にひんやりとした冷たさを感じ始める。思わず下に視線を向けると、そこには透明に透き通った水たまりが出現。


 そしてその水はこの場所全体を覆うくらいに膨張し始めた。当然、俺たちの全身を覆うように。

 その光景に俺が焦っているとハリーセルはにへらと笑って話しかけた。



「大丈夫。私は水魔法のスペシャリストフィッシュ。昨日のダンジョンと同じで呼吸できるし自然と目を開けられる仕様になっているフィッシュ」


「そうか、ありがとう」


 当然だよな。というか昨日の呼吸できる水はハリーセルが作ったのか。水の精霊らしい力だ。


 そして泳ぐように水中となったこの場を漂っているとハリーセルが右手をすっと上げる。


「じゃあ、このままダンジョンまで連れていくフィッシュ。準備はいいフィッシュ?」


「ああ、大丈夫だ」


「私も平気です」


「じゃあ、行くわよ」



 そして俺の目の前が真っ白に光る。待ってろ、アドナたち。俺がいないくらいで、くたばったりするんじゃねぇぞ!


 そんな思いを胸に、俺たちは再びダンジョンへと戻っていった。







 一方ウェルキたち。

 少し時をさかのぼり、ダンジョンの中。


 グォォォォォォォォォォォォォォ!


 フライ達がハリーセルと出会い、楽しい時間を過ごしていた時、彼らは死闘を繰り広げていた。


 夜はモンスターたちも活動を停止していて、襲ってくることはなかったため、体力を回復させることはできた。


 しかし、ダンジョンの先へ進んだ瞬間、大量のモンスターと出会い始める。

 モンスターたちは彼らと出会った瞬間明確な殺意を持ちながらアドナたちに襲い掛かかる。

 アドナたちはすぐさま戦闘モードに入り、モンスターたちと戦い始めた。

 俺の加護がないとはいえ、Sランクの肩書がある彼らは初めはその強さを生かして次々と魔物たちを倒していく。


 しかしここは魔物たちの住処。湯水のように、畑から取れるように無限にわいてくる魔物を相手に彼らは魔力を消耗していった。


 彼らが相手をしているのは。このダンジョンにいる魔物たち。しかし、その外見は今まであったこともない魔物。


 邪悪さをこれでも感じるかというくらいグロテスクで醜く醜悪な外見。真黒な光の闇のオーラを放っている。

 禍々しい外観をしている闇属性をつかさどる魔物「ゾイガー」であった。

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