第20話 唯一王 フリーゼと一夜を過ごす

 その場所は、海が広がる砂浜のような場所。それも夜になったように星空が見えていて外の世界にいるようだ。


「これ、どういうことだ。俺たちは外に戻ったのか?」


 困惑した俺に、フリーゼは冷静な態度で言葉を返した。


「おそらくこの遺跡は、現実の時間とリンクしているのでしょう。今外の時間は夜なはずです」


 確かに、ダンジョンに入ってからずいぶん時間がたった。体感ではあるが、今外の世界は日が沈んだあたりになっているだろう。


「この時間帯では魔物たちも活動を停止していることでしょう。現に神経を研ぎ澄まし、魔物の気配を追っていますが、みんな活動を停止しているようです。これから何が起こるかわからないので、今日は一夜を過ごして体を休めた方がよろしいかと」


 フリーゼの言う通りだ。本当は早く精霊に会いたいが、疲れた体で強い魔物と出くわしたら元も子もない。



 疲れた状態で道を進んでもいい結果にはならない。仕方ないがここで寝よう。


 そして俺たちはこの空間で一夜を過ごすことにした。

 海辺から少し離れた場所にキャンプを作る。朝海から襲ってくる奴がいないように。




 生い茂った草原、ごつごつとした岩、そして木々の隙間に視線を置くと、その先には海のような場所。




 食事の準備をしながら、俺はこの空間について感じ始める。



 この遺跡は今まで見たことがない摩訶不思議な空間だ。


 太陽が全く当たらない空間にもかかわらず、外の日が落ちる時間になるとまるでそれに合わせたかのように天の光が消え、星空の見える夜の風景になる。


 精霊たちの力の強さ、神秘さがよく表れていると思う。


 そして水辺で小さなたき火を起こし、食事の時間。

 カバンの中に食料を確認。茶色の干し肉と、簡素なパンを2つずづ取り出し、フリーゼに半分渡す。


 そろったように体育すわりになって海を見ながらパンをかじり始めた。


 海を見ながらの簡単な食事を折れると、落ち着いた雰囲気になり、彼女が話しかけてくる。



「フライさん。聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか」


「何?」


 フリーゼがパンを飲み込むと、まじまじと俺を見る。そして問いかけてきた。


「フライさん。どうして私や他の精霊たちを救おうなんて考えたのですか。やっぱり、お金のためなんですか?」


 そしてフリーゼは俺に近寄ってくる。というか近すぎて腕が当たってる。本当に無警戒なんだな。


 しかしそんな質問、予想していなかった。どう返せばいいんだ? しばしの間腕を組んで考えこむ。


 ──よし、こう答えよう。変に取り繕ってもしょうがない、本音で話そう。


 そして俺は答えを出し、フリーゼに視線を向け、フッと笑みを浮かべた後、言葉を返し始めた。


「確かに俺たちが生活するにはクエストをこなさなきゃいけない。そして俺の能力を考えればフリーゼたちの救済というのはとても得意な分野だし、それも理由の一つでもある」


「やっぱり、報酬ですか?」


 フリーゼがボソッとつぶやく。心なしか、どこか悲しい表情をしているのがわかる。大丈夫、そんな気持ちにはさせないから。


「そんなことないよ。フリーゼと初めにあって、戦って分かった。精霊というのは俺たち人間とは明らかに強い。おまけにフリーゼみたいにみんな優しくしてくれるかもわからない。殺されることだってあり得る。こんな命がけなこと。報酬のためだけだったらとっくにやめているよ」


「そう、ですか──」


 俺の本心からの答え。フリーゼは驚いているようで、目を丸くしている。


 そして俺は星空に目を移し今までのことを想いだす。


「遺跡にいた時のフリーゼを見て、自分と重ね合わせていた。だから助けたいと思った。そんな感じかな」


「どういう──ことですか?」


「俺のスキルは、フリーゼたちと会わなければ使いどころがない。だからそのせいでパーティーたちからはゴミの様に扱われた。何とかしようともがいて、どれだけ一生懸命やっても誰からも認められなかった。そんな昔の自分と、遺跡の主という生まれながらの使命という枷に縛られていたフリーゼたちを重ね合わせている。だから助けたいと思った。そんな感じかな」



 そう、これが俺の本心だ。どれだけもがいても認められず、疎まれていた俺は遺跡から出ることができず閉じ込められているようなフリーゼを見て、どこかシンパシーを感じたのだ。


 自らの運命によって未来を閉ざされ、暗い場所に閉じ込められていた彼女を救いたいとどこかで考えた。



「けど、最初は敵でした。私は、フライさんを傷つけてしまいました」


「それでも、こんな場所に閉じ込められているお前を放っておけなかった。だから、一緒に外へ出たかったそれだけだ」


 するとフリーゼが下にある砂に視線を移す。いつもの無表情の中に、どこか切なさを感じられる表情で。


「──そうですか。やっぱり優しくて人がいいんですね。そんな人だから、私達を解放するためのスキルを手に入れられたのかもしれません。これからも、よろしくお願いいたしますね」


「こっちこそ、よろしくな」


 とりあえず、納得してくれてよかった。



 それからも、まるで本物のような夜空を見ながら俺たちはたわいもない話をした。

 街のこととか、ギルドのことや、フリーゼの遺跡にいた時の生活の事のこととか。


 俺が街の習慣や、いろいろな冒険者とのかかわりについて話すと、フリーゼは興味ありげに食いついてくる。


「すごいですね。とても興味あります」


「そっか、それなら帰ってくればいくらでも体験できるよ」


 そして俺は楽しすぎて時間を忘れていた。夜が更けてかなり遅くなってしまった。明日も敵と戦うかもしれないし、もう寝なきゃ。


「もう夜も遅い。体力を回復させるためにも、もう寝よう」


 その言葉にフリーゼははっとした後、言葉を返した。


「そうですね。では最後に一言言わせてください。私も、そんな生活を送ってみたいですね──」


 その時のフリーゼ。いつもの冷静で無表情な顔つきの中に、どこか安心しているような、安らかな雰囲気を感じる。

 それに、会話の最後に見せた一瞬だけの笑み。あの表情、今まで見たことがない、ほどけた表情だった。


 もっと彼女といて、親しく出来たら──。もっと柔らかい表情になって、笑顔を見せたりしてくれるのかな。


 ……今は、目の前のことに集中しよう。彼女の願いをかなえるため、みんなを助けるため、明日から頑張ろう。


「そうだね。一緒に、そんな生活を送ろう。お休み」




 そして俺たちは夢の中に入る。

 明日、どんなことが待っているかわからないけれど、乗り越えていこう。

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