07 Love,

「もしもし」


声。


聞き覚えがあって、やさしい。


どこまでも、やわらかな、声。


「もしもし」


目を、開いた。何も、見えない。


「ごめんね」


声。ふるえて、切なさを灯す響き。


「あなたのこと、何も知らなくて。あなたに、ずっと、嘘を」


夢。


これは、たぶん、夢。彼女は、もう、いない。ここは、病院のベッドで。俺は、ずっと、目が見えないまま。


電話を持っていた手が、握られる。


暖かい。


その感覚で、夢ではないのだと、気付いた。


「なんで」


「探したの。見えないって、電話で言ってたから。受付で聞いたら、おしえてくれたの。あなた、有名だから。でも、わたし、全然知らなくて」


「俺は」


「ごめんね。いっぱい、嘘を。つかせちゃって。私のせいで」


「あなたのせいじゃない」


それだけは、たしか。


「電話先の君の声で。俺は。救われてた。うそをたくさんついた。あなたの声を聞きたくて。でも自分からは電話できないから、電話をずっと持って。今だって」


「もう、いいの。いいのよ。がまんしなくて」


「でも、俺は。目が見えないから。君の隣には、いられない。いられないんだ。君のことが、見えない」


握っていた手が、ほぐされる。


彼女の手。暖かい。


「私は、あなたといます」


手が、彼女の頬に、当てられる。暖かな頬と、涙。


「あなたが、好きです」


「俺も。好きだった。好きなのに」


それ以上は、言葉に、できなかった。涙があふれて、とめられなかった。


彼女の身体。やさしく、寄り添ってくれる。その暖かさだけを、感じていた。真っ暗な闇のなかで、彼女だけが、明るく、暖かい。

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