06 ENDmarker 2.

 限界が来た。


 雨の音。


 耐えられなかった。


 雨。それは、目が見えなくても分かる。


 それでも、もう。本当のことが、言えなくなっていた。雨だと、言えない。つらかった。彼女の嬉しそうな声を聞くのが、つらい。


 違う。


 彼女の声がつらいんじゃない。彼女の嬉しそうな声が、いつ街に戻ってくるの、あなたに逢いたい、そう言うのが、そしてそれにうそをつこうとするのが、つらい。


 もう耐えられない。うそをつく自分にも、彼女の声にも。もう、逢えない。見えない。


 なのに。


 電話を、掛けてこないでと言って、自分から、切った。


 分かっているのに。彼女は、また、すぐ。


 かけてくるのに。


 握りしめた電話。


 通話待機音。


 目が見えなくても、電源の切り方と、充電ぐらいはできる。自分から電話を掛けることは、できない。


 電話を、開いた。


『もしもし。もしもし』


 彼女の声が、聞こえる。開けば、通話になる。


『ねえ。聞こえてるの。もしもし』


 彼女の声。


 これが、最後。


「ごめん。さっきは切っちゃって」


『いいの。それよりも。あなたが心配』


 心配。言葉が、声が、自分を刺した。


「俺のことは、大丈夫。大丈夫だから。もう、掛けてこないで、ほしい。仕事が軌道に乗ってさ。これから、なんだ」


『うそ』


「うそなんかじゃないよ。もう、街に戻る気もない。君に逢う気も、ない」


 せいいっぱいの、最後の、嘘。


 電話先。無言。最後にもういちど、もういちどだけ、彼女の声が聞きたかった。嬉しそうな、彼女の声を。


 もう、聞けない。


「今まで、ありがとう。楽しかった。元気で」


 電話を閉じる。横のボタンを押して、電源を切る。


 泣いていた。目が見えなくても、涙は、でるんだと、他人事のように思った。


 雨の音だけが、聞こえる。彼女の声は、もう、思い出せない。

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