04 限界.

 うそが、自分で抑えられなくなってきた。


 眼が、見えない。


 もうずっと、このままかもしれない。そう思ったら、どうしようもなくなった。


 生活する上で目が見えなくて苦労することは、なにひとつない。


 それでも、彼女に逢えなくて、あの街の夕暮れを、見ることができないのは。この世界のつらいことのどれよりも、つらい。


 電話先で、彼女に心配された。


 一瞬、全て話してしまおうかと、思って、すぐにうそをついた。


 彼女には、彼女の、人生がある。自分なんかには、遠く及ばない、目の見える彼女の人生が。


 自分が、彼女の、重荷になってはいけない。それだけを、考えた。先の見えない、暗闇。これを、彼女に見せるわけには、いかない。


 心は決まっていても、彼女の声を聞くと、揺らぐ。強がって、仕事のうそをいくつも、いくつもついて。彼女の声を、聞いてしまう。


 もう、やめるべきなのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る