03 普通.
夕暮れ。
仕事は、順調に進んでいた。
普通の、仕事。街の景色や景観を守り、どこに木を配置するとか、どこにビルを作るとか、そういうのを考える。
この夕陽の美しさを、守るために働いていた。いつしかグループリーダーになっている。仕事は普通にしかこなせないけど、いつでも普通だから、仕事の量や質にむらがなかった。
グループの様子を見て、仕事がうまくいっていない人の仕事を、うまくいっている人の仕事に振り分ける。普通の私に、ぴったりの業務。
でも。彼がいない。
この街で、彼に会って。彼に惹かれた。彼も、私と同じ。街の夕陽が、好きだと言っていた。
彼に、逢いたい。思うだけ。
電話でも、口には出さない。きっと、彼にも仕事があって、それのために街を出たのだから。邪魔をしてはいけない。
私は、この街に残って。この街の景色を、夕暮れの美しさを、守る。また、彼がこの街に戻って来る日まで。
電話。
待機音。
すぐに出た。
『もしもし』
「もしもし。大丈夫?」
『なにが?』
「声。いつもより、つかれてる、気がする」
『仕事のせいかな。自分ではつかれてるとは思ってないんだけど』
「なら、いいの。今日ね、私、グループリーダーになって初めてのプレゼンだったの」
『そっか。どうだった?』
「普通」
『普通か。いつも通りって感じ?』
「うん」
『なら、上出来だな。普通ってのは、すばらしいことだ』
「ありがと」
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