第19話 電車に乗ってお出かけ 後編
私、森崎由亜はこの日、火花さん達と共にお出かけをしていた。
この日は、お城の動物園と猫の駅長がいる駅に行く事になり、ちょうど今、お城の動物園の見物を終えたばかりであった。
お城の動物園を見物した後再び同じバス停からバスに乗り、街の中心地を走った後、バスはこの県の中心地の駅に到着した。
「さぁ、こっちよ!!」
「ここからは電車に乗って移動だよ」
バスから降りた後、虹川さんと火花さんに引っ張られる様に案内された私は、そのまま駅の中へと入って行った。
そして、駅の中に入り改札口を通った先にあるローカル線の専用ホームに、その目的の電車は止まっていた。
「わぁ、可愛らしい電車が止まっていますね!!」
「でしょ。今からこの電車に乗って、終着駅にいる猫の駅長を見に行くんだよ」
その電車は可愛らしいキャラクターがラッピングされた電車であり、私がその電車に見とれていると、隣から火花さんが話しかけて来た。
『楽しみですねユア!!』
「そうね、猫の駅長がいる終着駅はどんな場所なんだろうね」
そして、スマホの中にいるリーフィと火花さんと一緒にホームに止まっている電車の前で記念撮影を行った後、私達はその電車に乗って猫の駅長がいる駅を目指して出発をした。
そんな電車は初めは住宅地のある街中を走り、しばらく走ると車内の窓からは大自然豊かな風景が広がり、そして周囲には田畑が一面に広がる田園風景が目に入って来た。
『凄いです!! 辺り一面田園風景です』
「ホントね。こんな景色、東京ではまず見れないわ」
私だけでなくスマホの中にいるリーフィもまた、車内から見る事が出来る田園風景に夢中になっていた。
そして、車内から見る事の出来る景色に夢中になるのと同時に、私達が今乗っている電車が普通の田舎町を走る電車にしては、どことなく観光仕様のオシャレな電車である事が疑問に思った。
それは、今私達が乗っている電車だけでなく、火花さん達が住んでいる町に向かう電車もまた、どことなく観光仕様のオシャレな電車である事が改めて気になった、
「そう言えば、この電車って、凄くオシャレな見た目の電車だけど、どうしてこの様な見た目の電車なのかしら?」
「この先の終着駅にいる猫の駅長がいる駅にただ行くだけでなく、その間の移動も楽しんでもらう為に、この様なオシャレな見た目の電車になっているのよ。普通の電車よりも、この様な見た目の電車だと乗っていて楽しくなるでしょ?」
「確かにそうね。この様なオシャレな見た目の電車だと、移動もいつも以上に楽しむ事が出来ると思いますよ!! この路線の電車だけでなく、皆さんが住んでいる町に行く事の出来る電車もまた、オシャレで可愛らしい見た目をした観光仕様の電車だったので、乗っていて特別感がありましたよ」
「そうでしょ。このオシャレで可愛らしい見た目をしたどこか普通とは異なる電車こそが、この街の見所の一つでもあるのよ!!」
そんな私の素朴な疑問に隣に座っていた虹川さんが答えてくれた。
確かに虹川さんの言う通り、普通の殺風景な電車で移動をする事を考えると、今私達が乗っている様なオシャレで可愛らしい電車で移動をした方が、移動をするだけでも十分に楽しむ事が出来ると思う。
そんな感じで、私は虹川さんと話をしながら、電車の窓から見える田園風景等の景色を眺めながら猫の駅長がいる駅を目指した。
その後、私達が乗った電車は山の中や湖の上を通過し、約30分程で目的地の駅に到着した。
「ついに着いたよ!!」
「猫の駅長さんに合わないと!!」
電車が猫の駅長のいる終着駅に到着した後、火花さんと氷山さんは駆け足で猫の駅長がいると思う駅舎の方に向かって行った。
『ユア、駅のホームにたくさんの人がいますね』
「そうね、この人達は観光客なのかしら?」
また、駅のホームにはたくさんの観光客達がおり、みんな揃って先程まで私達が乗っていたオシャレで可愛らしい電車の写真を撮っていた。
『せっかくだし、私達も電車と一緒に写真を撮りましょ!!』
「そうね」
そして、私達も他の観光客達と同様に自撮り棒を使い、電車を背景に記念撮影を行った。
その後、観光客達がたくさんいる駅のホームを後にし、猫の駅長がいると思う駅舎の方に向かった。
その駅は改札口もない小さな駅だが、小さな駅の駅舎の中には猫の駅長のイラスト等が飾られ、凄く可愛らしい作りになっていた。
そんな駅舎の中にある小窓の周りを囲む様に、火花さん達が覗き込む様に眺めていた
「森崎さん!! ここに猫の駅長がいるよ!!」
「あっ、ホントだ!!」
そして、火花さんに呼ばれ私もその壁側の小窓を除いてみると、そこにはあの猫の駅長が寝ている姿でいた。
「これが猫の駅長さんなんですね。猫だけに、昼間は寝ていますね」
『寝ている猫も可愛くて良いですね』
「そうね」
『猫さん、皆さんと仲良くなるにはどうしたらいいですか?』
「寝るのに夢中で、聞いていないみたいね」
背中を向けて寝ている状態の猫の駅長を、スマホの中にいるリーフィと一緒にニコニコとした表情をしながら眺めた。
途中、リーフィが寝ている猫の駅長にガラス越しに話しかけたりもしていたが、寝る事に夢中な猫の駅長にの耳には届いていなかった。
そんな猫の駅長がいる駅舎内には、現在の猫の駅長がいる他、昔の初代の猫の駅長の写真が飾られていたり、また、駅舎内でスマートグラスを装着する事で確認をする事が可能になるARで再現された初代の猫の駅長の姿も見る事が出来た。
そんなARで蘇った初代の猫の駅長もまた、現在の猫の駅長と同様に丸くなって寝ていた。
また、この猫の駅長がいる駅舎内には休憩が出来るカフェやお土産を購入する事が出来るスペースがあり、猫の駅長を見た後、私達はこの休憩が出来るカフェで楽しくお喋りをしながら休憩をした。
先程訪れたお城の動物園の時と同様に、猫の駅長がいる駅舎に来てもまた、火花さん達スピアーズのメンバー達は相変わらず楽しそうな様子で喋っていた。
ホント、今日の外出は私やリーフィも含め、みんな凄く楽しんでいる。
メタバースが少しずつ普及しつつある現在、従来の時代の様に実際の場所に出かけなくても家の中で専用のゴーグルを装着するだけでどこにでも行く事が出来る様になった時代である。
そんな時代を生きる世代だからこそ思うのかも知れないが、実際の場所に訪れるというリアルの経験がこんなに楽しい事だったというのを改めて感じた。
そう思うのは、みんなと一緒に出かけたからこそ強く思うのかも知れないが、どんな理由にしても、みんなと一緒にいろんな場所に出かけるのって、凄く楽しい事なんだ。
こんな楽しい事があるなんて、私は今まで知らなかった。
この楽しさは、メタバースでは味わう事の出来ない、リアルな楽しさだと思う。
そんな楽しかったお出かけも夕方頃になると終わり、帰りは猫の駅長がいる駅から2回程電車を乗り換えるだけで、私達がいる町の駅まで戻る事が出来る。
「いゃあ、今日は凄く楽しかったね」
「そうですね。あんな場所があるなんて知らなかったです」
電車の中で、私は火花さんとこの日の出来事を振り返りながら話をしていた。
そんな時、私のスマホのブザーが鳴った為、私はスマホの画面を見た。
『ユア、今日のお出かけは、写真としてきちんと思い出に残してあります』
「あっ、写真だと、リーフィが私達と一緒に写っている!!」
『私だけスマホの中にいましたので、私も皆さんと一緒に写っている写真を編集して作ってみました』
「上手く出来ているわね」
『はい、こうして私も一緒に写真に写っていますと、よりみんなで一緒に楽しんだ感が出るかと思いまして、編集してみました』
スマホの中にいたリーフィから連絡が来たのでスマホを開いてみると、そこにはリーフィが私達と一緒に動物園や駅舎で楽しそうに写っている写真が画面に表示されていた。
「あらっ、リーフィが写っているじゃないの」
「ホントだ。こうして見ると、より一緒にいたという感じが伝わって来るね」
その後、私のスマホに写る写真を見に来た虹川さんと氷山さんの2人もまた、リーフィと一緒に写っている写真を嬉しそうに見ていた。
「リアルにリーフィがいたら、こんな感じに写真に写っていたのかな?」
「多分、そうじゃないかな? それはそうと、普段着なれない格好はホント、見ていて恥ずかしく思う……」
更に、虹川さんと氷山さんに続き、火花さんと水島さんもリーフィが写る写真を見ようと、私のスマホを覗き込んで来た。
水島さんに関しては、普段着なれない格好に対して本当に恥ずかしく思っているせいもあり、リーフィを含め全員で写っている写真を見るなり、恥ずかしそうな表情をしていた。
そんな感じで、私達は電車での移動時間を過ごした。
その後、私達は目的の終着駅のひとつ前の駅で一旦降りる事にした。
その理由は、火花さんの提案で夕方の海を見に行く為であった。
ちょうど先日、火花さん達がサーフィンを行っていた海水浴場である。
そして、砂浜の上に立った私達は、横一列に並ぶ様にして、皆で夕方の海を眺めた。
「やっぱり、夕方の海はいつ見てもいいね~」
「そうですね。夏の夕暮れ時の海っていつ見ても飽きないものですね」
この町に来てから夕方の海を毎日見るようになったものの、確かに火花さんの言う通り、夕方の海はいつ見ても飽きる事のない魅力を感じる。
「こういう時って、何故か無性に海に向かって叫びたくなるよね。”スピアーズは永遠に不滅だ―!!”なんて感じにね」
「なんか、その気持ち分かる気がします!! 私も何か叫んじゃおかな?」
「おっ、いいね。何を叫ぶの?」
「そうね……」
そんな夕方の海を眺めながら、火花さんの様に私も海に向かって大声で今思っている気持ちを叫んだ。
そんな感じで夕方の海を見終えた後、私達は駅に戻る事にした。
そんな駅に向かって歩いていた時、駅の隣にある踏切の遮断機が下りる音が聞こえた為、ふと目の前の踏切を見て見ると、踏切の向こう側に誰かが立っている事に気が付いた。
その人は、真夏にも関わらず、長袖パーカーに付いているフードを被った状態であり、更にバーカーのポケットに両手を入れた状態で立っていた。
そして、電車が通り過ぎ踏切の遮断機が上がった後、海側に向かって歩いて来たその人とすれ違った時、フードを被っているにも関わらず、私はどこかでその人の顔を見た事がある事に気が付いた。
「あっ、あの人は確か……」
そう、そのフードを被っていた人は、私がこの町に初めて来た日に出会った駅の改札口でスマホを落とした人であった。
「ん? 雨沼さんがどうしたの?」
「あの人って、雨沼さんって言うの?」
「そうだよ。雨沼月菜って言って、私達とは同じ歳だよ」
私がフードを被った人をジッと見ていると、火花さんがその人の事を知っていたのか、その人の名前を私に教えてくれた。
初日に駅で私と出会った人は、
あの人、雨沼さんって言うんだ……
そんな雨沼さんは、私達の方を振り向く事はなく、海水浴場へ向かって歩いて行った。
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