第27話 スパチャ付きのコメントはほぼ確実に読まれる

 私、森崎由亜は今、メタバース内にあるリーフィの部屋の中で、リーフィと一緒にシズクの生配信を観ていた。


 シズクとは、つい先日チャンネル登録者数が100万人を超えた、今話題の草プロの新人のバーチャル型アイドル系UTuberである。


 そんなシズクの生配信は、流石は天下の草プロというべきなのか、生配信が開始してから約10分程しか経っていないにも関わらず、多くのリスナー達がスパチャをシズクに送っていた。


「流石は草プロ、スパチャの額も他の事務所のアイドル系UTuber達と比べても、格段に凄いわね……」


「そんな大量のスパチャがあったおかげで、メタバースの世界は急速的かつ短期間で飛躍的に大進歩したのですから、1人1人が投げる少額のスパチャも全然馬鹿には出来ないですよ」


「ホントね~ このスパチャの様に、ファン達が投げる高額スパチャがあったからこそ、今、私達が楽しんでいるメタバースの世界がある事を考えると、スパチャってバカに出来ないよね」


 シズクの生配信をまったりと視聴していた私とリーフィは、シズクの元にファン達から投げられる大量のスパチャの数々に圧倒されながら生配信を視聴していた。


 シズクに限らず、草プロに所属しているバーチャル型アイドル系UTuber達に投げられる大量の高額スパチャを元に、所属先の会社である草プロがメタバースに高額投資をした事により、結果、メタバースの世界は急速的に短期間で発展し、今では生活になくてはならないモノとまでなった。


 メタバースという誰も挑戦しなかった市場に、草プロがファーストペンギンとして一番乗りをした結果、草プロは先行者利益としてメタバースの世界で巨万の富と発言権を得る事となった。


 そんな、草プロに対する裏話を、以前に早川さんが言っていたのを、私はリーフィと会話している最中に思い出した。


「スパチャを投げる人の多くは、その人を純粋に応援したいという気持ちがあるからこそ、高額であってもためらう事なく投げる人もいるけど、残念ながらそれらのスパチャの大半は事務所側に持っていかれるのよね。まぁ、大企業の名を使って有名になったり稼ぐ事が出来る様になったから仕方のない事なのかも知れないけどね」


「事務所側に持って行かれる分の中には、メタバースを大発展させた他にも、それらのメタバースを提供している通信会社のCMに出演しているタレントのギャラになったり犬のエサ代になったりもしていますよ」


「そうなんだ。スパチャの額が全額受け取る事が出来ないというのは知っていたけど、まさかのそんな場所にもお金が使われていたのね」


 事務所所属の場合、個人勢とは異なり一回の配信でスパチャの額が10万円を超える事は珍しくはなく日常的な事である反面、その額の大半は事務所に持って行かれてしまうのが現実である。


 事務所側に投げたスパチャの大半が持って行かれるのは、ファンからしてみれば悲しい事実かも知れないが、そんな事務所のおかげで楽々チャンネル数を増やす事が出来たり、早期で有名になる事が出来るチャンスを得ている事を考えると、そう悪くはないと思ってしまった。


 また、そんなファン達が投げる高額スパチャを草プロ側が上手くメタバースに投資したおかげもあり、メタバースを運営している通信会社がメタバースをやるのに必要不可欠な使いやすいスマートグラスを開発する事が出来たのもまた事実である。


 メタバースが生活に欠かせなくなった現在、メタバースが大発展をするきっかけとなったファン達が投げる超高額スパチャは、ホントバカにする事が出来ない状況である。


 そんな感じで、ファン達から投げられるスパチャの裏話をやりながら、私はリーフィと一緒にシズクの生配信を視聴していたのであった。





 そして、シズクの生配信は始まってから半時間程が経過した。


「しかし、視聴者からのコメントが止まる事無く、まるで滝の様に流れて行きますね」


「まぁ、超が付く程の大人気事務所に所属しているアイドル系UTuberだからね」


 生配信開始から半時間程が経過しても尚、シズクへのコメントは止まる勢いを知る事無く、リーフィの言う通り、まるで滝の様に数多くの人達のコメントが流れていた。


「これだけ多くのコメントが来ると、人間だと処理をするのが大変ではないでしょうか?」


「確かに、これだけの量のコメント全てに返事するのは不可能よ。だからこそ、よりコメントが読まれたいと思う人達はスパチャをするのよ」


「なるほど…… スパチャをする人達の目的には、コメントを読まれて配信者に少しでも覚えてもらいたいという心理もあるのですね」


「それだけの理由ではないと思うけど、とにかく人気のある配信者の場合はスパチャでもしない限り、なかなか読んでもらえないのよ」


 コメントが少ない配信者ならともかく、草プロという大人気事務所に所属しているシズクの場合は来るコメントも多すぎる為に、スパチャもしていない場合はなかなか読んでもらう事が出来ないのが現状である。


 その為なのか、どうしてもコメントを呼んでもらいたい人や推しの配信者に認知してもらいたいと思う人達は、スパチャというお金を払ってまでコメントをする人達もいる。


 その結果、人気がある配信者は、生配信のスパチャだけで大儲けをしている。


「ところでユア、コメントをしている人達は一体、何を書いているのでしょうか?」


「そうねぇ~ 基本的には配信を観ていて思った事をシンプルにそのまま書いているだけよ」


「そんなのも読まれたりするのでしょうか?」


「そう言ったコメントが読まれる事なんて、滅多にないわよ。スパチャも無しに読まれるコメントなんて、配信者側に興味でも持たれない限りはまず読まれないわよ」


「そうですか。それ以外のコメントだと、どんなのがあるのでしょうか?」


「それ以外ねぇ…… 私もあまり詳しくないけど、雑談配信を中心に行われる場合、視聴者側が面白く興味を引き付ける様なコメントをする事で、配信者側がそのコメント内容から話の話題を広げて行くパターンなんてのもあるみたいよ」


「ほう。その様なコメントのパターンもあるのですね」


「その他にも、好きな人の事や友達に関する事等、身近にある事に関する悩みに関するアドバイスを聞いたり、配信者に対して簡単な質問を行ったりする人だっているわ。もちろん、確実に配信者からの返事が欲しい場合は、スパチャを付ける必要があるけどね」


「なるほど。そう言われてみますと、確かにシズクも視聴者の質問の様なコメントや視聴者からのお悩みのコメントに返答をしたりして、話の話題を広げて配信を盛り上げていますね。ホント生配信って、視聴者のコメントがあるおかげで、正に視聴者も一緒になって楽しむ事が出来ますね」


「そうね。配信者と視聴者が一体になって楽しめるのが、生配信の面白いところでもあるのよ」


 確かにリーフィの言う通り、リアルタイムでコメントが読まれたりする生配信は、配信者側と視聴者側が一緒になって楽しむ事が出来ると思う。


 そんな感じで、シズクの生配信を視聴中、リーフィからコメントに関する質問をされた為、私は知っている範囲内で生配信中に来るコメントの主な種類について答えながら視聴していた。





 その後も私は、リーフィと一緒にシズクの生配信を視聴していた。


「あっ、そうだユア!! ちょうど良い機会ですし、好きなアイドルグループのメンバーの1人が大手事務所にソロデビューをして、今まで所属していたグループから撤退してしまって、そのグループ内で作り上げて来た今までの関係が崩れてしまいそうな件について、シズクにお悩み相談としてスパチャ付きのコメントをして直接聞いてみましょう」


「ん!?」


「ほらっ、ユアはソラが草プロに入ってしまってスピアーズから脱退してしまう事で、今まで築き上げて来たスピアーズというグループが崩れてしまうそうなのを心配していたじゃないですか」


「まぁ、確かにそうだけど……」


 突然のリーフィの言葉を聞いた私は、一瞬にして両目がキョトンとなった。


 確かに私は虹川さんがスピアーズを抜けて草プロに行ってしまう事で、今までのスピアーズが崩れてしまいそうだという心配はあるが、それをわざわざスパチャ付きのコメントをしてまで聞くものなのかな?


 でも、自分一人で考えるよりも、他者の意見を聞いてみた方が少しは気は楽になるかも?


 そう思った私は、リーフィに言われた通り、シズクにスパチャ付きのコメントをして聞いてみる事にした。


「でも、自分一人で考え込むよりは、誰かの意見を参考にしてみた方が良いかも知れないわね」


「でしょう。だからこそ、聞いてみるのですよ」


 そして、頭を悩ませて四苦八苦しながらコメントを書き上げた後、4桁の金額のスパチャをシズクに送った。


「これで完了…… あとは、シズクさんが読むだけね」


「シズクさんなら、どう対応するのでしょうね」


 スパチャを送った後、私達はシズクの反応を楽しみに待つ事にした。





 それからしばらくした頃、画面の向こう側に映るシズクが、私の書いたスパチャ付きのコメントに反応をした素振りを見せた。


『おぉ~ この方は、初めての方だね。フォレ猫さん、スパチャありがとう。なになに……』


「ついに、コメントが読まれますね」


「分かっていても、自分が書いたコメントが有名人に読まれるのって、見ている側からすると、凄く恥ずかしく思う!!」


 そして、ついにシズクが私のコメントを読み始めたのであった。


 因みに“フォレ猫”とは、私のネット上での名前である。


『シズクさんに聞きたい事があって、今回、スパチャをしました。私の知り合いに仲の良い友達4人組でアイドル系UTuberをやっている人達がいるのですが、そのメンバーの1人が大手事務所に移籍するという話が出ています。普通なら凄い話なのですが、この件に関して私は凄く気になってしまう事があります。それは、メンバーの1人が大手事務所に行ってしまう事で、その4人が今まで築き上げて来たアイドル系UTuberのグループが消えてなくなってしまいそうなのが、1人のファンとして心配です。もし、シズクさんの好きなアイドル系UTuberのグループや友達が同じ様な境遇にあった時、シズクさんならどうしますか?』


 シズクは淡々と私が送ったコメントを読んだ。


『ん~ 少し難しい質問だね、フォレ猫さん…… 普通なら、ここはその人の今後の成長を祝して大手事務所移籍を祝福してあげるのが正解なのかも知れないけど、フォレ猫さんはその人が大手事務所に移籍をしてしまう事でその人が今まで所属していたグループが消えてなくなってしまいそうなのを心配しているのよね。だったらここは、その人の大手移籍なんて関係なく、好きなアイドル系UTuberのグループを守る為に、力ずくでも死守してみるという選択肢もありなんじゃないかな? だって、そのアイドル系UTuberのグループはフォレ猫さんの知り合いなんでしょなんでしょ? そこまで難しい事ないじゃないの!! きっとフォレ猫さんなら出来るよ!!』


 画面の向こう側で私が書いたコメントに返答するシズクは、画面に向けて拳を突き付けて、私に応援のエールを送った。


「なるほど…… やっぱり、こういう時は死守するという選択肢もあるのね……」


『あっさりとした答え方だったけど、これが私の答えかな? 改めて。フォレ猫さん、スパチャありがとうございます!!』


 私からのお悩みコメントに返答した後、シズクは改めてスパチャのお礼を言った。


 確かにシズクの言う通り、好きなものは何としてでも守ろうとするのが正解なのよね……


 昔から仲の良い友達同士であるのなら、シズクの言う様に大手事務所移籍を強引にでも死守しようとするかも知れないけど、そもそも私、スピアーズのメンバー達と出会ったのも1ヶ月程だし、シズクの言う様に必要以上に踏み込んでも良いのか気になってしまう……


 シズクからのアドバイスを聞いた後も、私はどこまで踏み込んでも良いのか、今度はその事が気になってしまった。 


 そんな事を考えながら、この日の夜はリーフィと一緒にシズクの生配信を視聴していたのであった。

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