第26話 とっておきの凄いストレッチを披露

 私、森崎由亜はこの夏の間、この町に滞在中は火花さんの家が運営している旅館の一室にAIのリーフィと一緒に住んでいる。


 この町は温泉が有名なのか、この旅館にも大浴場が存在していて、宿泊者は自由に入る事が出来るが、私はある理由はあって大浴場には入らない。


「ふぅ~ こうもチクチクすると、毎日の処理が欠かせないせいで面倒ね。これもある意味、水泳部の宿命ね……」


 そう、私は水泳部に所属しており、水着から毛がハミ出ない様にする為に毛の処理をしたものの、調整に失敗してしまい、結果、私の股の毛は全て無くなってしまった。


 その後も、少しずつ伸びてくる毛がチクチクとして違和感を感じる為、プールでの練習を行っていない夏休みの間も欠かさず、ほぼ毎日股の毛の処理をしなければならなくなってしまった。


 そんな理由もあり、股の毛が無く恥ずかしいと感じる私は、旅館の大浴場に入る事なく、部屋の中にある小さなお風呂に入っている。





 そして、股の毛の処理を終えた私は、一糸まとわぬ全裸の状態で濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に入った。


『あっ、ユアが戻って来た!!』


「あらっ、リーフィ、ドローンの充電はもう終わったの?」


『はいっ、バッチリです!! それよりもユア、毎日毎日、よく小さなお風呂で満足できますね』


「別に満足しているワケじゃないよ。毛がなくて恥ずかしいから、大浴場には行かないだけよ」


『そうだったのですか。この町は温泉も有名なのに勿体ないです』


「温泉ぐらい、別にどうだっていいわよ」


 そんな感じで、風呂上りにドローンで部屋中を飛び回るリーフィと話をしながら、私は部屋の中にマットを引き、一糸まとわぬ全裸のままストレッチを始めた。


 そして、私がマットの上でストレッチを行っていると、ドローン状態のリーフィが私の方を監視する様に見ていた。


「ん? どうしたの、リーフィ?」


『ユアって、凄く体が柔らかいですね』


「まぁ、部活で体を動かす必要があるし、水中でも動かしやすくする為に身体は常に柔軟にしておかないといけないからね」


『なるほど…… 人間はそのような理由でストレッチを行ったりするのですね!!』


「全ての人間がそうとは限らないけどね」


 どうやらリーフィは、私がマットの上で行っているストレッチの様子に興味を持っていた様である。


「せっかくだし、今日はリーフィに、とっておきの凄い技を見せてあげるわ!!」


『おぉ!! ユアの凄い技とは、凄く気になります!!』


「ふふっ…… 見ていなさい」


 リーフィが私が行うストレッチに興味があった為、私は自信満々な気分でリーフィにもっと凄いストレッチを披露する事にした。


「まずは、コレね!! Y字バランス!!」


「おぉ、凄いです!!」


「そこから、はいっ、I字バランスに!!」


「おぉ、左右の足が上下まっすぐに伸びています!!」


 まずはリーフィにY字バランスとI字バランスを披露した。


「そして、次はブリッジ!!」


『凄いです!!』


 次に私はマットの上で身体の上半身だけを後ろに倒し、両足と両手をマットに付けブリッジを行った。


「そして…… 壁を使わずに逆立ちを……」


『凄いです、ユア!! 壁を使わずに逆立ちなんて!!』


「最後は、コレね」


『おぉ!! 逆立ちをしたまま、両足を広げちゃいました!!』


 そして最後に、私は壁を使わずに逆立ちを行った後、両足を垂直に伸ばした逆立の状態からゆっくりと左右に広げた。


 そんな私の隠れた特技である高難易度なストレッチを目の当たりにしたリーフィは、凄く興奮をした様子で歓声を上げながら見ていた。


「どう? 凄いでしょう」


『ユア、凄いです!! 私もユアにダンスを披露しますから、スマートグラスをかけて』


「リーフィがダンスを? わかったわ」


 そして、リーフィに言われるがまま、逆立ちを終えた後、私はスマートグラスを装着する事にした。


 スマートグラスを装着すると、ドローンの前にはARで映し出されたリーフィの姿が表示されていた。


『準備が出来ましたね。それじゃあ、ミュージックスタートッ!!』


 リーフィがそう言った後、どこかで聞き覚えのある曲が流れ、リーフィがその曲に合わせるように踊り、同時に歌い始めた。


 リーフィが歌っている歌をよく聞いていると、それはスピアーズの歌であった事が分かった。


「あっ、この歌、スピアーズの歌ね!!」


 その歌や振り付けの様子は、見事なまでに完全に再現されている状態であった。


 歌声の方は他のメンバー達とは異なり、完全にリーフィのオリジナルであり、私が聞く限り本人達以上に上手かった。


 そんなリーフィは、スピアーズの歌を楽しそうに歌い楽しそうに踊っていた。


 その後、リーフィが歌い終わると、私はリーフィに向かって拍手をした。


「リーフィ、上手かったよ!!」


『ありがとう、ユア』


 歌い終わった後、リーフィは軽くオシャレにお辞儀をした。


「まるで本物の歌手みたいに上手かったわよ」


『私の場合は、振り付けは動きをコピーすれば完璧にこなす事も出来ますし、歌唱力に関しては、最大限を出す事だって簡単なのです』


「そう考えると、改めてAIって凄いって思ってしまうわね……」


『だったら、ユアもAIになってみる?』


「やめてよね。そんな冗談は」


 確かにリーフィの言う通り、AIにでもなればあんな事やこんな等、人間にとってはごく一部の天才と呼ばれる人しか出来ない凄い特技でも、先程のリーフィの様にいとも簡単に出来てしまう能力は人間の私にとっては羨ましいと思ってしまう。


 かと言って、リーフィが言う様に私自身がAIになるのには、ちょっと抵抗がある……





 その後、スマートグラスを装着したままの私は、せっかくの機会という事もあり、このまま菫さんが開催しているヨガ教室の動画を視聴しながら、ヨガを行う事にした。


「ん~ 菫さんのヨガって、意外と本格的なヨガね~」


 私のお母さんもオススメしていた菫さんのヨガを、動画を視聴しながら真似る様にしていたけど、このヨガが意外と難しく感じた。


『ところでユア』


「ん、どうしたの?」


 私がヨガに夢中になっていると、横からリーフィが話しかけて来た為、私はリーフィの話を聞きながらヨガを行った。


『ハルとユキの2人がソラが抜けた後のスピアーズのメンバーにルナを加えようと考えていましたけど、もしルナが加入をしない時は、代わりに私がスピアーズの新メンバーに加入しようと思うの。どうかな?』


 リーフィの話を聞いてみると、まさかのリーフィがスピアーズに加入しようか考えているという内容であった為、それを聞いた私は一瞬動きが止まる様に驚いた。


「それって、さっきみたいに冗談だったりする?」


『冗談ではないです。前からスピアーズは好きでしたし、何よりもソラが草プロに移籍する事によって、スピアーズからメンバーが1人抜けてしまうので、その穴埋めにはちょうど良いと思います』


「確かにリーフィはAIだから、虹川さんが勤めていたポディションの歌やダンスを完璧にこなす事ぐらいは容易いと思うけど、技量だけでは虹川さんの代わりは務まらないと思うわ」


『どうしてですか? きっと、私がスピアーズに入ると言えば、トモエやスミレだって、きっと賛成して喜ぶと思います』


 人間ではなくAIである為に、板やダンスを完璧にこなす事の出来るリーフィは、どうやら本気でスピアーズ入りを考えていたみたいであった。


「その、なんと言うか…… 代わりが入ればいい問題ではないと思うのよね。火花さん、氷山さん、水島さん、そして虹川さんの4人が揃ってこそのスピアーズだと思うのよ。だから、そこに代わりの誰かが入ってしまうと、それはもう、今までのスピアーズではない別の何かだと思うのよね」


『別の何かですか?』


「そう。私達だけでなく、今多くの人達から親しまれているスピアーズは、あの4人が揃ってこそのスピアーズなのよ。だから、もし虹川さんの代わりにリーフィがメンバー入りをしても、今までのスピアーズとは違うと言いたいのよ」


 スピアーズ入りを考え始めたリーフィに対し、私はスピアーズという4人組のアイドル系UTuberに対して思っている事をそのまま伝えた。


 この町に来るまで私はスピアーズの存在を知る事もなければ、もちろんメンバー達の素性を知る事もなかった。


 でも、私がこの町に来た事により、今まで知らなかったスピアーズというアイドル系UTuberのメンバー達の事を少しずつ知る事となった。それは、動画を観るだけでは決して知る事の出来ない素の部分が多く含まれていた。


 そんな動画を観ているだけでは決して知る事の出来ないメンバー達の素性を少しずつ知る事で、いつしか私はスピアーズというアイドル系UTuberはあの4人で完成されているだけでなく、あの4人が揃ってこそのグループだと思ってしまった。


『なるほど…… 人間の考える事はよく分からないですけど、ソラがいなくなってしまうと、今までのスピアーズはなくなってしまうという事?』


「そうね。テセウスの船という言葉がある様に、アイドルグループだってメンバーを入れ替えて延々と続く事があるけど、人気があった時のメンバーが全員いなくなった時、それは果たして本当に好きだったあのアイドルグループと言えるのか? と言う事ね」


『中身が入れ替わってしまうと、それはもう、同じ名前をした別物です』


「その通りね。だからこそ、私はいちファンとして、あの4人が揃ってこそのスピアーズだと言いたいのよ」


 この夏の間、動画内では知る事の出来ない素性の面でのスピアーズのメンバー達と一緒に過ごして来たという理由もあってなのか、出会ってからまだ1カ月程しか経っていないにも関わらず、今のメンバーから誰かが欠けたり、代わりの新メンバーが加入する事に対し、私はどうも納得が出来なかった。


 そんな事を思いながら、私は再び菫さんが行うヨガ動画を視聴しながら、ヨガを行った。





 そして、先程の話を忘れようとしばらくヨガに夢中になっていた時、突然、スマートグラスの上側に新着のメッセージが届いた事を知らせる文字が表示された。


 そこには、シズクの生配信が始まるというお知らせのメッセージが表示されていた。


 そう言えば先日、メタバース内でシズクさんと会った時にチャンネル登録と通知登録をしていたんだっけ……


 生配信に関しては、別にリアルタイムでなくても後でアーカイブで観る事も出来る為、今すぐに視聴しなくても良いと思いながら、私は再びヨガの続きを行おうとした時、何故かリーフィが私に話しかけて来た。


『ユア、今からシズクの生配信が始まりますから、一緒に観ましょう!!』


「一緒にって、今日は9時からぷんぷりぃ劇場のスペシャル配信があるからって、凄く楽しみにしていたじゃないの。シズクの生配信と時間が被ってしまうけど、いいの?」


『ぷんぷりぃ劇場の方は、後でアーカイブでゆっくりと観ればいいですし、先日出会ったばかりのシズクさんのリアルタイムの生配信を一緒に視聴するのも悪くないと思いますよ』


「まぁ、それもそうね。せっかくチャンネルも登録した事だし」


『でしょう。私の部屋で一緒にシズクの生配信を観ましょ』


 そして、私はリーフィと一緒にシズクの生配信を観る為、先程までやっていたヨガを止めた後、メタバース内にあるリーフィの部屋にアクセスをした。


『それじゃあ、動画を流しますね』


 そして、私がメタバース内にあるリーフィの部屋にアクセスした後、リーフィが部屋の中央に大画面のスクリーンを表示させた後、シズクの生配信の視聴を始めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る