真意を確かめる

第26話 サイクリングで名所巡り

 私、森崎由亜はAIのリーフィと一緒に、この町にあるたくさんの人形が祀られている神社の目の前に来ていた。


 今回の目的はその神社ではなく、その目の前にある場所であり、その場所ではスポーツ用の自転車を持った火花さんと氷山さんがいた。


「この町は、遠く離れた関東にある町から続く自転車道の終点の地でもあるんだよ」


「そうなのですか?」


「その証拠に、ここには太平洋の沿岸沿いの自転車道を走った自転車と一緒に記念撮影を撮る事が出来るモニュメントがあるんだよ」


「あっ、ホントだ!!」


 火花さんに言われるがまま、指さす方を見て見ると、そこには遠く離れた関東から続く自転車道の執着地点を示す自転車が置かれたモニュメントが建てられていた。


「この町は自転車乗りの人達にとっては、ゴール地点の町でもあるんだよ」


 確かに火花さんの言う通り、この町に来てからはただの生活の為というよりも、スポーツ目的で自転車に乗っている人達を頻繁に見かける事がある。


「関東から続く太平洋沿いを走る自転車道はこの町で終わりだけど、実はこの先もまだまだ自転車道は続いているんだよ!!」


「もしかして、その続きを今から行くつもり!?」


「そうだよ!! さぁ、今からこの自転車に乗って、更なる景色を観に行こう!!」


 そう言いながら、火花さんはモニュメントの上に置いていた自転車を私に差し出した。


「この自転車って、勝手に乗って良いの?」


「ここにあるのは、私が参考に置いた自転車だから乗っても大丈夫だよ。それに、この自転車は、車を運転出来ないともっちから借りてきたヤツだから、遠慮なく乗って良いよ!!」


 火花さんがモニュメントの上から取り出した自転車は、早川さんから借りた自転車であった。


 しかし、この田舎町で車に乗らずに自転車移動の早川さんの自転車を借りて使ってしまうと、肝心の早川さんが移動に困るのでは?


 火花さんが取り出した早川さんの自転車を見ながら、私は早川さんの事を心配に思っていると、ドローンモードのリーフィが私に話しかけて来た。


『ユア、自転車での移動だなんて、凄く面白そうじゃないの。私もドローンから皆さんの後を追いますわ』


「どのくらいの距離を走るかは知らないけど、身体を動かすのも大事だし、サイクリングも悪くはないわね!!」


「じゃあっ、決まり!! これから走るコースは見応えがあっていいよ!!」


 こうして、私は火花さんと氷山さんと一緒に、関東から続くと言われている自転車道の続きのサイクリングをする事にした。





 自転車に乗った私達は、海岸線沿いを走った。


 これから走るコースは、スピアーズのメンバー達が以前に動画内で走ったというコースである為、火花さんを先頭に自転車を漕ぎ進めた。


 大きなトンネルを通ったり、その先で見る事が出来る大きな海を眺めたり、そして県境を超えたりしながら、私達はひたすら自転車を走らせサイクリングを楽しんだ。


 そしてしばらく進んだ後、火花さんが町中にある小さな釣り場で止まった為、私達はここで軽く休憩を取る事にした。


「ここの港からは、私達の町からも見えるあの大きな離島に行く事が出来る船が出ているんだよ」


「へぇ、あの大きな島に向かう船って、こんな場所から出ていたのね」


 私達が休憩をとった釣り場は、向こう側に見えている大きな離島に行く事の出来る港でもあり、その証拠にこの釣り場のすぐ近くには中型のフェリーが止まっていた。


「ここから出る船に自転車と一緒に乗れば、あの大きな島でもサイクリングが楽しめるようになるんだよ」


「離島でのサイクリングなんて、自転車乗りにはきっと凄く楽しいでしょうね」


「中には、向こうの島に渡って、この辺まで一周してくる人もいるみたいだよ」


「凄いですね……」


 また、ここから出ているフェリーに乗り、向こう側にある大きな島でもサイクリングを楽しむ人もいれば、中にはこの周辺を一周する長距離サイクリングを行う人もいると聞き、サイクリングの幅広い楽しみ方に私は驚いた。


 そんな感じで話をしながら少しの休憩をとった後、私達は再び自転車に乗り、更に先を目指した。





 その後、海沿いの道を進み、私達はこの町の端にある灯台のある道の駅まで自転車でやって来た。


 そして、この道の駅の建物の中に入り、建物内にある灯台から周囲の景色をしばらく眺めた。


 その後、私達は来た道を引き返す様に帰る事にした。


 そして、県境付近まで戻って来た時、火花さんが自転車を止めた為、私と氷山さんも同じ場所で自転車を止めた。


「ほらっ、ここを行き来すれば、何度でも両方の県を行き来する事が出来るよ~」


 自転車から降りた火花さんは、県境を楽しそうに何度も行ったり来たりを繰り返した。


「私はいまぁ~ 関西にいます。今、私は関西にいるのかな?」


「って、某旅系UTuberの真似事はやめい!!」


 火花さんに続き、氷山さんも県境を行ったり来たりと繰り返しながら高速で反復横跳びをしていた。


 そんな県境往復を繰り返す氷山さんは、某旅系UTuberの真似事をしながら県境を往復していた為、火花さんからツッコミを受けていた。


『ユア、私達も県境往復をやりましょ!!』


「そうね。県境の往復なんて、そう滅多に出来る事でもないし」


 その後、私もドローン状態のリーフィと一緒に、県境の往復を楽しむ事にした。


『あはは。県境を行き来するのって、なんだか面白いですね』


「2つの県を簡単に行き来する行為って、滅多に出来ない貴重な体験ね」


 そんな県境の移動をドローンで飛びながら行き来しているリーフィは、凄く楽しそうであった。


 それは、リーフィだけでなく、私も一緒であった。





 その後、しばらく県境を行き来して楽しんでいた時、リーフィのドローンがある場所を見つめる様に空中で止まっていた。 


「リーフィ、どうしたの?」


『雨沼さんがいます』


「えっ!?」


 リーフィが見つめていた県境すぐ隣にある釣り場の方をよく見て見ると、そこには帽子を被り釣り道具を持った雨沼さんの歩いている姿が目に入った。


 その直後、ドローン姿のリーフィは雨沼さんの元へと近づいて行った。


『こんにちは、雨沼さん。ライブのチケットをありがとうございます。皆さんで凄く楽しむ事が出来ました』


「その声は、リーフィ!?」


 リーフィの声に反応した雨沼さんは、少し驚きながらその場に立ち止まった。


「あっ、雨沼さん!! 急にリーフィが話しかけてごめんね。あと、シズクのライブチケットありがとう。雨沼さんの陰で、シズクの凄いライブを観る事が出来たわ」


「あっ、森崎さんまで、それに火花さんと氷山さんも…… こんな場所で会うなんて一体、どんな偶然なんだか」


 私が雨沼さんに話しかけると、雨沼さんは私達がいる方に目を向けた。


「私達も、この機会に雨沼さんにお礼を言っておかないとね」


「そうだね。いつお礼を言えるか分からないし、何よりも雨沼さんがチケットをくれなかったら、私達がシズクと話をする事もなかったと思うし、お礼はしておかないとね」


「雨沼さん、シズクライブのチケットを、どうもありがとうございます」


 私とリーフィが雨沼さんにチケットのお礼をした後、氷山さんと火花さんも雨沼さんにチケットのお礼を丁寧に行った。


「ベタな感じのお礼に見えるけど、楽しんでくれたのならよかったよ。どう、シズクのライブは凄かったでしょう?」


「凄いなんてもんじゃなかったよ!! だって、あのシズクと話が出来ただけじゃなくて、シズクの部屋に案内もされたんだよ!!」


「おぉ、それは凄く良かったじゃないの」


 雨沼さんからライブの感想を聞かれた火花さんは、あの日の出来事を振り返る様に 凄くハイテンションな表情で答えた。


「まさか、あの雨沼さんが、シズクのライブのチケットを持っていたなんて驚きだね~ もしかして雨沼さんって、意外とアイドル系UTuberに興味があったりするのかもね?」


「いやっ、あれは知り合いか貰ったチケットであって、私は別にアイドル系Utuberに興味なんて……」


「そう言っちゃって!! ホントはアイドル系Utuberがすっごく好きなんだろ? 隠さなくたっていいよ」


「別に隠して何てないよ!!」


 火花さんからアイドル系UTuberに興味があるかと問いかけられた途端、雨沼さんは恥かしそうに赤面しながら否定した。


「アイドル系UTuberがそんなに好きなのなら、シズクも良いけど、この町を拠点にする美少女アイドル系UTuberグループのスピアーズも超おすすめだよ!!」


「それって、単に自分達のグループの宣伝をしてるだけじゃないか!! それに、スピアーズなんかよりもシズクの方がよほど魅力があって凄いんだからな!!」


「ほらっ、シズクの事を評価するという事は、雨沼さんはやっぱりアイドル系UTuberに興味があるんだね」


「うっ、うるさいな!! 私がどう評価しようと、私の勝手だろが!!」


 火花さんからしつこくアイドル系UTuberに興味があると勝手に決めつけられた雨沼さんは、恥ずかしそうに赤面しながら怒っていた。





 その後、私達はしばらくの間、県境の道路の端に立ちながら、雨沼さんを含め5人で話をしていた。


「しっかし、よくよく考えたら、今まで雨沼さんとはまともに話をした事がなかったね」


「それは単に、今まで話をするキッカケがなかっただけだからだろ?」


「まぁ、確かにそうだけどさ、そんなキッカケを私達にくれたのは、何を隠そう、森崎さんだったりするんだよね」


「えっ、私が!?」


「そうさ。森崎さんがこの町に来る事になったのは、リーフィがいるおかげ。そんなリーフィがこの町にいるきっかけを作ったのは、早川さんのチャンネルであるSPレディオのおかげ。そんなSPレディオは、この私、火花晴のおかげで世間で名が売れた」


 驚く私に対し、火花さんがその理由を答えた。


「でっ、結局何が言いたいの?」


「要は、私という存在のおかげで、今、この瞬間、こうしてみんなが出会えたと言いたいんだよ!!」


「お前、ホント自己中心的な考えだな……」


 火花さんの考えに雨沼さんは凄く呆れていたが、火花さんのこの考え方は私は嫌いではない。


 確かに火花さんの言う通り、リーフィがいなければ私はこの町を訪れる事なんてほぼ一生なかった事だし、何より、そんなリーフィを作り出した私のお母さんがこの町に来てSPレディオと業務での協力をしなかったら、リーフィが生まれる事もなかった。


 そう考えると、偶然にも思える事であっても、まるで一種の運命に導かれた様でもあると、火花さんの話を聞いて私は思ってしまった。


 その後、雨沼さんは別の釣り場へ、私達は町に戻る為に、この辺で別れる事にした。


「じゃあ、私はそろそろ行くけど、スピアーズの活動、頑張れよ」


「もちろん頑張るよ。雨沼さん、今度は私達のライブを観に来てね」


「機会があればね」


 そして別れ間際、雨沼さんと火花さんは、県境の真上でお互いの拳を軽くぶつける挨拶フィスト‣バンプを行った。


 そして、雨沼さんは釣り道具一式が入ったカバンを担ぎ、セグウェイに乗って別の釣り場へと向かって行った。


「ん~ 雨沼さんさえ良ければ、虹川さんの後釜に悪くないかも……」


「そうだね。同じ町在住だし、今度姉ぇ姉ぇに話してみるよ」


 その後、別の釣り場に向かって遠ざかっていく雨沼さんを見ながら、火花さんは草プロに入るかも知れない同じスピアーズのメンバーである虹川さんの後釜に、雨沼さんを入れようかと考えていた。


 この考えには、氷山さんも賛成している感じであった。


 火花さんのこの考えが冗談か本気かなんてのは知らないけど、虹川さんが草プロに入るかも知れない件に関しては、火花さん達は本当に喜んで賛成しているのかな?


 虹川さんが草プロに行ってしまう事で、SPレディオを支えたスピアーズの4人という構図が壊れてしまいそうな気がして、私は他人の事であるにも関わらず、どうしても心配に思ってしまった。


 虹川さんが草プロに入るかも知れないという話、一体どうなるのかしら?

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