第25話 子供の頃から思い描いていた世界

 私、早川土萌はやかわともえは、この日の夜もいつもの様に仕事をしていた。


 私の仕事は『SPレディオ』というUtubeチャンネルに、AIやメタバースを使っての地方ビジネスに関する情報を専門に発信しているチャンネルを運営している、


 それ以外にも、スピアーズという女子中学生4人組のアイドル系Utuberのプロデュースも行っている。


 そんな私の仕事は、主に投稿する動画の企画を作ったり、撮影された映像の編集作業がある。それ以外にも、コラボ先の相手や案件をくれる人達との打合せ等の仕事もある。


 そんな感じで、私はいつもの様に、今日も夜風に当たる為に窓を開けながら動画の編集作業をしていた。


 ちょうど、私の家の目の前には海があり、仕事場の窓を開けると、その海を一望する事が出来る。


 そんな感じで夜風に当たりながら、いつもの様に編集作業の仕事を行っていると、私のスマホの着信音が鳴り、私がビデオ通話に出てみると、そこにはメタバース内でストレッチをしているアバター姿の菫が映っていた。


「やっほ~ 土萌!!」


「なんだ、菫か。私は夜も仕事中なんだけど」


「そう仕事ばっかりだと疲れるわよ。たまにはこう、大きく体を伸ばさないと~」


 そう言って両腕を動かしストレッチをしながら私に話しかけてくるのは、氷山菫と言い、スピアーズのダンスレッスンの講師を始め、マネージャーも担当している。


 そんな菫は、南国のビーチをイメージしたメタバース内で、ノビノビと優雅にヨガを行っていた。


「そうよ。仕事の疲れを取るのに、ヨガをやるのも悪くないわよ」


「まさかの、森崎博士も一緒にやっていたの!?」


「えぇ、森崎博士もたまにはこうして、私と一緒にヨガをやって、仕事の疲れを取っているのよ」


「まぁ、森崎博士の仕事は、私の仕事とは比べ物にならないからね……」


 そんなヨガをやっている菫の隣には、私が運営するチャンネルのSPレディオのビジネスパートナーでもある、森崎博士のアバター姿もあった。


 その後、私は少しの休憩を取る感覚で、リラックスした状態で菫とビデオ通話が出来る様にスマートグラスを装着し、イスにもたれながらメタバース内にいる菫と森崎博士と一緒にゆっくりと話をする事にした。





 そして、私を含めて3人での話が始まると、森崎博士がメタバース内のモニターに映る私に話しかけて来た。


「実際に来てみて思ったけど、この町って田舎暮らしにはちょうど悪くない町よね」


「そうですね。この町は市内の端にあって僻地にも見えますが、見方を変えると、近くには大きな国際空港もあって、更には電車だけでインバウンドで凄く盛り上がっている大都市もありますから、実は大都市にも気軽に出る事の出来る田舎だったりするのですよ」


「そのおかげもあって、この町って意外と観光地としても人気があるのですよ。大都市からも、気軽に日帰り旅行も出来ますからね」


 森崎博士がこの町の事を話と、それを聞いた私と菫は、この町のポテンシャルの高さを語った。


「確かに、この町が観光地として人気があるなんて、東京にいた時は全く分からなかったわね」


「最も、この町が観光地として人気があるのは、比較的近い場所に空港があるだけでなく、大都市からも気軽に行き来する事が出来て、更にはこの町には温泉や観光スポットもありますから、意外と人は来るのですよ」


「それがこの町の強みでもあり、ポテンシャルでもあるのよね」


 この町はLCCという格安航空が充実している大きな国際空港が比較的近い場所にあるという点だけでなく、日帰りで気軽に大都市に行き来が出来る事も可能である為、この町に観光で訪れる人が多い最もな理由であると、私と同様に森崎博士もそう思っていた。


 その後、私達が住んでいる町のポテンシャルに関する話が終わり、次はリーフィというAIに関する話を始めた。


「そう言えば、由亜から話は聞いているけど、リーフィちゃんは、あなた達の動画に出ているスピアーズの歌に興味を持っているみたいね」


「えぇ、先日なんて、メタバース内で開催されているライブに自分から行きたいと言ったぐらいですからね」


「そうなの。リーフィちゃんも好きなものが出来て良かったじゃない」


「そうですね。リーフィにも新しい趣味が出来ましたよ」


 リーフィは自由に外の世界を飛び回りたいと言って来た事がきっかけで、この夏の間だけ森崎博士の娘である森崎由亜が同行の元、一緒に外の世界を見ている。


 リーフィは当初、数カ月前に作った映画内に登場する神様役のAIとして、森崎博士の協力の元、最新のAIチャットと協力をして作られたのだが、この時に作り上げたAIが予想以上に高性能であった為に、まさかの自我らしきものまで持ってしまっていた。


 そんな理由もあり、リーフィは自分から外の世界を見て見たいと言ったり、スピアーズの歌に興味を持ったりとしている。


 ホント、リーフィは映画内と同様に、どこからか神様がやって来たみたいな感じだ。


「そう言えば由亜が帰った後、リーフィちゃんはあなたのとこのSPレディオとかいうチャンネルに出るのよね」


「そうですね。リーフィなら、SPレディオの一員として十分に活動は出来ると思いますので」


「そうね。リーフィちゃんならきっとあなた達の役に立つわよ」


 確かに森崎博士の言う通り、リーフィの様な高性能なAIだと、AIタレントとしてSPレディオで活躍をしているスピアーズの後釜も十分に務まると思う。





 その後、しばらく3人で話をして盛り上がった後、森崎博士は明日の仕事がある為に、メタバース内からログアウトした。


 その為、メタバース内は菫だけになってしまった。


「そう言えば、空は草プロに入る件はどう考えているんだろな?」


 そして、私は菫にスピアーズのメンバーである空が、草プロという日本最大級のバーチャル型アイドル系UTuber事務所にスカウトをされた件についてどう思っているかを聞いてみる事にした。


「虹川さんから話を聞く限り、色々と迷っているみたいなのよね」


「そりゃあ、1人で大手に移籍となると、迷う気持ちも分からなくはないけど、今回ばかりは本人の意見を尊重したいね」


「ところで、この件に関しては土萌はどう考えているの?」


「その件に関しては、イエスでもノーでもないよ」


「どうして?」


「空だって、いつまでも子供ではないし、何よりも、いつかは自分で進む道を考えないと行けない日だって来るだろうし、こればかりは私がどうこう言える立場でもないよ」


「なるほどね…… あの子達が子供の頃から私達は一緒にいたけど、あの子達ももう中学生だものね。そろそろ進路は自分の考えで決める年頃なのよね」


「そう考えると、早いね。ついこの間は小学生だと思っていたら、もう中学生だもの」


 そんな感じで、菫と一緒に空の今後に関する話をしていたのと同時に、スピアーズの凄さを改めて思い返した私は、ふとある事を思い返した。


「そう言えば、当時の私達もその時の流行りのアイドル系UTuberに憧れ、そんなアイドル系UTuber達の真似事をする様にUTubeに動画を上げていた事があったね」


「懐かしいわね。確か高校生ぐらいの頃よね。あの時は、私が土萌を誘って始めたのよね」


 それは、かつて私達が高校生ぐらいの時、私と菫の2人で当時話題になり始めたばかりの新ジャンルであった、アイドル系UTuberをやっていた事である。


「でも、残念ながら、当時の私達は全く人気が出なかったよね」


「そうそう。そのせいもあって、高校の卒業と同時にUTubeの投稿は止めてしまったのよね……」


 しかし、残念ながら、当時の私達は世間から全く注目をされる事もなく、その結果、高校の卒業と同時に活動を休止してしまったのであった。


「そう考えると、私達の協力があるとはいえ、今のスピアーズのメンバー達って、当時の私達と比べても、完全にプロレベルそのものなんだよね」


「正直言って、今のスピアーズのレベルと当時の私達のレベルなんて、比べ物にならないぐらいの差があるわよ」


「悔しいけど、確かに言えてしまうね。空なんて、あの草プロからのスカウトが来ているぐらいだし、ホント、凄い所まで来ちゃったよね」


 その為、草プロという大手の事務所にスカウトされるまでのレベルに達した空を含めた今のスピアーズ達の凄さを、改めて思った。


「でも、今のスピアーズ達のおかげで、昔は叶わなかった夢が叶ってよかったじゃないの」


「確かにそうだけど、私達が成功するキッカケを作ったのは、他でもない、晴達の今のスピアーズのメンバー達なんだよね」


「そう考えると、面白い話よね。昔の私達が使っていたスピアーズという名を、そのまま使って活動をしていたんだからさ。まるで、私達が出来なかった夢を引き継いでくれているみたいじゃない」


「その考え方も悪くはないね。今のスピアーズ達は、まるで昔の私達が成し遂げる事の出来なかった世界を見せてくれている様な感じだよ」


 当時の私達もまた、今の晴達のスピアーズと同名のスピアーズという名前でカツ小津をしていた。スピアーズという名は、この家のカフェの名前である”Cape・Spear・Cafeケープ・スピア・カフェ”の名前を参考に、私と菫で考えた名前であった。


 そんなスピアーズという名を晴がどこから思いついたのかは知らないが、同じ名前で活動をしている以上、まるでかつて私達が叶える事の出来なかった夢を引き継いで叶えてくれている様にも見えてしまう。


 そのせいもあり、私は晴達今のスピアーズの活動にも、積極的になる事が出来る。


「ホント、そうよね。そのおかげもあって、土萌が子供の頃から思い描いていた理想の未来世界である”スピアーズ・ワールド”が、少しずつ現実になって来たんだからさ」


「それに関しては、近年のAIの急速な進化やメタバースの台頭のおかげもあって、少しずつ現実になって来ているけど、最もこのSPレディオが有名になる事がなかったら、実現する事がなかった世界だとは思っているよ」


 菫の言う通り、確かにSPレディオというチャンネルが有名になったおかげで、私が子供の頃から思い描いていたあったらいいなと思う理想的な未来世界である”スピアーズ・ワールド”が、現在では少しずつではあるが実現に向かっているのは確か。


 最も、UTubeで成功する事がなければ、森崎博士の研究所の誘致に成功したり、この町に自動運転バスや宅配ドローンを走らせるだけでなく、世界中とつながる事の出来るメタバース空間である”スピアーズ・ワールド”の実現はなかったと思う。


「土萌がスピアーズ達の活動に本格的に力を入れて行こうとした時、私を誘ってくれた事は今でも感謝しているわ」


「何を今更。私はアイドルよりも、AIやメタバースを使った町おこしの方に興味があったから、スピアーズの方は菫に任せようと思って、お願いしてみただけだよ」


 かつて、私は晴達スピアーズの活動に関するマネジメントを菫に頼んでみると、それを聞いた菫は喜んでOLの仕事を退職し、大都市からこの町に帰って来たのである。


「どんな理由とはいえ、このおかげで、私は再び土萌と一緒にいる事が出来る様になった事を、今でも嬉しく思っているわよ!!」


「それはどうも……」


 スピアーズのおかげで、UTube活動が成功して再び一緒にいる事が出来る様になった事を嬉しく思っていた菫を見て、私は少々照れ臭くなった。


「これからも、土萌が思い描く理想的な未来世界”スピアーズ・ワールド”を、私にも見せてちょうだいね」


「あぁ、これからもずっと見せて行くよ。だから、これからも一緒に頑張ろうね!!」


「うんっ!!」


 その後、菫のお願いから、私は子供の頃から思い描いていた理想的な未来世界である”スピアーズ・ワールド”の更なる発展を、これからも菫に見せて行く事を誓った。


 それと同時に、菫と話をした事で、私は仕事以外の大事な事を思い返す事も出来たのであった。

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