第15話 ARゲームのテストプレイをやる事に

 この日、私、森崎由亜は早川さんに呼ばれた為、急遽早川さんの家の喫茶店を目指して歩いていた。


「早川さんったら、渡したいものがあるとか言っていたけど、一体かしら?」


『さぁ、何でしょうね?』


 早川さんの家の喫茶店に向かう道中で、私はスマホの中にいるAIのリーフィと一緒に話をしながら歩いていた。


 この日は空に大きな入道雲が浮かぶ真夏の晴れ日であり、私の元には太陽の暑い日差しが直接当たり、ただでさえ暑くて疲労が溜まりやすくなる状態の上、更に周囲から聞こえるうるさいセミの鳴き声のせいで、体力は少しずつ削られていく状態であった。


 私がこの夏の間宿泊している旅館は、海水浴場の目の前の場所であり、早川さんが住んでいる喫茶店があるのは古民家町の向こう側にある山の裏側の為、歩くとなっても結構時間がかかる場所である。


 この町には一応自動運転バスがあるものの、現在は試運転期間中という事もあり、この町の観光需要がある一部のエリアでしかまだ走行されていない乗り物である。その為、早川さんが住んでいる町外れのエリア内はまだ自動運転バスが走っていないのである。


 そんな理由もあり、私はこんな暑い太陽の日が照らす真夏の海辺の町の中を、凄く暑い思いをしながら山の裏側にある早川さんの家の喫茶店を目指して歩いたのであった。





 そして、しばらく歩き、早川さんの家の喫茶店に着いた頃には、真夏の暑さのせいもあり、体中が汗でビッショリの状態であった。


 早川さんの家の喫茶店前に着いた私は、真夏の太陽の熱で熱くなり更に暑い中を歩いて疲れた体を休ませようと思い、入り口のドアを開けた。


「早川さ~ん、来ましたよ……」


「おぉ、待っていたよ」


 私が入り口のドアを開けると、喫茶店の席に座っていた早川さんは、パソコンで作業をしている最中であった。


「今日はすっごく暑いです…… もう汗がベトベト」


「だったらさ、風呂場でシャワーを浴びてくるといいよ」


「えっ、良いのですか!?」


「別にいいよ。汗でビッショリの状態よりは綺麗な方が良いと思うし。その間に、スマホを貸してくれないかな? リーフィにプレゼントをしておこうと思ってね」


「そう言う事でしたらでひ」


 そう言って、私はリーフィの為にスマホを早川さんに渡した。


「それではお言葉に甘えて」


 早川さんにスマホを渡した後、私は全身が汗でビッショリとなっている身体を洗い流す為、嬉しい気分で奥にある風呂場へと向かった。


 そして、脱衣場に入った私は、汗でビッショリとなった衣服を全て脱ぎ、全裸になった。


「早く汗を流さないと……」


 脱いだ衣服は脱衣場にあるカゴの中に入れた。


 その後、汗でビッショリとなった身体を洗い流そうと思い、風呂場のドアを開けようとした。


 私がドアを開けようとした瞬間、私がドアを開けようとする前に内側からドアが開いた。


 それは、勝手に開いたというよりも、誰かが中から開けたという感じであった。


「あっ!? ……」


「もっ、森崎さん…… どうしてここに……?」


 風呂場の中から出て来たのは、まさかの虹川さんであった。


 なぜ虹川さんが早川さんの家の風呂場から出て来たのかという疑問以上に、虹川さんが出ようとしていたところから何も知らずに全裸の状態でドアを開けようとした自分が恥ずかしくなった。


 最もそれ以上に、お互いが何も身に着けていない全てがさらけ出した全裸の状態で鉢合わせになってしまったという状況が凄く恥ずかしく思った。


 そのせいもあり、私は心臓の鼓動がバコバコと激しく鳴り、顔も赤面になった。


 それは私だけでなく、目の前にいた虹川さんも同じく顔を真っ赤にして凄く恥ずかしそうな様子であった。





 その後、シャワーを浴び終えた私は、虹川さんと一緒に早川さんの作業場の様な部屋で待機をしていた。


 同時に、衣服を洗濯している最中であり私と虹川さんは着る衣服がない為、大きめのタオルで身体を隠した状態でいた。


「虹川さんが来ていたなんて驚きです」


「私もよ。シャワーを浴び終えてドアを開け先に森崎さんがいた事に驚いたわよ」


 作業場の様な部屋にいる私は、虹川さんと話をやりながら早川さんが来るのを待っていた。


 そして、しばらく話をしていた後、早川さんが私のスマホを持って部屋の中に入って来た。


「まさか、空がまだシャワーを浴びていたとはね……」


 風呂場で虹川さんと鉢合わせになってしまった原因は、どうやら虹川さんが早川さんの予想以上に長くシャワーを浴びていた事が原因みたい。


 その後、早川さんはスマホを私に渡した。


「リーフィにプレゼントを渡したよ。早速アプリを開いてごらん」


「わぁ、リーフィの部屋がオシャレになっている!!」


 早川さんに言われるがまま専用アプリを開きスマホを見てみると、そこには以前まで無地の真っ白い空間であったリーフィの部屋の様子が変わり、木で作られたオシャレな別荘という雰囲気に変わっていた。


『ユア、どう? 早川さんがプレゼントしてくれた私の部屋よ』


「良い部屋ね」


 新しい部屋に建つリーフィは、凄く嬉しそうな様子であった。


「リーフィの部屋にはみんなもメタバースに行く感覚で遊びに行く事が出来るので、気軽に遊びに行くといいよ」


「その為のプレゼントでもあったのね」


「まぁ、そうだね。いつまでも無地の空間だと飽きて来ると思ったので、部屋と家具ぐらいはプレゼントしようと思って」


 今回早川さんが私を家まで呼んだのは、この為だったのかな?


「それと、もうひとつ渡しておきたいものがあってね……」


 その後、早川さんは私に渡したいものがあると言い、小型の箱を取り出した。


「これは?」


「AR対応の超小型ドローンさ」


 早川さんが私に手渡したのは、ARに対応しているというスマホサイズの超小型の白いドローンであった。


「渡したいものって、まさかコレ?」


「このAR対応の超小型ドローンがあれば、リーフィは自由に飛び回る事が出来る様になって、今まで以上に自由に移動をする事が出来るようになるんだよ。あと、このドローンには小型のカメラが内蔵されていて、そのカメラを通してリーフィも周りの風景を見る事が出来るようになるんだよ」


「なるほど…… これでリーフィが自由自在に飛び回るのね」


「あと、このドローンの本当の凄い所はARに対応しているというとこであって、スマートグラスをかけてみれば、その真相が分かるよ」


 早川さんからそう言われた為、私はスマートグラスを装着する事にした。


 スマートグラスを装着してドローンの方を見てみると、そこには等身大サイズのリーフィの姿が映し出されていた。


『ヤッホー、ユア。これで私もこちらの世界を自由に動く事が出来る様になります』


「あっ、リーフィだ」


 スマートグラスを装着した私の目の前に立っているリーフィは、メタバース内にいる時と同じ姿であり、そんなリーフィは笑顔で私に手を振った。


「少しでもリーフィに自由自在に動いてもらおうと思い、森崎博士と話をした結果、この超小型ドローンが作られたというわけ」


「これはお母さんが作ってくれたものなのね。これがあれば、今までの様に常にスマホを持つ必要もなくなるので、おかげで手が空く様になります」


「でも、このドローンを自由に飛ばせるのは、特別な許可が下りているこの町だけなので、この町以外では原則飛行はダメだよ」


 この町以外では原則ドローンは飛ばせないものの、このドローンのおかげで、常にスマホをかざすという手間は省けたと思う。





 早川さんはリーフィに関する新アイテムを渡す為に、私をこの場所に呼び出した事は分った。


 しかし、それとは別にどうして今現在、この場所に私だけではなく虹川さんも来ているのかが気になった。


 スピアーズの件で来ている可能性もゼロではなさそうだけど、同じメンバーである火花さんは今日は1日実家の旅館の手伝いの為に来る事は出来ないって言っていたので、気になってしまった。


「さて、ここからが本題だけど、今日は2人にやってもらいたいゲームがあって、呼び出したんだよ」


「えっ!? ゲームですか?」


 突然、早川さんから予想外な事を告げられた。


「そうだよ。次のSPレディオの動画でスピアーズ達がやるゲームだよ」


「そんなゲームを私がやっても良いのですか?」


「撮影前のテストプレイだから大丈夫だよ」


 まさかの私が、スピアーズの動画で行うゲームのテストプレイを頼まれてしまった。


「今日の晴は家の手伝いで来れないし、海は部活の大会で来る事が出来ない状態。その上、雪に関しては、今日は以前から楽しみにしていたメタバース内で開催されるぷんぷりぃ劇場のイベントに遊びに行っているのでお休み」


「それで今日、ここには虹川さんしか来ていないのですね」


「まぁ、そうだね。それと今回はAR対応の超小型ドローンの試運転も兼ねて森崎君とリーフィにもゲームに参加してもらおうと思って、呼ぶ事にしたんだよ」


 そして、虹川さんだけが早川さんの家に来ていたのは、私と一緒にゲームのテストプレイをやる為である事が分かった。


 それと同時に私を呼んだ本当の目的も分かり、単にリーフィに関する新アイテムを渡すだけでなく、リーフィ専用のAR対応の超小型ドローンの試運転も兼ねたテストプレイをやってもらうのが目的である事も分かった。


「事情は分かりましたけど、ドローンを使うゲームってどんなゲームなの?」


「次の動画で行うゲームは、野外でスマートグラスを装着して行うAR対応の最新アクションゲームだよ」


「野外で行うARゲームという事は…… もしかして、この暑い中、また外に出るという事ですか!?」


「そうだよ」


「それで、AR対応のドローンの試運転も兼ねているのですね……」


 早川さんが私達にプレイして欲しいゲームは、涼しい部屋の中で出来るゲームではなく、まさかの炎天下の野外で行うAR対応のゲームであった。


 野外と聞いた途端、私はこの案を断ろうかと考えてしまった。


「ちょうどこの時期は全員が揃うのは難しいし、動画の撮影予定日まで時間もあまりない。そして何よりも事前にゲームを行う現場の状況を把握していない事には、安全で面白い動画を作る事が出来ないからね。その為今回は君達にゲームのテストプレイをして欲しいんだよ」


「なるほど…… そういう理由でしたら、力になれる様に協力をするわ」


「そう言ってくれてありがとう」


 炎天下の外に出るのも面倒で断りたい気持ちもあったが、私は早川さんの頼みというだけでなく、リーフィに関するアイテムを作ったお母さん、そしてスピアーズの活動の手伝いやリーフィの事も考え、私はわがままを言わずに我慢をする事にした。


「ところで、肝心のゲームはどこでやるのでしょうか?」


「この家のすぐ裏山でプレイが出来る様に許可を取っているから、そこでやるといいよ」


「そう言えば、この店のすぐ後ろに山がありますね」


 確かに早川さんの店のすぐ裏には山があるけど、ARゲームが出来る場所なんてあるのかな?


 そんな事を考えていると、隣で座っていた虹川さんの表情が一変した。


「あの場所に行くのですか!?」


「そんな心配しなくても大丈夫だよ。1人で行くわけじゃないから」


「とは言っても…… あそこは昼間でも異様な雰囲気を感じる場所なのよね……」


 ゲームを行う場所を聞いた途端、虹川さんが少し怖がるような表情に変わったけど、これから行く場所ってそんなにヤバい場所なのかな?


 虹川さんの表情を見ながら、私はただそう思うばかりであった。


 これから行うゲーム、大丈夫かな?


 そんなちょっとした心配もある中、私達はスピアーズの動画で行うARゲームの現場確認のテストプレイを始める事に。それと同時進行でリーフィのAR対応超小型ドローンの試運転も始まった。

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