第14話 はっぱをプレゼント

 夕方になった頃、私、森崎由亜は火花さんと氷山さんと一緒に、2人が出会った場所である人形がたくさん置いている神社の前へと来ていた。


 同時に、この神社は火花さんと氷山さんが出会った以外に、リーフィが誕生するきっかけにもなった映画の撮影が行われた神社でもある。


 そんな神社にはもちろんリーフィも同行しているが、ここはメタバース空間ではない為、リーフィは以前と同様、私のスマホの中にいる。


「ここが、例の神社の入り口なのね」


 神社の入り口には、少し大きな赤い鳥居があった。


 鳥居前から見ると、鳥居の向こう側は明らかに雰囲気も異なり、茂みがあるせいなのかどことなく薄暗く感じてしまった。


「それじゃあ、神社の中に行こっ!!」


「夕方に来ると、まるで肝試しにでも来たかのような気分を味わう事が出来るよ」


 火花さんと氷山さんの2人が、先頭を歩く様に先に鳥居を潜った。


「あぁ、待って」


 私もまた、火花さんと氷山さんの後を追う様にして、鳥居を潜り、神社の敷地内に入った。





 神社の敷地内に入り、私は昼間メタバース内で見たSPレディオ内で撮影をしたリーフィが誕生するきっかけとなった映画の事を思い返した。


 ――その映画のストーリーは、昔、とある村に住んでいた友達のいない一人の女の子の物語である。


 遊び相手のいない女の子の事を心配した両親は、その女の子にある人形をプレゼントした。


 女の子にプレゼントされた人形は、近くにある大きな島からこの村の浜辺に流れ着いた大きな木を解体して出来た木材で作られた人形であった。


 そんな人形を、友達のいなかったその女の子は凄く喜び、木から作られた人形という事もあり『はっぱろう』と名付け、毎日毎日その人形と一緒に遊びました。


 いつしかその女の子は、その人形が人間の様に動き、本物の友達になって欲しいと思う様になり、毎日毎日神社に通っては神様にお祈りをする様になりました。


 そんなある日、いつもの様に人形と一緒に神社で神様にお祈りをしていると、神社のすぐ後ろの山から飛んで来たのか、一枚のはっぱが女の子の元に舞い降りてきました。


 そのはっぱを見た女の子は、人形の髪飾りにしようと思い人形の頭部に装着した途端、今まで全く動く事のなかった人形は、まるで命を吹き込まれた様に動き始めました。


 動いている人形を見た女の子は凄く驚きましたが、人形が生きている様に動いた事に対し、その驚きはすぐに喜びに変わりました。


 その日以降、その女の子と動き出した人形は、本物の友達の様に一緒に遊ぶ事になりました。


 また、人形が動き出して以降、女の子が住んでいる村では作物がたくさん採れるようになり、村は豊かになっていきました。


 そんな事もあり、村の人達から動き出した人形は神様の生まれ変わりとだと崇められ、その人形はいつまでも女の子だけでなく村の人達からも凄く大切に扱われましたとさ。


 とま、以上がSPレディオの動画内で撮られた『人形になった神様』という映画の内容である――





 そして鳥居を潜り、潜った先のすぐ隣側には神社に参拝に来た人達の為の土産物売り場や飲食店の小屋があった。


 そこから更に奥に進んだ場所に神社の本殿があった。


 その本殿の周りには、数多くの日本人形がまるでこちらを見つめるかのようにびっしりと並べられていた。


「これは凄い圧倒される光景ね……」


 大量に並べられた日本人形を見た私は、この光景を写真や映像ではなく、リアルという肉眼で本物を見ているという事実に、私は改めて目の前の光景に圧倒された。


「それにしても、この数多くの人形はどこからやって来るのかしら?」


「ここにある人形たちは、元々各家庭に置かれていた人形だったけど、それらの人形を供養の為にこの神社に集まって来るの」


「そうなの」


 この数多くの人形がどこからやって来たのか疑問に思っていると、氷山さんがその疑問に答えてくれた。


 確かに、あの様な人形たちを普通にゴミと一緒に捨てるのは明らかに失礼に感じてしまうし、そう考えるとこの様な形で供養するのが正解なのかも。


「ここに並べられている人形たちは、ほとんどは不要になった為にここに出されるけど、中にはいわくつきの人形だってあるんだよ……」


「そのいわくつきって言うのは……?」


「そう、日本人形の定番である、髪が伸びる人形だよ」


「そっ、そんな人形もここに来るの!?」


 突然、氷山さんから髪が伸びるいわくきの人形もここに納められる事を聞き、私は驚いた。


「そうだね…… 例えば、この人形なんかがその人形だよ」


「って!? ちょっと止めてー!!」


 氷山さんが突然神社に並べられている人形を持ち出し、私の目の前まで持ってきた。


 突然の人形を見て、私は咄嗟に驚いた。


 一見、どこにでもありそうな日本人形に見えるけど、氷山さんが言うには髪が伸びるいわくき人形だそうだけど…… そんなものを勝手に持ち出して大丈夫なの?


「森崎さん、そんなに驚かなくても大丈夫だよ。雪が持っている人形はただの人形でいわつきではないから」


「ちょっと驚かさないでよ」


 そんな中、驚いていた私の様子を見ていた火花さんが笑いながら氷山さんが持っている人形がいわくつきの人形でない事を言った。


 そんなちょっとしたおふざけの後、私達は本格的に神社を見て回る事にした。





 その後、私はスマホの中にいるリーフィにも神社の様子が見れる様にする為に、スマホを右手で持った状態で火花さんと氷山さんと一緒に神社内を見て回った。


 神社の本殿の周囲にはたくさんの日本人形が置かれていたが、日本人形以外にもタヌキやカエルの置物等も置かれていた。


 また、この神社にも本殿のすぐ隣にはおみくじ売り場があり、そのすぐ目の前には人一人がやっと潜れるぐらいの小さい穴が開いた柱があり、神社内を見回っていた最中に、火花さんと氷山さんはその穴を何度も潜って遊んでいた。


 確かにこの様な神社だと、人形をテーマにした映画のロケ地に使うのにはふさわしい場所だと見ていて思った。


 そんな事を思いながら、私は人形がたくさん置かれている神社を一通り見て回った。


「火花さんと氷山さんの2人が出会われた神社って、本当にたくさんの人形が置かれているのね」


「私と仲良くなる前の雪は、こんな場所でずっと一人で人形をジッと見つめていたんだよ」


「ここにある人形達は見ていて飽きないんだもの」


 神社を一通り見終えた後、私達は話をした。


「確かにこれだけの数の人形が大量に並べられている光景は、迫力があって飽きないわね」


 神社の周りに置かれている数多くの人形を見た後、火花さんと仲良くなる前に氷山さんが一人でここに並べられている人形をジッと見ていたという気持ちも、今となっては分る気もしなくはない。


 それと、この様な場所だと、早川さんも映画撮影でロケ地として使おうと思ったのも納得が出来てしまうくらい、見応えがあり迫力のある神社であった。


 そんな神社を一通り見終えた後、私はスマホ内にいるリーフィに誕生のきっかけとなった映画撮影が行われた神社を見れた事への感想を聞いてみる事にした。


「ねぇ、リーフィ。神社はどうだった?」


『はい、思い出の場所を久々に見れてよかったです』


「そう…… 思い出の場所が見れたのはよかったわね」


『はい、ここは火花さんと氷山さんの2人にとっても特別な場所であるのと同時に、私にとっても特別な場所なのです』


 感想を聞いてみると、リーフィはAIにも関わらず、思い出という言葉を言った事に対し少々驚いたが、それでも私はそんなリーフィに対し驚く様な顔はせずニコッとした笑顔で答えた。


 リーフィが誕生するきっかけとなった映画内では、リーフィが演じた人形は魂が宿り神様の様に扱われたとか言っていたけど、まさか、リーフィもこの映画の人形と同様に神様の魂でも宿っているのかしら? なんて、そんな非科学的な事があるはずがないよね、きっと。


 そんな事を考えながら、一通り話をした後、私達は人形がたくさん置かれている神社の本殿前を離れ、再び入り口にある鳥居の方まで戻った。





 そして私達は再び神社の鳥居がある入口へと戻って来た。


「鳥居を潜って神社の敷地内から出た途端、まるで元の世界に戻って来た気分」


 先程までいた神社の光景が、あまりにも非現実感が凄かったせいなのか、鳥居を潜り神社の敷地内から出た途端、私は普段いる日常の世界に戻って来たような気分になった。


「そう言えば雪、さっきここに来る前にリーフィに何かプレゼントをしたいとか言っていなかったっけ?」


 神社を出た直後、火花さんが氷山さんに対しリーフィへもプレゼントの件を話し始めた。


「そっ、それは今から渡そうと思っていたところだよ!!」


「だったら、早くそのプレゼントを渡さないとね」


「晴がそこまで言うのなら、今渡すよ……」


 そう言いながら、氷山さんは少し恥ずかしそうな様子でスマホを操作し始めた。


 氷山さんが渡すリーフィへのプレゼントって、一体何かしら?


 私はそんな事を思いながら、氷山さんから届いた連絡をスマホで確認をした。


「氷山さん、これは?」


「これはメタバース内で使う事の出来るアバターの装飾品だよ」


 そう言う氷山さんから送られたのは、メタバース内で使う事の出来るはっぱの装飾品であった。


「なんでまたはっぱの装飾品なんて?」


「リーフィが演じた人形もはっぱの飾りを付けていたので…… それにちなんだプレゼントだよ」


「なるほど…… このプレゼントにはそういう思いがあるのね」


「うん。あの時の映画で娘役を演じた私とリーフィがダブルで主演を務めたという事もあり、その記念品として映画に出た思い出という気持ちを込めのプレゼントなの。リーフィの髪飾りなんかにちょうど良いかなって思って……」


 どうしてはっぱの装飾品なんてプレゼントをしたのかと疑問に思っていたけど、氷山さんの説明を聞き、納得が出来た。


 そして、氷山さんから受け取ったはっぱの装飾品を、私はリーフィにプレゼントをする為、スマホを操作した。


「はいっ、リーフィ。氷山さんからのプレゼントよ」


『ありがとうございます』


 はっぱの装飾品を受け取ったリーフィは、凄く嬉しそうな様子であった。


「ユキ、このはっぱをありがとうございます。これは私達が映画に出演した凄く大切な思い出の品です」


 その後、リーフィが改めて氷山さんにお礼を言うと、それを聞いた氷山さんは照れるように嬉しそうに喜んだ。


「リーフィ…… 映画の事をこれからも覚えていてね。私も覚えておくから」


『大丈夫です。決して忘れないですから』


「うん、絶対に約束だよ」


 そして、リーフィと氷山さんは、映画で共演したという思い出をいつまでも忘れないという事を2人で約束をした。


 そんな氷山さんにとってリーフィへのはっぱの装飾品のプレゼントは、おそらく映画に出演した時の思い出の意味が込められているのだと、そんな2人にしか知らない思い出にしたる様子を私は見て思った。

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