第12話 スピアーズ・ワールドでライブ 後半

 虹川さんのアバターの衣装は凄くいやらしかった。


 衣装のベースこそは火花さん達のアバターと大差はないものの、火花さん達のアバターの衣装と大きく異なるのは、虹川さんのアバターの衣装だけ異様に露出度が高いという事である。


 まず、胸元から下には衣服の部分がなくお腹が完全に丸見えであった。そして何よりも凄く驚かされたのが、下半身の部分であった、腰部分にはスカートらしきものは付いているものの、前方の部分が完全に露出をしている為、股の部分が完全に露出をした状態であった。


 そんな露出をした股の部分には、白い小さな前貼りが当てられているという、他の誰よりも露出度が高すぎる衣装であった。


 そんな虹川さんの露出度が高すぎるアバターの衣装はイメージカラーから来ているのか、紫色の衣装であり、髪の色も瞳の色も同じ紫色であった。


 確かにアバターとはいうものの、アバターと中の人の見た目が凄く似ているというのもある以上、こんな格好だと他人には見せたくもなければ隠れたくなる気持ちも分からくはないかも…… 


 そんな事を思う一方で、どうして虹川さんのアバターだけが異様な露出をしているのか気になったので、聞いてみる事にした。


「どうして、虹川さんのアバターだけこんなに露出が高いの?」


「あぁ、これね。アバターの衣装を決める時に罰ゲーム付きのゲーム動画を上げたのだけど、その時に虹川さんが負けちゃって。その結果、こんないやらしいアバターになったというわけ」


「そっ、そうなのですか」


 火花さんの話を聞く限り、虹川さんのアバターの衣装が凄くいやらしいのは、罰ゲームの結果だという事が分かった。


「罰ゲームとは言っても、こんなハレンチな衣装はないじゃない!! 私だって元々、凄く可愛い衣装を用意していたのに!!」


「まぁ、そう怒らなくても。所詮はアバターなんだし、別に裸になっているわけでもないのだからさ」


「アバターとはいえ、裸でなくてもこれは半裸よ!! それに、こんな変な罰ゲームで衣装を決めようなんて言ったのは晴なんだから!!」


「まぁ、罰ゲームがあった方が面白いし盛り上がるじゃないか」


「でも、負ければただの屈辱よ!!」


 色々と言ってくる火花さんに対し、虹川さんは怒りながら言っている反面、凄く恥ずかしそうに両手で股部分を隠しながら喋っていた。


「ま~たアバターの事で言い合いでもしてるのか?」


 すると、どこからともなく早川さんの声が聞こえて来た。


「あっ、早川さんも来たのですね」


「まぁ、私が来ないと案内が出来ないからね」


 私達の前にあらわれた早川さんのアバターは、火花さん達以上にリアルとの見た目に大差がなく、唯一の違いは衣装であった。頭には大きなゴーグルを装着し、衣服は冒険家が着るような白いカッターシャツと茶色いズボンを着用していた。


 このアバターの衣装は趣味でやったのかな?


「あと、せっかくだから、リーフィも連れて来たよ」


「私も一緒に見させてもらいます」


 また、メタバース内に来た早川さんの隣には、等身大サイズとなったリーフィの姿があった。


 普段はスマホの画面の中から見ていたけど、ここで見た感じ、リーフィの身長は私の実際の身長と大差なさそうな感じであった。





 そして、全員が集合した後、早川さんに案内されながらメタバース内の世界にあるスピアーズ達が活躍をする『スピアーズ・ワールド』に行く事になった。


 メタバース内では、VRゴーグルを装着した状態で専用のコントローラーを操作して行う為、周囲の景色を見たければ首を動かせば見る事が出来るし、周囲の空間内を移動したければコントローラーを操作すれば自由に動き回る事が出来る。


 VRゴーグル装着時に見ていた風景である実際にいた場所に、早川さんが何かしらの操作をした事により空間内にドアが出現した。そのドアを潜った先には、スピアーズ達が活躍するメタバースである『スピアーズ・ワールド』らしき世界が広がっていた。


 その世界はパッと見た感じ、周囲の建物等が全体的に南国のリゾート地という感じの世界であった。


「これが、『スピアーズ・ワールド』ですか……」


「そうさ。スピアーズやこの町をアピールする為に構想から作り上げたメタバースだよ。近年のAIの急速な成長のお陰で実現する事が出来た世界でもあるんだよ」


 VRゴーグルを装着した先の目の前に広がる南国の光景に、私は圧倒されながら見ていた。


 砂浜の上に並ぶ様にヤシの木が生え、そんなヤシの木が生えている砂浜には穏やかな波が寄せていた。そして、ちょうど夕方なのか、目の前に広がる海岸線は沈んでいく夕日に照らされているおかげで、本当に南国にいるような雰囲気を感じる事が出来た。


 そんなスピアーズ達が活躍をするメタバース内を、早川さんに案内されながら回る事となった。


 早川さん曰く、このメタバースはスピアーズ達のイメージに合わせて作った為に、南国風になったと言っていた。


 それと同時に、このメタバース内には海底観光船や水族館が近未来の雰囲気を出しながら存在しているという事を早川さんは言っていた。


 こちらの施設のうち、今回は水族館の方を見学する事になった。


 こちらの水族館に展示されている魚にはわかりやすい解説文が書かれていた。


 そんな魚が展示されているスペースの奥には、まるで深海の様なイルカショーをやる様な場所にも例える事の出来る、広いスペースが出て来た。


「このスペースは?」


「ここがスピアーズ達がライブをする場所だよ。最低でも1万人以上は入る事が出来るぐらい広いスペースだよ」


 早川さんによって連れてこられた場所こそが、明日スピアーズ達がメタバース内でライブをするメイン会場であった。


「ここでスピアーズ達が明日、ライブをやるのですね」


 メタバースというデーター上の作られた空間内とはいえ、VRゴーグルを装着して見ている以上、まるで実際に実在する空間にでもいるような盛大な臨場感を感じた。


 そんな理由もあり、この場所でスピアーズ達がライブをするという事が改めて凄い事だと感じた。





 そして翌日……


 スピアーズのライブが開催される数時間ほど前、突如リーフィが私に見せたいものがあると言って連絡をして来た為、私はスマホのアプリを開いてリーフィの様子を見る事にした。


「リーフィ、どうしたの? って、その恰好は!?」


『凄くいいでしょう。昨晩、スピアーズワールドを観に行った後で、ウミに今日のライブを観に行く事を伝えると、ウミがライブ用にとこの様な衣装を私にプレゼントしてくれたの』


 スマホに映るリーフィの姿を見て見ると、昨日までの衣装とは違い、別の衣装に変わっていた。


 その別の衣装は水島さんから頂いたとリーフィは言い、その衣装はSF作品に出て来そうな白いハイレグ姿になっていた。あと、太もも辺りまであるソックスを含めたブーツも緑色のラインが入った細身のロボットの様な状態になっていた。


「それよりもリーフィ、この格好は恥ずかしくないのかしら?」


『私の場合、服を着ていようが裸でいようが大きな違いはありませんので。それに体はただのアバターなので、アバターという名の服を着ているのと一緒です』


「そうなの」


『それに、この格好の方が、無駄がないので非常に動きも快適です』


 単にAIであるリーフィには人間の様な羞恥心がない為に言ったのかは知らないが、AIであるリーフィからしてみれば、気に入らなければ自由にアバターを変えるだけで好きな容姿になろうと思えばなれる為、人間ほど容姿は気にしないのかも知れない。


「どちらにせよ、リーフィに新しい衣装をくれた水島さんには感謝ね」


『そうですね。このお礼はライブを観て返さないと』


 アバターの衣装はともかく、リーフィの為に衣装をプレゼントしてくれた水嶋さんには感謝の気持ちでいっぱいだった。


それはそうと、ハイレグの衣装が、何とも水島さんらしいというか……





 そして、この日の夜……


 メタバース内の『スピアーズ・ワールド』では、スピアーズ達による盛大なライブが始まった。


「みんな、今日は来てくれてありがとう!!」


 ステージ上に立っている火花さんが、ライブを見に来てくれたファンの人達に元気よく手を振った。


 そんなライブ会場には、軽く見た感じでも数十人近くが来ているように見えた。


 そんな多くの人達が見守る中で、スピアーズ達は今からライブを行う。


 メタバース内とはいえ、実際に歌いながら踊る為、その日のスピアーズのメンバー達は実際の動きとメタバース内での動きをリンクさせる為、ダンススタジオ内で特殊な衣装を着た状態で踊る事になる。


 更に、その状態からステージ前にいる観客達の様子を見る為にと、専用のVRゴーグルを装着し、まるで実際にその場でライブをしている様な状態になってライブが行われる。


 そして、スピアーズのライブが始まると、リアルでは地味で変な姿で踊っていても、メタバースという仮想現実の世界のステージの上では、華やかな衣装を身にまとったアイドルが私達の目の前でダンスを披露しながら歌っていた。


『凄いです』


「そうね。ライブが始まる直前まで虹川さんは衣装のせいで人前に出る事に凄く抵抗があったにも関わらず、いざ実際に人前に立った瞬間、そんな恥ずかしいという事を一切気にしていないような素振りを見せて人前でダンスをするなんて、ホントプロ根性が凄いです」


 猫のアバター姿である私は、リーフィの頭の上に座った状態でステージ上にいるスピアーズ達のライブを見ていた。


 私達がライブに夢中になっていると、隣にいる早川さんが私に話しかけて来た。


「どう、これがスピアーズの本気だよ」


「ホント、こうして見ていると、プロそのものです」


「そう思うでしょ。彼女達が今こうして人前でライブが出来ているのも、メタバースのおかげなんだよ。今いる客数よりもずっと少ない数でライブを行うにしても、ひと昔前だと東京の様な大都市にでも行かないと出来なかった事なんだよ」


 スピアーズのライブを見て盛大に盛り上がる観客達の声が聞こえないようにセットし、スピアーズの歌声だけが僅かに聞こえる状態にセットして、私は早川さんの話を聞く事にした。


「それが現在だと、わざわざ東京の様な大都市に行かなくても、こんな田舎町であっても多くの人を集めてのライブだって出来てしまうんだよ。ホント、メタバースって凄いよね」


「確かにどんな場所でも大都市と変わらない事が出来てしまうという事は凄いと思います」


「そんな凄い事を私は一時の流行では絶対に終わらせたくないと思っていてね。そういう事もあって、私はメタバースを使っての過疎地方の発展や、スピアーズ達の活動にも力を注いでいるんだよ」


「そうなんですね、頑張ってください。この活動を私は応援します」


 多くのファン達で盛大に盛り上がるスピアーズのライブを見ながら、私は早川さんがメタバース、そしてスピアーズの活動に力を注いている理由を聞いた。

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