第11話 スピアーズ・ワールドでライブ 前半
しばらく早川さんの家で待機していた後、ようやく菫さんが来た為、私は菫さんが運転する車に乗って、スピアーズ達がいる場所へと向かった。
菫さんに連れられて来られた場所は、早川さんの家のすぐ近くにある広い砂浜のある海水浴場であり、サーフィンをしている人が多く目立つ海水浴場であった。
海水浴場とはいっても、現在私が宿泊している旅館の目の前から見える場所とは違う場所である。
そんな海水浴場で、スピアーズ達はサーフィン動画の撮影を行っていた。
「あっ、皆さんがいました!! こんにちわ」
サーフィンに夢中になっているスピアーズ達に大声で来た事を伝えると、その声に反応をしたスピアーズ達が一斉に私と菫さんがいる方に顔を向けた。
「あっ、菫さんが森崎さんを連れて来たよ!!」
スピアーズ達はサーフィンを止め、サーフボードを持ったままの状態で私と菫さんのいる場所へと駆け寄って来た。
あいさつの後、早川さんから聞いていたスピアーズ達が活動をするメタバースの事を聞いてみた。
「聞きましたよ、スピアーズ達ってメタバース内でも活動をしているんだってね!!」
「森崎さんがその事を知っているという事は、もしかして早川さんからその話を聞いているな?」
「あったり!! ちょうどここに来る前に早川さんから色々と聞いて来たの」
「なるほど…… じゃあ明日、私達がアバター姿でメタバース内でライブをやるという事も知っているね?」
「もちろん知っているわ。早川さんに言って明日のライブを見せてもらえる事にもなってるのよ」
「そうなんだ。森崎さんが見に来るのだったら、頑張らないとね」
火花さんが私の方を見ながら、ニコッとした笑顔を見せた。
そんな感じで、私が火花さんと話をしていた隣で、その話を聞いていた虹川さんが火花さんとは対照的にあまり嬉しくないという表情をしていた。
「森崎さんがメタバースに来るという事は……」
「来るという事は?」
「私のアバター姿も見られるという事よね?」
「見られたら、何かマズいのかしら?」
「マズいも何も、あんな姿は人前になんて出せないわよ!!」
虹川さんが嬉しくない表情をしていたのは、どうやら自分のアバター姿が見られたくないという理由らしい。
人前に出せないアバターって、一体どんなアバターなのかしら?
相当恥ずかしながら嫌がる様子の虹川さんを見る限り、凄く恥ずかしいアバターなのかな? と、疑問に思ってしまった。
その事が気になりつつも私は菫さんとの約束通り、スピアーズの練習風景の見学をさせてもらう為、ここからはスピアーズ達と動向をする事になった。
その後、菫さんが運転をする車に乗って早川さんの家に戻った後、スピアーズ達のダンスレッスン等の練習風景やSPレディオで公開されるトーク動画の収録風景を見物した。
今までは私の前で歌って踊る様子のスピアーズは見て来たけど、実際にアイドル系UTuberスピアーズとしての活動を見ていると、改めて火花さん達スピアーズのメンバーは正真正銘本物のアイドルなんだなって私は思った。
そんなスピアーズ達の活動が終わった頃、私は早川さんからスピアーズ達が活躍するメタバースを特別に見せてもらう事になった。
「えっ!? 明日のライブ会場を特別に見せてくれるの!?」
「せっかくだし、ライブ会場だけでなく、『スピアーズ・ワールド』も見て行くといいよ」
早川さんからの急なお誘いに、私は内心凄く驚いていた。それと同時に、早川さんの言った『スピアーズ・ワールド』という言葉が気になってしまった。
「凄く有難いのだけど、その『スピアーズ・ワールド』って何ですか?」
「あぁ、それは……」
「『スピアーズ・ワールド』ってのはね、私達スピアーズがバーチャル空間で活動をする為に用意されたメタバースの名称だよ!!」
早川さんが『スピアーズ・ワールド』について説明をしようとした瞬間、火花さんが割り込む様に入り込んで先に『スピアーズ・ワールド』とは何かを簡単に説明をした。
「なるほど、スピアーズの為のメタバースだから『スピアーズ・ワールド』と呼ぶのですね。専用のメタバースがあるなんて凄いです!!」
「へへっ、これも私達が凄いという証拠だよ」
「ったく…… 私が説明をしようとしていたところを割り込むなんて」
火花さんは自慢気な様子でいた。
そして、私は早川さんからメタバースを存分に楽しむ為にと、VRを本格的に楽しむ事が出来るVRゴーグルを受け取った。
VRゴーグルを受け取った私は、スマホに入っている専用のアプリからメタバースで使用する用のアバターを設定した。
そして一通り準備を終えた後、私はVRゴーグルを装着した。
VRゴーグルを装着した先に広がる世界は、先程までいた早川さんの家のスタジオと全く変わらない風景であった。
「ここが、スピアーズ・ワールドですか?」
リアルと全く変わらない風景に対し、私はただキョトンとするばかりであった。
「ここは入り口だから、今いる場所と風景が変わらないだけだよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ、それよりも私のアバター姿を見て!!」
私がキョトンとしていたところ、突如火花さんの声が聞こえた為、私は火花さんの言葉に反応をする様に火花さんの声がした方を振り向いた。
振り向いた先には、火花さんのアバター姿だと思われるキャラが立っていた。見た目こそはリアルの火花さんと似ているものの、髪形はピンクのボブヘアーと、リアルでいる時の黒髪ツインテールとは大きく異なり短くなっていた。また、目の色も現実離れをした赤い色の瞳をしていた為、似ているとはいえリアルでの雰囲気とは大きく異なる感じだった。
また、アバター姿の火花さんが来ている服装は、お尻部分に大きなリボンのついた可愛らしいフリフリのスカートを履いた、アイドルの様でもあり、また魔法少女の様にも例える事が出来てしまうピンクの衣装であった。
「これが、火花さんのアバターですか?」
「そうだよ。アバター姿の私もすっごく可愛いでしょ!?」
「確かに。まるでアニメに出てくるような美少女キャラそのものですよ!!」
「それはありがとう!!」
火花さんの可愛らしい美少女アニメの様なキャラとなったアバター姿を褒めると、火花さんは褒められた事が凄く嬉しかったというような素直な喜びを見せた。
「ねぇねぇ、私達のアバターも見て~」
「その声は、氷山さん!?」
火花さんの可愛らしいアバター姿に見とれていると、背後から氷山さんの声が聞こえて来た為、私はその声がした方を振り向いた。
私が振り向いてみると、そこには猫耳が付いたボブショートヘアとなったアバター姿の氷山さんが立っていた。服装は火花さんのアバターの服と色が違うだけで、水色の衣装であり、火花さんのアバターとは違い氷山さんのアバターの腰にはしっぽが付いていた。
「わぁ、氷山さんのアバター姿も可愛いですね。猫耳が付いていて」
「そうでしょう。ニャアッ!! っと」
私が氷山さんのアバター姿を褒めると、氷山さんは私の方を見て猫の様なポーズをとって嬉しさを表現してくれた。
そんな氷山さんの隣には、金髪姿のハイビスカスの花飾りを付けたクルッとしたサイドテールヘアのギャル系と言った感じのアバターのキャラが立っていた。
「氷山さんの隣にいるのって、もしかして水島さん?」
「当ったり!! よく分かったね」
「はい、なんとなく雰囲気が似ていたので。それにしても、アバター姿になった途端、一気にキャラが変わりましたね」
「確かに、リアルでの私はこんなギャル系の様な格好はやらないからね」
そんなギャルの様な見た目の水島さんのアバターもまた、火花さんや氷山さんと同じ衣装であったが、イメージカラーの黄色に合わせてなのか、衣装の色は黄色であった。
リアルでの水嶋さんと言えば、スポーティーな感じで常に競泳水着を着ているけど、アバターになるとそんなイメージとは一変してキラキラとした華やかなギャル系へと変わる。この様な変化もまたアバター姿になるという楽しさのひとつだと思う。
そう思う私のアバター姿は、二足歩行をした白い猫のキャラクターのアバターである。
「皆さんのアバター、凄くいいですね」
「そういう森崎さんのアバターだって、凄く可愛いじゃない」
「そうかな? 私のはどこにでもある様な猫のキャラクターだよ」
確かに猫のキャラクターは可愛いと思うけど、オリジナル性のない購入品のアバターである以上、皆さんのアバターの可愛さには敵わないと思った。それでも、火花さんが私のアバターを褒めてくれた事は嬉しかった。
以上、火花さん達3人のアバター姿は確認したものの、スピアーズのもう一人のメンバーである虹川さんのアバター姿だけはまだ確認が出来ていなかった。
それどころか、この空間内にいる気配が全く感じなかった。
「そう言えば、虹川さんはまだ来ていないのかしら?」
「空の事だから、きっと恥かしくてどこかに隠れているはずだよ」
虹川さんがどこにもいない為、辺りをキョロキョロと見渡していると、火花さんから虹川さんがどこかに隠れているという事が伝えられた。
そう言えば昼間に、虹川さんのアバター姿は人前には出せないものだと火花さんが言っていたけど、それのせいなのかな?
私は昼間に火花さんが言っていた事を思い出しながら、どこかに隠れているであろう虹川さんを探していた。
「あっ、空、こんなところに隠れていた」
すると、私が虹川さんを探している間に、氷山さんが隠れていた虹川さんをあっさりと見つけ出した。
「ちょっと、どうして見つけるのよ!! こんな格好では人前には出られないわよ!!」
「そうは言っても、スピアーズは4人そろわないと1つにはなれないよ」
「ちっ、ちょっと……」
部屋の隅っこでうずくまる様に隠れていた虹川さんを見つけ出した氷山さんは、障害物を押す様な感じで、虹川さんのアバターを皆のいる場所へと押し出して来た。
そう言えば、今日の昼間も虹川さんは他人には見せる事が出来ないアバターとか言っていたけど、隠れるぐらい恥ずかしいって事は、本当に他人には見せられないアバターなんだなっと思った。
そんな事を思っていた矢先、私達がいる場所へと出て来た虹川さんのアバターを見てみると、本当に隠れたいと思うくらい凄く恥ずかしい衣装のアバターであった。
「すっ、凄くいやらしい……」
確かにこの衣装だと、例えアバターであっても羞恥心を感じてしまい人前に出ようとは思わないアバターの衣装だと思った。
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