第6話 スピアーズ誕生秘話
早川さんとビデオ通話で色々と話をした数時間後の午後、私、森崎由亜は宿泊先の旅館の娘である火花晴さんと、その友達3人と一緒にいた。
「海の部活も終わった事で全員集合!! 今日は何して遊ぼうかな?」
火花さんの友達の1人である水島海さんが部活を終わった事で全員が集合し、現在は私を含めて旅館の目の前にある海水浴場にいた。
そして、部活帰りの水島さんは、この日も昨日と同様に、練習中に着ていると言っていたキワドいハイレグの競泳水着を着たままの状態であった。
「こんな場所にいるのなら、やる事は1つに決まってるだろ?」
「決まってるって、まさか!?」
「そうっ、目の前の大海原を見ながらにして、泳がないなんて事はないだろ?」
「そう言っても、水着を着てるのは海だけじゃない!! 最も、海の場合は常に水着姿だけど……」
目の前の海水浴場を見ながら、水島さんと火花さんが会話をしていたけども、確かに火花さんの言う通り、今現在この場で水着を着ているのは水島さんただ1人であった。
「水着を着ていないなら、そのまま海に飛び込めばいいじゃない!!」
水島さんはそう言うけど、なぜその発想になる? 水着を持って来るとか、別の案もあると思うのだけども……
「まぁ、それもそうだね…… 後で着替えれば済む事だし」
すると、水島さんのトンデモな案を聞いた火花さんが、水島さんの案を間に受けたのか、納得をする様に頷いた。
そんな事を思いながら火花さんの様子を見ていると、突然火花さんは履いていた短パンのホックを外し、そのまま勢いよく履いていた短パンをその場で脱ぎ出した。
「ひっ、火花さん!! 一体何やってるの!?」
火花さんの突然の行動を見た私は、驚きと同時に凄く恥ずかしいモノを見ている様な気持ちになった。短パンを脱いだ今の火花さんは、純白のパンツが丸出しの状態であった為でもある。
「何やってるって、海で泳ぐ為にズボンを抜いだだけだよ」
「べっ、別に脱がなくてもいいと思いますよ!!」
「そう言っても、ズボンを履いたままだと、泳ぎ辛くなるし、脱いだ方が快適じゃない!!」
真夏の午後の海水浴場に少ししか人が来ていないとはいえ、野外でパンツ丸出しになる事に対して恥ずかしくないの!?
見ている側の私の方がパンツ丸出しの火花さん以上に恥ずかしがっていると、今度は氷山さんが着ていたワンピースをその場で脱ぎ出した。
「そうだね。水着がなくても海で泳ぐ事は十分に出来る」
「って、氷山さんは完全に下着姿ですよ!!」
ワンピースを抜いだ氷山さんは、完全に上下の下着姿となった。
「服を着たままだと、泳ぎにくくなるから、服を脱いだだけだよ」
「そんなあっさりと言うけど、仮にも人はいるんですよ!!」
「大丈夫、パッと見た感じは、ビキニの水着と思うから」
「そういう問題じゃないよ!!」
火花さんに続いて、氷山さんまでもが下着姿になってしまった。
そして、下着姿になった火花さんと氷山さんは、元から水着姿の水島さんと一緒に目の前の海まで走って行った。
その後、火花さん達が海で楽しく泳ぎながら遊んでいる様子を、私はスマホ内にいるリーフィに海を見せる感じで、スマホの画面を海に向けたままの状態で座り、その様子を見守る事にした。そんな私と同様、海で泳ぐ事のなかった虹川さんも私の隣に座り、一緒に砂浜に座って火花さん達が遊んでいる様子を見守っていた。
「皆さん、凄く楽しそうに泳いでいますね」
「えぇ、あの子達はいつもあんな感じよ」
「そうなのですか。凄く元気がありますね」
とりあえず、黙ったまま座り続けるのもアレなので、どんな話材でもいいと思い、虹川さんに話しかける事にした。
「そう言えば今朝、早川さんから話聞きましたよ。スピアーズって凄いですね」
「早川さんから話を聞いたのね」
「早川さんの仕事内容等色々と聞いたわ。ところで、皆さんは昔から仲が良かったのですか?」
「私が晴達と仲良くなったのは、ちょうど小学4年生の頃かしらね……」
話をやれば、意外と話題は出てくるものである。今回は運よくすぐに話の話題が出たという事もあり、2人で黙ったまま海を眺めているだけという心配はなくなった。
海水浴場には、バーチャル型アイドル系UTuberであるシズクの最新曲が流れていた。シズクの歌う歌は今の季節にピッタリな夏らしい歌であり、そんな歌が流れる海水浴場で火花さん達が泳いでいる様子を見守りつつ、私は海を見ているリーフィと一緒に、虹川さんからスピアーズ結成秘話を聞く事にした。
「当時小学4年生だった頃、新型ウイルスの影響で私の家では外での遊びに制限がかかっていてね、放課後は習い事に行く時以外は家の中で過ごす事が多かったの」
「あの頃はどこも外出に制限がかかっていましたからね」
「確かに、あの頃は退屈だったよね。でも、そんな退屈な日々が変わった出来事があったの。ある日の放課後、いつもの様に家の中で大人しく本を読んでいた時に、同じスイミングスクールに通っていただけの関係であった海が、晴や雪を連れて私の家の玄関に現れたのよ」
「そうなんですか」
「その時に晴達に連れられて、私は久々に外で遊ぶ事になったの。その時に4人で遊んで仲良くなった事で、私達だけの仲良しグループが出来たのよ」
虹川さんと火花さん達との出会いって、こんな感じだったんだ……
「そして、あの時に久々に外で遊んだ感覚は、窮屈な世界から解放されたみたいな気分だったわ。その日以降、私は晴達と一緒に外で遊ぶ事になったの。それは、今までの日々がまるで嘘だったように、退屈のしない凄く楽しい日々だったわ」
「一体、どんな遊びをやっていたのですか?」
「基本的な遊びと言ったら、当時私達がハマっていたアイドル系のUTuberグループであった『フェイカーズ』に憧れて、自分達でも何か面白い事や凄い事を動画に上げて有名になろうと思い、この町を探検したりしていたのよ」
「探検する場所とかあるのですか?」
「この町は退屈がしないぐらいに探検出来る場所がたくさんあるのよ。そんな場所を当時、晴達と一緒に何度も探検をしてはUTuberごっこをやっていたわ」
「実際に探検出来る場所があるなんて楽しそうね」
「でも、実際は子供であった私達には『フェイカーズ』の様な面白い動画は作る事なんて出来ず、実際に地元のいろんな場所を探検していても、面白い動画を撮る事よりも、自分達がただ楽しむ事を優先して遊んでいたわ」
「動画を作るのって、凄く大変らしいですからね」
「それ以外にもアイドル系UTuberに憧れて、自分達でも歌を歌ったり踊ったりする動画も作ろうと、『フェイカーズ』とよくコラボをしていた『チョコチップ』というアイドル系UTuberの真似事なんかして、みんなで一緒に歌を歌ったりもしていたわ」
「もしかして、その時に歌っていた歌が早川さんの目に止まって、『スピアーズ』は有名になったの?」
「大まかに言うと、そんな感じね。最も、早川さんとはそれ以前からも知り合っていたのだけども……」
「そう言えば、氷山さんの姉が早川さんと一緒に仕事をしていますけど、その関係でしょうか?」
「まぁ、そうね。この町の至る場所に探検という名で勝手に侵入しては迷惑をかけていたせいもあって、親達が当時今程忙しくなかった早川さんに私達の監視をさせる事をお願いしたのよ。それが実質私達と早川さんとの出会いなのよ」
「実際はそんな感じで出会ったのですね」
「それ以降は、放課後は早川さんの家に集まる事が多くなったけど、当時の私達は売れないUTuberであった早川さんに何度もいたずらをしては、その度に町中を追いかけられるような事があったわ」
「意外と大胆ね」
「そんな原因を最も多く作ったのは、晴だけどね……」
早川さん視点では奇跡の出会いの様に語られていたけど、スピアーズ側の視点だとまた違う感じの出会いだったんだね。
「そんなある日、私達がアイドル系UTuberの真似事をして海辺で歌って踊っている様子を見た早川さんが、その様子を動画で撮影をしてUTube上にアップしてみないかという提案をして来た事が『スピアーズ』の始まりだったのよね」
「ここからが本格的な始まりなのですね」
「そうね。当時の私達は自分達では出来なかった動画投稿というのを早川さんにやってもらうという形で、見事にUTuberデビューを果たす事が出来たのと同時に、私達が海辺で歌って踊っていただけの動画が、早川さんの今までのどの動画よりも再生数が高かったのよ。それがきっかけで『スピアーズ』は、『SPレディオ』専属のアイドル系UTuberとなったのよ」
「凄いです!!」
「それ以降、『スピアーズ』はアイドル系UTuberとして『SPレディオ』の動画に出演をして、歌動画やラジオ動画等をやって来たの。それと同時に今までは大人たちに黙ってこっそりと忍び込む様にいろんな場所を探検していたけど、『SPレディオ』に出る様になってからは、今までの様な遊びではなくきちんと許可を取ったうえで仕事としていろんな場所に出かける事になったの」
「それはよかったですね」
「そうね。アイドル系UTuberとしての活動は大変だけど、私はこのみんなでやるアイドル系UTuberの活動は大好きよ」
「確かに活動は大変だと思いますけども、これからも頑張ってね」
「ありがとう。その期待に答える様頑張ってみせるわ!!」
話が終わった後、虹川さんはニコッとした表情をやりながら私の方を見た。
ただ火花さん達が遊んでいる様子を黙って見守るだけでなく、虹川さんに話しかけた事により、スピアーズ側の結成秘話という貴重な話を聞く事が出来た。
しばらくの間、私は虹川さんの話に夢中になっていたけど、突然、背後から火花さんの声がかすかに聞こえて来た。
「お~い、空。森崎さんと何話していたんだよ?」
火花さんの声が聞こえて来た為、虹川さんと一緒に声がした背後を振る向いてみると、そこには先程まで海で遊んでずぶ濡れになった火花さんと氷山さんと水島さんが立っていた。話に夢中になるあまり、海から上がっていた事にすら気が付かなかった。
「1人だけ先に森崎さんと特別仲良くなろうとするなんて、そう先駆けはさせないんだから!!」
「って!! ずぶ濡れのまま抱きつきに来ないで!!」
そう言いながら、背後にいた火花さんと氷山さんと水島さんの3人は海で濡れた体のまま虹川さんに飛び付く様に抱きつきに行った。
「いいじゃない!! 濡れたら濡れたらで、そのまま風呂に直行すればいいだけなんだからさ」
「全く、晴は…… 昔から変わらないんだから」
火花さん達に抱きつかれている虹川さんは、一見迷惑そうに見えつつも、どことなくそんな様子を受け入れている様にも感じた。
そんな様子を私はスマホ内にいるリーフィと一緒に、古くからの友達との付き合いの良さとその面倒さを同時に感じつつ、虹川さんと火花さん達の様子を見ていた。
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