この町とスピアーズの秘密
第5話 SPレディオ誕生秘話
私、森崎由亜が親の頼みからAIであるリーフィと共に過ごす為に、この県境にある小さな町に来てから1日が過ぎた。
1日が過ぎた今、私がいる場所は、昨日に早速友達になった火花晴さんの実家が運営している旅館内の客室である。この部屋は、旅館の目の前にある海水浴場を部屋の窓から一望する事が出来る、見晴らしの良い和室である。この部屋からは、すぐ目の前の海水浴場だけでなく、海水浴場の少し先にある離島も見る事が出来る。
そんな部屋にいる私は、簡単な朝食を済ませた後、昨日のリーフィの件を報告する為、私は早速、スマートグラスを装着し早川さんにビデオ通話を行う事にした。
早川さんにも私の顔が確認できる様にする為、私は目の前に三脚スタンドにスマホをセットし、そのスマホに私の顔が映る様してビデオ通話を行った。
そして、ビデオ通話の映像に出た早川さんも私と同様にスマートグラスを装着し、目の前に置いていると思うスマホに顔を映していた。
ビデオ通話内に映る早川さんの部屋には、何やらよく分からない機材や撮影道具らしき物などが映っていた為、早川さんはこの部屋内で何かしらの仕事をやっているのだと思った。
「リーフィはどうかな?」
「リーフィですか? リーフィなら、海の景色や動物のオブジェを見て凄く喜んだり興味深く観察をしていましたよ。あと、リーフィは歌や踊りにも興味があるみたいで、火花さん達の歌を凄く楽しそうに聞いていましたよ」
「そうか。リーフィが楽しんでいるみたいでよかったよ」
ビデオ通話をするなり、早速早川さんはリーフィの件について聞いて来た為、私は昨日の火花さん達と遊んだ出来事や、スピアーズのライブを見せた時のリーフィの様子等を伝えた。
昨日のリーフィの様子を伝え終えた後、今度は私自身の質問として、早川さんが何者であるかを詳しく聞いてみる事にした。急遽、お母さんから呼ばれてこの町に来た為、私は早川さんが何者であり、どんな仕事をしているのかを詳しくは知らなかった為である。
「早川さんの仕事って何ですか?」
「私は『SPレディオ』というチャンネル名で、UTubeに動画を上げてスピアーズ達の活動とAIやメタバースを使っての地方ビジネスに関する情報を発信する事を仕事にしているのさ」
「早川さんってUTuberなんですか?」
「そう思う人は多いかも知れないけど、私は別に自分の職業をUTuberなんて思ってはいないよ」
「どうしてですか?」
「私の場合は、あくまでもメインの仕事の助長の為に利用させてもらっているだけだからね。それもあって、私は自分の職業をUTuberだと思っていないんだよ。まぁ、似たような考えの人は、今の時代多くいるみたいだけど」
「なるほど…… メインである仕事の助長の為ですね。早川さんはさっき、UTubeに動画を上げてAIやメタバースを使っての地方ビジネスに関する情報を発信する事を仕事にしていると言っていましたけど、どうしてその様な仕事をやろうと思ったのですか?」
「それは、ちょうど5年前に世界中で起こった新型ウイルスのせいで、なかなか就職先が見つからなかった為に、実家の店の仕事を手伝う事になってね。その時にちょうど大して忙しくもなかった店番の合間を縫って店以外からの収益を稼ごうと思って始めたのがUTubeなんだよね」
早川さんがUTubeに動画を上げる事になったきっかけが、まさかの新型ウイルスによる就職難であった。
「そんな簡単に言ってますけども…… 5年前とは言え、世間では既に新規でUTubeを始めるには遅すぎるなんて言われていた時ですよ」
「『今からUTubeを始めるのは遅い』なんてセリフは、5年前だけでなくて、それよりももっと昔、10年以上も前から言われていた事だよ」
「そうなのですか!?」
「そうだよ。オワコンならともかく、UTubeはまだまだ伸びしろのある市場だし、始めるに遅いなんてないよ」
確かに早川さんの言う通り、UTubeは世間に広く知れ渡ってから既に10年以上は経過しているが、まだまだ将来性のある市場である事には間違いないと思う。伸びしろのあるうちは遅いなんて言葉は不要なのかも?
「最も今の時代、UTube等のネット動画に動画を上げる人なんてたくさんいる。それはどんな仕事でも同じであって、自分の仕事を効率よく行う為にUTubeを利用している人だってたくさんいる。最も、今のUTubeはテレビ以上の影響力もあって、誰でも自由に物事を発信出来るメディアを仕事で使わないなんてないだろ?」
「確かに、テレビよりもUTubeの方が手軽さだけでなく、影響力もありますもんね」
確かに今の時代、どこの企業もUTubeに自社の動画を投稿しているのをよく見かける。これも早川さんの言う通り、テレビと違ってUTubeは誰でも気軽に発信出来るメディアであるという証拠ね。
「そうだね。私はこのUTubeを使って、大学時代から取り組んでいたテーマでもあったAIやメタバースを使っての地方ビジネスに関する自分の考えを動画にして発信していたけど、最初の1年は全くと言って良い程、誰からも再生はされなかったね」
「やっぱり、UTubeは思っていたよりも甘くはなかったという事ですね」
「そうだね。どんなジャンルでもそれを求めている客がいない以上は全く人気が出ないという事を思い知らされたよ。でも、そんなある日、このピンチを救う出来事が起こったんだよ」
「一体何ですか?」
「そう、『スピアーズ』のメンバーとの出会いだよ。当時小学4年生だった晴達が流行りのアイドル系UTuberの真似事をやっているのを町中で見かけたので、その様子を動画に出してみたら、今までの再生数が嘘みたいに、一気に再生数が増えて固定ファンまでついたんだよ」
火花さん達スピアーズって、思っていた以上に凄いかも。
「それ以降は今まで通りの動画だけでなく、スピアーズのアイドル系UTuberとしての活動のサポートもする様になって、SPレディオの活動はますます忙しくなった。そして、活動の幅が広がると、いろんな企業や業界から声がかかり、新しい分野の活動も始まったんだよ。それが、私が以前から取り組みたかったAIを使っての地方ビジネスってわけ」
「この分野って、もしかして私のお母さんが関わっている分野だったりする?」
「もちろん。元々私の大学の教授だった森崎博士は私がUTubeでAIやメタバースを使う地方ビジネスに関する持論の動画を上げているのを知っていたという事もあり、私の動画を観た森崎博士自らが協力したいと言ってくれたおかげで企業誘致にも成功し、それ以降は当チャンネルと研究の分野で協力をする事になったんだよ。それこそが、過疎地域での宅配ロボやドローン等のAI分野だよ」
「なるほど…… お母さんと早川さんにはそんな繋がりがあったのですね。ところで、どうしてこの町でAIなんて必要なのですか?」
「それは、人口が減少しているこの様な地方だと、今から新しく町に人材を確保しようとするのは凄く難しい話である。その上、只でさえ人材の確保が難しいのに、今の日本は少子化社会。そんな地方の人手不足を解決する手段にこそAIが必要なんだよ」
そう言えば昨日、この町を歩いていた時に、自動運転バスだけでなく、荷物を運んで飛んでいたドローンや、ゆっくりと走行する宅配ロボットを見かけたな。
これらの最新AIで動く無人の乗り物が、こんな田舎町で見かける背景にはこういう事があったんだね。
「森崎博士の協力もあって、この町で無人運転バスが走ったり宅配ロボやドローンを見かけるのも、今ではごく普通の日常の光景となったよ。最もこの分野は、私がチャンネルを開設した時から密かに思い描いていた目標のひとつでもあったんだけどね」
「早川さん、目標が叶って良かったですね!!」
早川さんの話を聞いた後、どうしてこの町にリーフィの様なAIがいるのか、なんとなくその理由も分かった気がした。
早川さんの話を聞いた後、早川さんという人はただ単に恰好いい人というわけではなく、凄い人なんだと思った。
そう思っていると、画面内からドアが開く音と同時に、早川さん以外の人の声が聞こえて来た。
「トモエ、前回の動画はもう出来ているの? って、朝からビデオ通話中なの?」
「そうだよ。ちょうど今話している相手が、例の子」
「例の子って…… あぁ、あの子ね。初めまして、私は『
早川さんの隣に立っている氷山スミレと言うスピアーズのマネージャーを名乗る人は、青髪のふわっとしたロングヘア―の、可愛らしい外見をした女性であった。
「初めまして!! 昨日からこの町に来た『森崎由亜』です。『氷山』って、もしかして、スピアーズの『氷山雪』さんのお姉さんですか?」
「正解よ。雪は私の妹なの」
「なるほど。もしかしてスミレさんがスピアーズのマネージャーをやっているのって、妹の雪さんがいるからなんですか?」
「妹がスピアーズにいるからやっていると言うよりは、どちらかと言うと、トモエが心配で極力近くにいる事の出来る仕事を選んだ結果と言ったところかしら?」
「そうなんですか」
早川さんの近くで出来る仕事を選んだスミレさんって人、もしかしたらただの仕事仲間というより早川さんの彼女さんだったりするのかな? 画面に映る2人の様子を少し見ただけで、なんとなくそんな妄想をしてしまった。
「それよりも、貴女、アイドル系UTuberに興味はないかしら?」
「どうして?」
「ちょうど今、密かにスピアーズに新メンバーを加えてみようかなって考えているところなのよ。貴女でよければ加入してみないかしら?」
すると突然、スミレさんからアイドル系UTuberに入らないかと誘われた。突然の誘いはありがたいけど…… 別に私自身はそこまでアイドル系UTuberに興味はなかったりするので、断る事にした。
「そうですか…… お誘いの声をかけたところ失礼ですが、私はアイドル系UTuberには特に興味はないので、加入する気はないです」
「そう。それは残念ね…… でも、夏休み中はこの町に滞在してるのでしょ?」
「そうですけども?」
「だったら、気が向いたときにいつでも声をかけて来なさい。貴女であればいつでもウェルカムよ!!」
「多分、それはないです……」
出会って早々、アイドル系UTuberに誘われてしまったけど、私にも普段の生活というものがある上に、何よりも昨日のスピアーズの様な歌やダンスをすぐにマスター出来るとは到底思えない。興味がない以前に技量的に無理な為、夏休みが終わる頃にも加入しないという考えは変わらないと思う。
そんな感じで、ビデオ通話を使った早川さんとの朝の通話は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます