第7話 大浴場は秘密の練習場

 この日の昼間、火花さん達が下着姿のまま海で遊んだという事もあり、夕方になった現在、私達は火花さんの家の旅館の温泉に来ていた。


 火花さん達は誰よりも早くに浴室へと行ってしまい、そんな火花さん達の後を追う様に、私も着ていた衣服を全部脱ぎ、タオルを身体に巻き、浴室のドアを開けた。


 広い浴室の奥にある外に出る事が出来るドアの向こう側の露天風呂から、火花さん達の声が聞こえて来た為、私も露天風呂に行く事にした。


「お待たせ……」


 先に温泉に浸かっていた火花さんに一言声をかけた後、私は身体に巻いているタオルを身に着けたまま浴槽に入ろうとした。


「ちょっと待って!!」


「えっ、何!?」


 しかし、浴槽に入ろうとした途端、火花さんからストップの声がかかった。


「温泉に入る時は、タオルを取らないとダメだよ!!」


「やっぱり、取らないとダメなの?」


 どうやら、タオルを巻いたまま直接温泉に入ってはいけないみたい…… タオルを外して裸体をさらけ出すのは恥ずかしいし、このまま温泉に浸かるのは止めようかしら?


「取らないとダメに決まってるじゃない」


「そうなの…… じっ、じゃあ、私はそこのベンチで座っておくわ……」


 どうも、タオルを外さないと温泉には入れないようなので、タオルを外すぐらいなら私は温泉に入るのは止めようと思った。


「そんな事言わずに、タオルを取れば温泉には入れるよ」


「って、キャア!! 勝手にタオルを取らないで下さい!!」


 近くのベンチに行こうとした瞬間、私の元へと近づいて来た氷山さんが、突然、私の身体を隠す様に包んでいたタオルを勢いよく取り外した。


「タオルを取らないと、温泉には入れないよ」


 氷山さんに突然タオルを取り外され、目の前の温泉に浸かっている火花さん達に見事に裸体をさらけ出してしまった私は、驚きのあまり、身体を隠す前に何故か両手を軽く上げるしぐさをとってしまった。


「すっ、凄い…… 全部剃ってるんだ!!」


「だから、他人に裸体は見せたくなかったのよ!!」


 私の裸体を見た火花さんは何故か真っ先に股間の部分に注目をし、私自身が最も恥ずかしいと思っている部分を指摘してきた為、私は顔を赤面にしながら、心臓をバクバクとさせながら両手で股を隠す様に抑えた。


 ヤバい…… 見られてしまった!!


 私が股の毛を全部剃っていた事が珍しかったのか、火花さんだけでなく、水島さんと虹川さんまでもが食いつく様に私の方を見始めた。


「全剃りとは、見た目に反して大胆だな」


「都市部の方では、中学生でも全部剃るのが流行っているのかしら?」


「ちっ、違います!! これは、部活が理由で剃っているのです!!」


 恥ずかしがる中、私は水島さんと虹川さんに対し、私は毛を剃っている理由を言った。


「部活って、何かやっているの?」


「いっ、一応、水泳部です……」


「えっ、そうなの!! 水泳部って事は、私と同じ部活じゃない!! 専門種目は何?」


 水泳部である事を告白した途端、水島さんが先程以上に私に興味を持ちだした。


「専門種目って、私は飛び込みの方が専門であって、競泳の方ではないの」


「そうなんだ。競泳の方だったら色々と話が出来たのに……」


 私の専門種目が競泳ではなく飛び込みであると分かった途端、水島さんは少しガッカリした様な様子を見せた。


「それよりも、飛び込みの方って競泳水着が競泳の様にスパッツではないから毛を剃ってたりするの?」


「まぁ、飛び込みの方はスパッツでない競泳水着を着るから、その水着だと毛がはみ出てしまって…… そんな理由もあって、調整している間に、つい全部」


「なるほど、そんな理由でね。確かに競泳水着を着る時の毛の処理は、水泳部の悩みだよね。ちなみに私も水着から毛をはみ出さないようにする為に毛の処理をしているけど、調整が面倒なので全部剃っているよ」


 そう言いながら、水島さんはその場で立ち上がった。浴槽から立ち上がった事で見えた水島さんの股には、毛が全くなかった。


「凄い…… 堂々としている……」


「まぁ、水泳部がこんな程度で恥ずかしがっていたらダメだよ。それに毛がないのは森崎さん1人ではないのだから、別に恥ずかしがる必要はないよ」


 恥ずかしい部分を隠そうとせず堂々とした姿勢で私の前に立っている水島さんを見つつも、私は見られたら恥ずかしいと感じる股という部分を両手で抑える様に隠したまま、温泉の前に立っていた。


 そんな水島さんの様子を温泉に浸かりながら見ていた火花さんが喋り始めた。


「最も海の場合は、あんなキワドいハイレグなんか着ているから毛を剃らないといけなくなったんじゃないの?」


「うっ、うるさいな!! それだけの理由じゃないよ!! 体毛を剃る事で水の抵抗を抑えて少しでもタイムを伸ばすという目的だってあるのだから!!」


「そこまでしてハイレグに拘らずに、素直にスパッツの競泳水着を着れば、別に毛を剃る必要はなくなるのに。ほらっ」


 そう言い終わった後、今後は火花さんが立ち上がった。


「キワドいハイレグなんて着なければ、毛を剃る必要はないし、そうすれば私の様に毛を生やしておく事が出来るんだよ」


「そう言いつつ、お前が見せつけている毛は手入れする必要のないぐらいの少量じゃないか」


「別にいいじゃない!! ある事には変わりはないのだから」


 水島さんが言う様に、確かに火花さんの毛の量は水着からはみ出る程の量はなく少量であった。


「例え少量でも、この歳だと毛があった方が温泉とかだと堂々としていられるのかな?」


「別にそんな事はないよ」


「えっ!?」


「私は毛が生えていないけど、こうして堂々としているよ」


「そうね…… 確かに堂々としているわね」


 私のボソッと呟いた独り言に反応をしたのは、隣に立っていた氷山さんであった。堂々と見せてる氷山さんの股には毛はなかったものの、見た目が子供ぽい氷山さんの場合、別になくても特に違和感は感じなかった。


「あんた達、そんなトコ見せつけ合って、恥ずかしくないの?」


 股の毛があるとかないとかを見せつけあっていた火花さんや水島さんの様子を、虹川さんが温泉に浸かりながら呆れた様子で見ていた。


「特に恥ずかしくないけど、別に隠す必要もないじゃない」


「それよりも、森崎さんも含め、みんな恥ずかしい場所を見せたのだから、ここは空も森崎さんに見せないとね」


「なんでそうなるのよ!! 私は見せる気はないからね」


「そうはさせないんだから!! 海、今だ!!」


「あいよっ!!」


「キャア!! 一体何するのよ!!」


 火花さんの指示の後、水島さんが虹川さんの背後に回り込み、そこから虹川さんの両脇の下に手を入れ、そのまま勢いよく虹川さんを浴槽から強制的に立ち上がらせた。


「なるほど。空は毛が全く生えていないから、見せたくなかったんだね」


「ちっ、違うわよ!! 毛がないのは、毛が凄く濃すぎて量も多すぎるから、全部剃ったからなのよ!!」


 背後から水島さんにガッツリと押さえつけられている虹川さんは、毛が全くない股を一切隠す事が出来ない状態で私達に見せつけられていた。


「そうなんだ。そう言いつつ、触った感じ剃り跡が一切感じないんだけど。もしかして、ホントはまだ生えていないだけなんじゃないの?」


「って、いい加減にしろよ!!」


「うわぁ!!」


 その後、調子に乗った火花さんが虹川さんの毛がない股を触りに行くと、そんな様子にブチ切れをした虹川さんは、凄く怒った様子で火花さんの腹部を思いっきり蹴り、その勢いのまま火花さんは水面上に倒れた。


 怒らせた虹川さんは口調すら変わってしまっていた。下手に怒らせない方が良いわね…… 温泉に叩きつけられた火花さんを見ながら、そう思ってしまった。





 その後、気を改めた後、私達は温泉に浸かりながら楽しく話をしていた。


「そう言えば、皆さんは普段からここの温泉に入られるのですか?」


「そりゃあ、もちろん。ここ数年は宿泊客が少なかったので、意外と広々と入る事が出来たりしてよかったよ」


 火花さんに聞いてみたところ、温泉には頻繁に入っているみたい。


「それに、ここは私達の秘密の練習場でもあるんだよね」


「えっ!? 練習場って、ここって温泉ですよね?」


「そうだよ、私達スピアーズは、たまに人が入っていない時は、温泉に入るついでに歌やダンスの練習もやっていたりするんだよ」


「どうして温泉なんかで!?」


「まぁ、そりゃあ、ダンスをした後だと体中が汗でビッショリになってシャワーを浴びたいと思うけど、ここならダンスが終わった後ですぐにシャワーで汗を流せるだけでなく、温泉にまで入る事が出来ていいじゃない!!」


「でも、浴室で歌やダンスの練習をするって事は、つまり裸でやっているって事ですよね?」


「確かにそうだね。でも、実際に裸という凄く恥ずかしい格好でやる事で、恥ずかしいという気持ちを克服する特訓にもなるんだよ」


「そっ、そうなんですか……」


 火花さんから知らされたスピアーズの裏話的な話に、私はただ驚くしか出来なかった。


「あっ、せっかくだしさ、今から森崎さんの前で私達が温泉でやっている練習風景を見せてみない?」


 すると、突然火花さんが何を思ったのか、今から浴室でやっている練習風景を見せようかと言って来た。浴室でやる練習って、裸だよね?


「えっ、流石に他人に見られての練習なんて恥ずかしくて出来ないわよ」


 突然の火花さんの案に、虹川さんは即答で否定をした。


「森崎さんを始め、既に皆の恥ずかしい部分を見せ合った後なんだから、今更恥ずかしがる事なんてないじゃない!!」


「そうだよ。裸の付き合いをして更に仲良くなるのも悪くないよ」


「それに今更何恥ずかしがっているんだよ。もういろいろとやって来たじゃない」


 そんな虹川さんの否定に対し、火花さんだけでなく氷山さんと水島さんも否定を否定した。


「まっ、そんなワケだから、今から早速ライブをやるよ!!」


「えっ!? 本当にやるの?」


 虹川さんが賛成をしなくても、火花さん達は勢いのまま浴室でライブをやる為、浴槽から出た。





 そして、浴槽を出た火花さん達は、タオルを一切まかない状態で、温泉に浸かっている私の目の前に横並びをやる様に整列をした。


「じゃあ、今から私達が普段やっている練習場所で、軽くライブをやるよ!!」


 スピアーズのメンバー達が横一列に整列をした後、火花さんは元気よく私に向かって挨拶をした。


「レッツ、スピアーズ!!」


 メンバー全員での元気良い掛け声と共に、スピアーズのライブが始まった。


 ライブは浴室でやっている為、火花さん達スピアーズのメンバーの全てが隠されずに丸見えの状態であった。そんなスピアーズ達が踊りながら歌っている目の前の温泉に私は浸かりながら、そんなライブの様子を見ていた。

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