第2話 AIの取り扱い!!

 今年の夏をAIと過ごすという事実にいつまでも驚いているわけにはいかないと思った私は、なぜ私がそんな役割を任されるようになったのかを早川さんに聞いてみる事にした。


「どうして私なんかがその役割を任される事になったのですか?」


「まぁ、それは、森崎博士がそう決めたからだよ」


「それだけで!?」


「あぁ、リーフィの件は『私の娘に任せよう』と、森崎博士が直々に決めていた事だからね」


「それ本当なの、お母さん!?」


 私はその真相をお母さんに聞いてみる事にした。


「えぇ、本当よ。リーフィが外の世界を見て見たいって言ったから、こうして由亜に来てもらったのよ」


「それって、他の人ではダメだったの?」


「流石にリーフィというAIを見ず知らずの人に託すなんて、逆にどんな危険があるか分からないでしょ。だからこそ、私が最も信頼出来る人物である娘の由亜に任せる事にしたのよ」


「そんな大事な事、どうして先に言わなかったのよ!?」


「それは、サプライズの為よ。言わない方が、来た時の驚きが倍増するでしょ。そんな気分を味わってもらいたい為に、あえて秘密にしていたのよ」


 お母さんから話を聞いてみると、夏休み中私がこの町に滞在する事になったのは、リーフィというAIが外の世界を見る為の同行係だったという事が完全に分かった。


「お母さんは気軽に言うけど…… こんなのって私が引き受けても良いの?」


「そう心配しなくても大丈夫よ。妹が出来たと思えばいいだけだから」


「いやっ、思えないから!!」


 お母さんは気軽に接すれば良い様に言っているけど、リーフィというAIと過ごすという重役を任されてしまった私にとっては、どう対応すればいいのかさえ疑問に思ってしまった。


「しかし、お母さんはこう言っているけど、早川さんとかがリーフィと一緒に外で散歩をするぐらいとかは出来なかったの?」


「その疑問の回答としては、私の場合は仕事が忙しくてリーフィに構っている時間もそんなにないからね。そんな理由もあって、森崎博士直々の案で君に夏休みという時期を利用して、私達の代わりにリーフィと一緒に外の世界を楽しんで欲しいのさ」


「確かに早川さんの言う通り、仕事のある大人は忙しくて時間もあまり取れないと思いますけど、私にだって部活があるんですよ」


「君の言う通り部活も大事だとは思うけど、一生に一度しかない中学2年生の夏休みを普通とは違う特別な夏休みにした方が、いつもと何一つ変わらない生活を続けるよりも刺激があって良いと思うよ」


「別に私は刺激なんて求めていないです」


「まぁそう言わずに。刺激がある夏休みの方がきっと強く思い出に残るから」


 早川さんは刺激がある方が強く思い出に残るとか言うけど、別に私は普段とは異なる特別なんて特に求めてなんていない。





 普段とは異なる特別を求めていないと思っていても、お母さんからの頼み事でもある以上、私は断る事なくリーフィというAIと今年の夏を一緒に過ごしてみる事を決めた。


 決めたはいいものの、具体的にどのように過ごせばいいのか疑問に思った私は、スマホ内にインストールされたリーフィというAIの事を早川さんに色々と聞いてみる事にした。


「リーフィと過ごすと言っても、一体何をすればいいの?」


「難しい事は考えなくていいよ。そのまま、のんびりリーフィと一緒に町を探査したりしながら楽しく過ごせばいいだけなんだから」


「のんびり? それだけでいいの?」


「とりあえずは。とにかく、この町でリーフィと一緒に遊びながら過ごせばいいだけよ」


「本当にそれだけでいいの?」


「それだけで十分よ。このリーフィというAIには、見たものや感じたものを覚えて学習する機能があるからね。だからいろんな体験をすればリーフィにもそれが思い出として残るんだよ」


「なるほど。ところでリーフィが外の様子を見るのは、スマホに付いているカメラを対象の風景に向ければいいのでしょうか?」


「そうだね。スマホのカメラに映る風景は、スマホ内にいるリーフィも見る事が出来て、そこから得られる風景という情報からリーフィはそれを確認する事が出来るんだよ。だから、スマホのカメラを常に周囲に向けているだけでいいんだよ」


「常にスマホを周囲に向けていないといけないのは面倒ね」


「まぁ、リーフィのアプリさえ連動させれば、スマートグラスに付いているカメラからでもリーフィは周囲の景色を認知する事が出来るよ」


「なるほど…… 常にスマートグラスを装着していれば楽かも知れないけど、使い過ぎるとバッテリーの消耗が普通よりも早くなるから、やっぱりスマホを持つ事になるのね」


「まぁ、そんな感じだからとりあえず、夏休み中だけでいいので、出来るだけ多くの時間をリーフィと一緒に過ごしてあげてね」


「夏休み中だけなら…… 多少の我慢も出来そうな気はする」


 私は早川さんからリーフィというAIの取り扱いを色々と聞いてみたけど、スマートグラスの使い過ぎは避けたい為、常に周囲にスマホを向けておく必要がある事を知り、少々面倒に思えた。それでも、夏休みの期間だけの短期間という事もあった為、そんな面倒事も我慢が出来そうだと思った。





 そして、早川さんからどのような感じでリーフィと過ごせば良いかを一通り聞き終えた後、お母さんが仕事の為、この場を離れる時間が来た。


「それじゃあ由亜、リーフィの事を頼んだわよ」


「どこまで上手く行けるか分からないけど、出来る限りの事はやってみるよ」


 仕事場に戻ろうとしてこの場を離れようとしているお母さんは、車の運転席のドアを空けながら私に話しかけて来た。


「きっと分からない事だらけになると思うから、分からない事があったら私に連絡をするなり、早川さんに質問をして聞くのよ」


「わかった」


 運転席に座り窓を開けた状態で、お母さんは私にもう一度話しかけて来た。


「それじゃあ、またね。あと、リーフィちゃん、由亜と仲良くしてあげてね」


『わかりました』


 お母さんの声に反応をしたリーフィの返事を返す声が、私のスマホから聞こえて来た。


 そんな感じで、私とお母さんとのリアルでの久々の再開はあっさりと終わりを迎えた。





 お母さんが私達の前から去って行った直後、誰かが私達の方に向かって喋りかけてくる声が耳に入った。


「ともっちぃ~ 例の娘はもう来てる?」


 声のする方を振り向いてみると、そこには黒髪ツインテールヘアーの白い肩とへそ出しシャツとパンツの様に布地の少ない短パンジーンズを穿いた、私と同じ歳くらいの少女が早川さんに向かって手を振りながらこちらに向かって歩いて来ていた。


 その少女は、早川さんの下の名前である土萌を『ともっち』と呼んでいる事から、早川さんとは親しい関係がある人だと予想出来た。


「例の娘って、ここにいる由亜の事かな? だったらもう来てるよ」


 その少女の質問に答えた早川さんは、ポンッと私の右肩を振れるように叩いた。


「その娘が早川さんの言っていた例の娘だね。初めまして、私の名は火花晴ひばなはる


「はっ、初めまして。私は森崎由亜と言います」


 その少女の名は火花晴と言い、元気よく私に自己紹介をした。


「森崎さんが早川さんトコにいたリーフィと夏休み中一緒に過ごす人だね」


「えぇ、まぁ」


「この町に来たのは初めてみたいだし、おまけにリーフィの同行係も任されちゃ凄く大変だろうし、私も手伝える事があれば手伝うよ!!」


「あっ、ありがとう」


 初対面でまだ分からない事だらけではあるものの、見ず知らずの町で未知なるAIの育成を手伝ってくれるという言葉は、今の私には凄く有難く心強い言葉にも聞こえた。


「ひっ、火花さんはどうして早川さんのトコに来たの?」


「なぜって、そりゃあ森崎さんがこの夏の間宿泊する事になる旅館は私の実家だもん。それで、早川さんのトコに先に来ているであろう森崎さんをお迎えに来たっていうのが、私がここに来た本当の目的だよ」


「そうだったの!?」


 火花さんは、私がこの町で過ごす間宿泊をする旅館の娘であった。一応、この町に来る事になったのはお母さんに呼ばれたというのがきっかけではあるものの、肝心のお母さんは大学教授である以上多忙であるだけでなく、この町に住んでいない為、私はこの町にある旅館で夏の間滞在する事になっている。


「ところで、ここに来る時はどの道を通って来たの?」


「えっ、道ですか? 確か駅からあの道を通ってここに来たけど」


 私の旅行鞄を持った火花さんがどの道を通ってこの場所に来たのかを訪ねて来た為、私は自分が歩いて来た道を指で指した。


「なるほどね…… 森崎さんは駅からこの場所に来るのに山側を通って来たって訳だね」


「まぁ、その道の方が近いって、スマホで案内されたので」


 私がこの場所に来るまでに歩いて来た道を火花さんに教えると、火花さんは何かを考えている事があるかのような様子で頷いた。


「だったら、今度は海側を歩いて行こう!!」


「えっ、海側ですか!?」


「そうだよ。この町の最大の見所でもある海を見ながら宿泊する旅館まで歩いて行こうよ」


「まぁ、いいですけど」


 突然、火花さんが海側を歩いて旅館まで行こうと言って来た為、特に断る理由もなかった私は火花さんの案を受け入れた。


「じぁあ、そうと決まったら、さっそく行こう!! 旅館までの町案内も兼ねて行くから」


「よっ、よろしくお願いします」


 そして、私は火花さんに案内されながら町の海側を歩いて、この夏の間お世話になる旅館に行く事になった。


「じゃあ、後は若い人同士、仲良く楽しんでね。私は仕事の続きを行うから、晴、後は任せた」


「ともっち、ここからは私に任せておいて!!」


 私と火花さんのやり取りを見ていた早川さんは、仕事の続きをやると言いながら、家の中へと入って行った。


 早川さんが仕事の為、家の中へと入って行ったのを確認した後、私達も次の目的地である旅館を目指して歩き始めた。


「海側の道は山側の道と違って、遠回りになるから歩くのは少し大変だと思うけど、同じ道を歩くよりはずっといいと思うよ」


「そうなんですか?」


「そりゃあ、広い海を見ながら歩く方が良いに決まっているよ。そんな事よりも、早く行こ」


「そうですね」


 こうして、私は火花さんに海側の景色を見せてもらうのと同時に、この1か月の間お世話になる旅館まで目指して歩いて行く事になった。

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