百面相と百物語

@gudai22

第1話

第一夜   同調



 …ある夜、自分をだます日々に心底うんざりしていた。

深夜二時、雲に覆われた月と、高い空を見上げながらその日の出来事を思い返す。

挑戦と失敗を嘲笑う者たちに同調してしまった時の自分を。周りの人間に声色を合わせ、表情を整えていた自分を。


あの場では、ああするしかなかった。仲間の枠からはみ出ることが怖かった。とっさのことで深く考えなかった。……

そんな言い訳ばかりが浮かんできた。

本当は分かっていたのだ。これは共感なんてきれいなものではなく、自身を無理やりに捻じ曲げ、他者と己を欺いた同調であったのだということを。


人は弱い生き物だ、だからこそ集団になり大きく強くなろうとする。だが、その弱さゆえにときに自分と他者を欺いてしまう。その醜さはときに恨めしく、ときに愛おしく感じる。ふと気づいた。醜いものがあるから美しい景色は美しいと感じるし、まずいものがあるからおいしい食べ物はおいしく感じているのだと。

それは醜いものと美しいものが同時に存在しているこの世界のそのもののようだ。


だからこそ、この世界はクソだと思った。

嫌われるものは一生嫌われ、醜いものは一生醜いなんて不公平ではないか。早く滅びろと何度も、何度も何度も何度も願っていた。

こんなこと、口では言えない。醜いものに同情しているにもかかわらず、自分が醜いものになるのは怖かった。だから自身を欺いた。


人に欺かれることが嫌いだ。裏切られることはもっと嫌いだ。吐き気がする。

そう思っていた自分はどこへ消えてしまったのだろう。


今朝、笑われる対象がいつの間にか自分に移っていた。他人に裏切られて当然だ。笑われて必然だ。何より一番初めに自分を裏切ったのは自分自身だから。




「同調」とは言葉を変えただけの「裏切り」なのである。

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