とある爺

KO=李

似顔絵

「ワシの似顔絵を描いてくれんか」

 私が松山城のスケッチをしていると、そう話しかけてきた爺さんがいた。辺りは夕刻を迎えているがライトアップされているため人はそれなりにいた。

「いいですよ」私は快諾した。

 しばらくして爺さんの顔を描き終えた、太い鉛筆で荒く影を描き、消しゴムでハイライトつけた15分ほどで描いた適当な絵だった。これを爺さんに渡すといたく気に入ったようで500円ほど貰った。

 その時は日が沈んでおりライトアップも終わり周りにも人がいなくなっていたので帰ることにした。時計は21:00を回っていた。

 山を下りているとき、今日の爺さんのことを思い出した。顔が思い出せないのだ。声も思い出せない。書いている最中何度も見た顔なのに思い出せず、書いた記憶すらが曖昧になっていく。記憶の輪郭があやふやになり、背後の上に向いた山道はまるで地獄に向かっているような。静かに私を誘っている。果たして右ポケットに入れた500円玉はあるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある爺 KO=李 @komotoreimei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ