第一章 呪われた王国編
第一話
――三ヶ月後
「只今より、点呼を始める!!」
いつもの日課が始まった。俺たちは兵士……。いや、雑兵と言った方がいいか。
何にせよ俺たちに自由は無い。
「クリスチャン・レバーノ!!」
「はい!!」
「良い返事だ、貴様!! ご褒美をくれてやろう……。歯を食いしばれ!!」
パチッ!!
毎朝、頬を叩かれる。次は俺の番だ。
「次!! バルサ・クリス!!」
「はい。」
「貴様!! なんて小さい返事だ!! 貴様には、きついお仕置きだ!! 歯を食いしばれ!!」
パッチーン!!
俺は強く教官に頬を一発、どの学生よりも強く叩かれた。
こうして俺たちの一日が始まった。
ここはモラタ王国軍防衛大学校。通称「軍校」。
俺たち十八歳未満が通う兵士養成のための学校である。
全寮制。朝昼夜の三食付き。
貴族は上官コースで戦略を学び、平民は兵士コースで雑兵となるように訓練する毎日。
ここで俺たち赤紙を渡された男全ては王国のために喜んで命を落とす立派な兵士になるよう日々鍛えられている。
一人の少年が腕を滑らせて倒れた。
「貴様!! 何へたばってるんだ!! 貴様は腕立て三十回も出来ないのか!!」
俺たちは奴隷のように毎日叩かれる。
腕立て三十回? そんな二十セットやれだなんて、いくら勇者でも出来るわけない!!
俺はそう思いながらひたすらトレーニングをやらされた。
そして朝のトレーニングが終わったあと、教官の口からこう告げられる。
「次は貴様らの授業だ!! どうせ貴様らにとっては無駄な知識になるが、精々励むといい。」
俺たちはいっこうに終わらない地獄から一時的に解放されたのだ。
「ええ、今回の授業はバティストゥータ神話について進めたいと思います。」
授業が始まった。俺たちのほとんどはトレーニングがきつかったため、大半の生徒がほとんど聞いていない、いや聞けるような体力なんてなかった。
「昔、この世界では四つの種族が支配していたと言われています。天使、悪魔、ドラゴン、そして人間です。その中でも、ドラゴンはこの四種族の中で最も強いと言われており、……」
そもそも、なんで俺たちが授業を受けなきゃいけないんだ? 俺たちはいずれ近い将来必ず死ぬのに……。
でも、これは俺たちが最後まで生き残ったとき、困らないようにって最初の授業で言ってた気がするな……。
そんなことを考えていると講師からとんでもない言葉を耳にする。
「そして、この神話は間違いなく昔の出来事だということがわかりました。」
俺以外の学生は皆、その言葉に驚く。
俺はもう実物を見てるから驚くことなんてない。
「三年前、とある生物が遺体となって発見されました。その生物の見た目は神話の時代に描かれたものと一致し、そしてその遺体からこの生物だと断定しました。」
その生物の写真が黒板に張り出された。
学生たちはみな授業の釘付けになる。
俺は怒りで机をたたいて思わず立ってしまう。
「悪魔です。」
その人間そっくりな目、見たことのない翼。間違いない! 奴だ!
「こら、そこのあなた! 授業の最中ですよ!」
思わず立った俺に講師が注意した。俺は「すいません。」と言って再び座る。
「そっか! あなた確か動いている悪魔たちを見たことがあるんですよね? そして、あなたはその悪魔を払ったとか……。」
「村の全員は死にましたけどね。」
「ごめんなさい!! 私、ちょっと無神経だったと思います。本当に……」
「いや、いいですよ……。本当の事ですし。」
俺はその場をすんなりと終わらし、授業は再開した。
そして、なんか痛い視線が周りから来るな……。仕方ないか……。男だらけの授業で俺だけ女の講師と少しだけだけど話したからな……。
全ての授業が終わり、昼の時間だ。俺たちは決められた献立で貴族と同じ空間で昼食を摂らなければならない。
「おい!! 何しやがる!!」
「おいって何ですか?」
「何、肩にわざと当ててんだって聞いてんだよ!!」
「何言ってるんですか? それはあなたでしょ?」
「コノヤロー!!」
とある貴族が平民の肩をつよく
あーあ、また喧嘩か……。毎日やってるよな……これ。貴族と平民のいつもの奴ね。でも、大体貴族が勝つんだよな……。
「あなたがそう言うのなら私にも考えがあります。あなた、お名前は?」
「……ライアン・ロドリゲス。」
「では、父上にロドリゲス家をこの国から追放するように言っておきます。」
「!!!!」
ほら、言わんこっちゃねえ……。奴らに権力があるのに俺らが勝てるわけないだろ?
仕方ねえ。俺が行くとするか。
「おい、お前……」
「こらこら、ロバートソン? 何弱い者いじめしてんだよ?」
一人の貴族が貴族であるロバートソンに駆け寄った。
「申し訳ございません!! これはそのあそこの平民が……」
「あぁん? 何言ってんだ? お前が最初にやったんだろ?」
「本当に申し訳ございませ……」
「は? 謝る相手間違ってんだろ?」
「くっ」
そしてロバートソンはライアン・ロドリゲスに
「すまなかった……。」
と言って、その場を去った。
「何、横やりしてんだよ……」
「え? ああ、止めようとしてたの? わりーな、バルサ!! でも、お前が言っても止められなかったと思うぞ?」
喧嘩を止めたのはカリー・サンジェルマン。俺の古くからの友人だ。
王都で剣道場に試合できたのは彼の両親のおかげだ。彼の父と俺の父は幼馴染である意味、腐れ縁だ。
「それにしても、なんでお前があんなしょーもない喧嘩に突っ込んだんだ?」
「まあ、俺だって元々は下位貴族だったからな。そりゃ、身分の弱い人の気持ちもわかるさ。」
「そうか……。」
俺は頷くことにした。あっちの事情は知らないから首なんか突っ込めない。
「それでカリー、父さんは今お前のとこで何してるの?」
「あぁ、親父さんは国王のところに駆り出されたよ。親子のためならって言ってさ。」
「ふーん。」
俺は如何にも父らしい、そう思った。
そして長らくカリーと話した後、次の授業があるからって俺の目の前から去っていった。
その後、俺は一人で黙々と昼食を摂る。周りから視線を感じる。
決してボッチだからという視線ではない。俺が魔力持ちだからだ。
「よし、もうすぐ訓練だな。」
俺は食器を返却口に戻し、訓練の集合場所へと足を運んだ。
――夜九時 男子寮
「おい、いいのか? お前は冒険者になりたいんだろ?」
自室にいた俺はバルトルトにそう言われた。ここ最近、バルトルトは毎日俺にこの話を持ち出してくる。
バルトルト・ボスは俺のルームメイトで王都に行った時の試合仲間だ。最初は俺に軽蔑の目線を見せていたけど、今は大切な友人だ。
「お前が魔力持ちなのは知ってるけどさ。でも、お前が冒険者にならずに雑兵で死ぬのもおかしいだろう?」
「雑兵なのはお前も同じだろ? 俺もお前も別に好きで訓練してるわけじゃない。お前だって冒険者の基礎である剣術を極めたくてカリーの剣道場に入ったんじゃないのか?」
「それは……そうだけど……」
その時だった。
トントン……。
誰かが俺たちの部屋にノックした。
「ちょっと、出てくる。」
俺は扉を開けに少し動く。誰だろう? こんな時間に……。
俺は扉を開けた。すると、そこには一人の少女がいた。
ここは男子寮だろ?
そう俺が思った時、彼女はこう言った。
「父上を助けてください!!!」
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