水の底

そこは全て鈍延だった。鈍く、そして感覚も引き伸ばされる。温度、音、光ですら鋭さを無くし、微睡みのようなゆるさがあった。力が失わされていた。

もちろん自分自身も例外ではない。浮遊しているような、停滞しているようなそういう状態を強制される。動くのもままならず。ただそこに居るだけである。

そのうちに上も下もなくなった。だから上か下か分からないが一方に引っ張られていく。そこにつくとそれ以外の全てをあざ笑うかのように微細な粒が舞い上がり、ふわふわりと流動する。しかし暫らくすればその粒たちも逆らうことを忘れ、また元いたそこに帰っていく。

ある時、それまでとは相反するように自分自身が動き出す。コップに水を入れ続ければ溢れだすように少しづつの変化が許容量を超えた。少しの変化だった。

かつて引っ張られた方向とは反対の方向へ自ら進み出す。進めば進むほど、音や光が鋭さを増して五感を突き刺す。冷たさも次第に増し始めると、ついには体が衝撃と共に押し出された感覚があった。

大きなザァーっというノイズとともに無数の棒で体が突かれる。雨だった。停滞の場所から出てきた身には刺激的で、また同時に刺激が強すぎた。上に出てきた今、次は沈んでいくことがよくわかった。

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