穴掘り
真新しいグレーのレインコートが雨を弾かなくなり、びしょ濡れになっていた。空を見上げると雲から雲へと雷が走り、夜にも関わらずグレーの雲が一面を覆うのがよく見える。下を向くと雨だか汗だかわからないものが額を伝い目に入った。手に持ったスコップを地面に叩きつけるように刺すとレインコートの袖でそれを拭う。
雨降る冬の夜は不思議と寒くはなかった。むしろ汗で蒸れた背中が熱い。後ろに人が乗っかっているようなそれが不快だった。スコップを持ち直し、土を掘り進める。膝上ほどまで掘り進めた穴の中は雨によって泥のようにぬかるみ、足を取られそうになる。鼻に感じられるのは雨の匂いと土の匂いそれ以外はない。踏ん張りを効かせて土を掘り進める。外に小山ができるほど積み重ねられた土と疲れだけがどれだけ掘ったのか示している。
頭上がパッと光る。同時に雷鳴。どうやらどこかに落ちたようだ。穴もすでに腰の下に差し掛かっている。そろそろ潮時だろう。男は穴を上がろうとする。しかし穴の外から蹴り飛ばされた。男はスコップを杖代わりによろよろと立ち上がろうとするが、また蹴り飛ばされる。運悪く今度は頭をぶつけ、男の顔が血で濡れる。また立ち上がろうと手に持ったスコップを探すが見当たらない。
光、轟音。頭上にはスコップを振り上げる人影が見える。目の前に手を上げるがスコップが振り下ろされた。辺りにはスコップが土以外の何かを叩きつける音が数回響いた。その音が止むとしばらくして『ザクッジャッ ザクッジャッ』と土を掘り捨てる音が男が穴を掘った分だけ聞こえ、止んだ。青空が戻る頃、その場には雨に打たれたスコップが一本刺さっているだけだった。
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