短編集:雨の日の怪

北米米

潜むもの

 降りしきる雨が滝のような轟々としたと音を立て、瓦を濡らしている新月の晩のことだった。雨戸に打ち付ける雨が強くなった頃、畳の上で布団に大になって寝ていた男がはたと目をさました。男が眠気眼を開けると、障子の奥に人影が見える。のそりのそりと歩くその人影は、背が丸まったその姿は老婆かせむしな物乞いのようで、しばらく見ていると部屋に付けられた4枚の障子の真ん中で歩みを止めた。

 畳の上で寝ていた男はこれを見るなり、障子の向こうの誰かに気取られないよう静かに布団から這い出すと床の間にある飾り刀を手に取り、刀を抜くなり障子に斬りかかった。障子戸は斜めに斬られ、もちろんその先にいた誰かも斬られただろう。すぐさま男は刀を後ろに放ると障子戸を開け放つ。しかし誰もいない。廊下に出ると、ひんやりとした板材が足裏に触れる。注意深く左右に伸びる廊下を見るが誰もいない。

 下がるように部屋に戻る。すると後ろでドサリという音が聞こえた。振り向こうとするが体が動かない。声も出せない。

「ご馳走様」

その言葉が彼に届いたか否かのところで彼はこの世から消えた。

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