一章

■夢

 ブロックノイズが目の前を走っていった。目の前、というのだろうか。ぐるりと見渡せば、どこもかしこもノイズだらけだ。そうでなくとも薄ぼんやりと、霧中にいるかのように、景色に輪郭はないというのに。街のようだとも、森のようだとも、海のようだとも思うし、はたまた建物の中なのかもしれないが、まるで把握できない。


「――――」


 呼ばれた、と思った。

 前に視線を戻すと、そこには少女が立っている。

 ……何故少女だとわかったか、自分でも理解できない。風景と同じくノイズ塗れで、顔も、体格も、髪の長さも、色合いも、何もかも認識できないのに。


「――――」


 また、呼ばれる。でも声は聞こえない。耳を通っても、脳を掠めずに過ぎていく。光の雫のように透明な音。


 わからない、けど、知っている。


 自然と口が開いた。少女へと一歩踏み出す。

 舌が、少女を呼ぼうと回っ、て、




 ――ガアと、大音声が頭蓋を貫いた。

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