リアルタイム

matsuge

第1話


携帯電話の走りであるショルダーホンが誕生したのが1985年、そこから数々形を変化させ進化を続け今やスマートホンが当たり前の時代。


同時にSNSが猛烈な勢いで広まり、20××年現在では使っていない人はいないくらい生活の一部となっている。



ニュースを読むにも、SNS。

創った作品を発表するのも、SNS。


インプットもアウトプットもいとも簡単に行えるようになった時代。勿論、この話の主人公である優もユーザーの一人だが、便利になった反面少し複雑な気持ちもしていた。





ピコンッ






軽い電子音と共に画面が光り、なんだろうと

ソファに座りながら手を伸ばしてスマホを取る。



「あ、また新しい動画…」



指紋認証をクリアして通知画面から動画投稿サイトにアクセスした。



動画には今流行っているらしいアップテンポなBGMに合わせて踊る佐伯史也の姿。


180センチ近い長身で手足も長く、踊ると迫力がありお世辞じゃないけどかっこいい。

締めに見せる誰に向けたかもわからない微笑みに優の胸中はまた、曇っていくばかり。




ふわりといい香りが鼻を通り抜けたが、

それに反応もせずに動画を繰り返して流していた。



「ねえ優ちゃんコーヒー入れたけど、飲む?」


「…」


「おーいコーヒー飲む…って、俺だ」


「またフォロワー増えたんだね」




史也は二つのマグカップをローテーブルに置くと、嬉しそうに私のスマホを覗き込んだ。




「そうそう、もうすぐ1万人なんだ。

 気合入っちゃって、最近投稿増やしてるんだよ」



「でもこういうのって

 企業側に調べられてるんじゃないの?

 史也は本名でやってるし…四月から大丈夫?」



「あー…そのことなんだけど」





急に顔が強張る史也。

声のトーンと表情に、自然とこちらも体が強張った。

気まずい沈黙。

私は向こうの言葉を待った。




早くしないと、せっかく挿れたコーヒー冷めちゃうよ。と心の中で史也へ投げかける。



思いが伝わったのか決心が決まったのか定かではないが、ようやく重い口が開いていつもより小さな声で、それでもハッキリとした意志で彼はこう言った。





「俺、アイドルになる」





「…は?」



そしてまたしばらく二人の間を沈黙が流れるのであった。

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