第5話 大奥さん

 僕は直ぐに立ち上がり、大奥さんの背にタックルする。

 しかし、大奥さんはビクともしない。


 逆に僕は弾かれてしまった。

 恐るべし、武闘派の姑。


 大奥さんは僕に向き返り、まるで息子の嫁をナジルかのような目で僕を見ている。


 僕は考える。

 どんなに強くても、生物である以上は弱点を持っている。


 基本、全ての動物が持っている弱点部位、チン。

 チンは別名アゴという。


 大奥さんは強い。しかし、アゴに強烈な一発を受ければ、脆く崩れ落ちる。


 狙うはアゴのみ。

 だが、今のままでは無理だ。


 強烈な一発を入れるには、アゴの位置が高すぎる。

 綱渡りになるが、仕方がない。


 僕は構えた。

 大奥さんは大振りだが、素早く、破壊力があるパンチを振り回す。


 僕は一つ一つ何とかかわす。

 大振りのパンチの後には、少しスキができる。

 そのスキを使って僕は、大奥さんの膝に蹴りを入れる。


 スネを使ったり、かかとを使ったり、右足だったり、左足だったりするが、大奥さんの右膝のみを狙う。


 右膝にしたのは、さっきの左腕の一撃を放つ時、右足を踏み出しているのが見えたからだ。


 きっと右足の方が、ダメージの蓄積が大きい。

 そう信じるしかない。


 何度も何度も、何度も何度も僕は、大奥さんの右膝に蹴りを入れる。


 そんなのとを繰り返していると、大奥さんの動きが鈍くなっていることに気づく。


 最初こそ攻撃を受けたが、いくら強烈でも避けれれば問題ない。


 スネで蹴り、スネで蹴り、かかとで蹴り、スネで蹴り。

 繰り返す。繰り返す。


 大奥さんの息が上がっている……そしてその時は来た。

 大奥さんが右足に体重をかけた時、膝は重みに耐えられず折れ曲がった。


 僕はその瞬間を見逃さない。

 一気に間を詰めて、崩れ落ちてくる大奥さんのアゴに思いっきり膝を合わせた。


 ガコッという鈍い音を感じる。

 大奥さんは白目をむいて、そのまま前のめりに倒れた。


 僕は勝った。

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