第4話 ブタ
シッポは強敵だった。
できればもう戦いたくない。
相変わらず、目の前の人の動きを真似している。
今日、目の前にいる人は、頭にワッカを被り、手にはグローブを付けている。
両手を顔の辺りで構えて、片足は膝を曲げて浮かし、片足立ちしている。
ムエタイと呼ばれる格闘技らしい。
ムエタイは、肘と膝の使い方が他の格闘技とは違うらしい。
立技最強との呼び声も高いようだ。
今日もあの女の子は来ている。
ニコニコして、僕が動きを真似しているのを見ている。
そんな中、おじさんは女の子と一緒に来た女性と話し込んでいる。
女の子のお母さんだろうか?
「ケイレブ! ちょっと来い!」
女性との話が終わったようで、僕は呼ばれた。
もしかして、女の子とのデートの約束でも取り付けてくれたのだろうか。
「次の試合が決まったぞ」
現実は残酷だ。
次の試合は望んでない。
女の子とデートしたい……
そんな思いもむなしく、次の試合当日になった。
今日の対戦相手は……ブタだ。
二足歩行のブタだ。
上半身裸で、でっぷりと出た腹を抱えている。
取り巻きの数が多い。
種族関係なしに集まった感じがする。
おーくさん! おーくさん!
取り巻きはブタに向かって、おーくさんと言っている。
応援しているのだろう、皆でおーくさんコールをしている。
おーくさん……大奥さん? 女性なのか?
その割にはズボン履いてるだけで、上半身は裸だけど、恥ずかしくないのだろうか?
でも、大奥さんはやる気満々だ。
鼻息荒く、左手に右拳をパシパシ当てている。
武闘派の姑だろうか。
嫁が可哀そうだ。
「ファイ!」
そんなことを考えていると、試合が始まった。
念のために僕は、大奥さんと距離を空ける。
が、これは失敗だった。
大奥さんはドカドカと走り、跳んだ。
全体重を乗せて、身体ごと僕にぶつかってきた。
大きな衝撃を受け、僕は吹っ飛ばされる。
吹っ飛ばされた先にはロープが有り、僕が受けた衝撃を吸収してくれている。
正直助かったと思うのも束の間、ロープは僕を弾き返した。
弾かれた僕はスピードに乗って、大奥さんの元に飛んでいく。
すると、大奥さんは左腕を構えて、僕が飛んでくるのを待ち受けていた。
僕が飛んでくるなり、大奥さんはその太い腕を僕のノドにブチ当ててくる。
僕はそのまま宙を一回、二回、三回とクルクル回って、床にたたきつけられた。
油断していた。
僕は体を動かし、天を仰ぐ。
行かなければならない。
負けるものか。
僕はゆっくりと片膝を着いた状態になり、大奥さんを見る。
大奥さんは、人差し指と小指を立てた状態で左手を高く掲げ「ブーーー!」と観客にアピールしていた。
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